第十話「生まれ落ちた運命」
例のトラック激突による建物倒壊事故はTVニュースでも報道されたが近くにいた男の子は無傷、トラックの運転手も幸い軽症で済んで、大事には至らなかったと伝えていた。下敷きになったギャル子に関しては一部のメディアで『実験用のロボットが活躍?』だの『人を救ったのか?』だの記事にされていて、トランスフォーム型アンドロイドにより注目が集まっていた。もちろん、その情報は開発・製造している技術士にも知れ渡っていることだろうね。彼女らは善意の塊っすね、マジで。
ギャル子のその後に関してはパーツ損壊が著しく、メンテナンスが必要なため最高名誉技術士が再び桃咲家を訪れ、引き取りに来た。高性能ロボットが家に来て、たった1日経つか経たないかで壊れてしまったのはなんとも言えん…
「それでは失礼いたします。精密ロボットなのでメンテナンスには時間がかかりますが、終了しましたら、またそちらの方へお送りいたしますね。」
「技術士さんお願いします。ギャル子ちゃん、ここでお別れは寂しいけど元気になったらまた帰ってきてね。約束だよ!ぐすん…」
「コラ、あひり。絶対泣かないって言ってたじゃない?もう泣かないの!ギャル子ちゃん、またいつでも帰っておいで。お母さんも待ってるよ。」
「はいよ〜、ウチもあひポンとママさんとお別れでシクシクさんじゅうろくだけど、ぜって〜帰ってくっからよ。アディオス!!」
お互いにお別れの挨拶を交わした後、ギャル子はロリ技術士に連れられていき、桃咲家の玄関は閉じられた。
※
「001番機殿、実際に人間とコンタクトを取ってどうでしたか?」
「ん?感想聞きたいんすか?そりゃ〜、あひポンがすげ〜フレンドリーでさ、リアクションもおもろくて〜、ノリもよくて・・・なんつーんすかね…あひポンならずっと心に寄り添っていたいっていうか…喜ぶ時も怒る時も哀しむ時も楽しむ時も、その気持ちを分かち合って一緒に寄り添いたいっていうか…うーん、よくわかんねぇ〜す!」
「ウフフ、そうですか。ワタクシもあなたを生み出した甲斐がありました。その気持ち、忘れないでくださいね。」
「ういっす!」
ロリ技術士はギャル子からいい感想を聞けたのか、とてもニコニコした笑顔を見せている。本当に心から人々の幸せを願っているお方なんだなあと眩しいオーラを感じます。
駐車場に着くと車にギャル子を乗せ、用があるからとロリ技術士は再び桃咲家周辺へ。
「さて、今度はあの人に話を聞かないと…ですね。」
ロリ技術士は桃咲家の前にいた人物に視点を合わせ、近づいていく。その人物はこまろだった。
「あら、直接会うのは数年ぶりでしたっけ?」
「やはりあなたを信じたワタクシが馬鹿でした。001番機はあんな風に使うために貸し出したものではありません。」
「その件に関してはワタクシも少々反省しておりますの。そのために今、あひりさんのお宅に伺うところでしたのよ。」
「あなたは栗宮家のご先祖さまのお心得の意図を全然理解していません。くだらない矜持にばかり囚われて本当に必要なものは何かを忘れています。」
「ワタクシは最高名誉技術士であるあなたを高く評価してるのです。それと同時に妹であるあなた自身のことも気にかけているのですよ。『栗宮マロン』最高名誉技術士さん!」
な、なんと!あのロリ技術士はこまろお嬢の妹だとな!?大財閥家系に生まれた姉妹なのに、『悪の限りを尽くす令嬢』と『善の限りを尽くす令嬢』と性格真逆じゃないか!・・・どこで歩む道を踏み間違えたんだw
「・・・全く。一応、ワタクシの姉なんですから少しは改心していただけませんかね?早いところあひり様にも謝罪してください。それじゃ、ワタクシはこれで!」
マロンお嬢さんは呆れ顔でその場から駐車場の方へ帰っていった。
「・・・マロン、あなたは人が良すぎるのですわ。あなたのやっていることは善行の形をした滅私奉公。本来、幸せというものは満たされているコップから溢れ出ている水を他のコップに分け与えることでお互いが喜べるものですの。自分の持っているコップを破壊してその水を分け与える幸せなんて、本当に喜べるものではないのですよ。
それに人というものは強欲で傲慢な生き物、更なる富と権力を目指し互いに殺し合う。かつてあなたと同じように富と権力の分かち合いをしようとした人物はどうなったと思います?・・・『暗殺された。』…強欲で傲慢な人に。
ワタクシはあなたの身を案じているのです。まだ、分かってくれませんよね…」
妹が去っていった後にこまろは一人呟いていた。悪役令嬢といえどお姉さんだからなのか、考えが妹よりも遥か先を行ってるような気がしないでもないね。
※
小中学校皆勤賞だったあひりは例の事故のいざこざもあって、高校生活の初めでそれが途絶えてしまったようだ。今日はもう休めばいいのだが…今から学校に行くらしいです。高校入学したばかりなのに色々なトラブルに巻き込まれて大変ね〜w
「それじゃ、行ってくるね!…もう遅刻になっちゃうけど、学校サボっちゃダメだし。」
「あなたそういうところはマジメよね。気をつけて行ってらっしゃい!」
(ピンポーン!)
あひりが玄関ドアを開けると同時に訪問者が来たようだ。まあ、誰だかわかりますよね。そうです、こまろお嬢です。
「こ、こまろちゃん!?…お、おはよう・・・って、どうして私の家に?」
「おはようございますですの。…あひりさん、今回はワタクシの完敗を認めますわ。・・・それと…その〜…少々熱くなってしまってワタクシのせいで大事になってしまったこと、あなたと001番機に悲しい思いをさせてしまったことを謝罪させて下さい。本当にごめんなさい…申し訳ありませんでした。」
こまろさんがいつものキャラに似合わず、深々と頭を下げている。先ほど妹のマロンに色々と言われたことを少しは気にかけているのもあるのか、わりと素直でらしくないな…いや、いい事なんですけれどね。
「ええっ!?どうしたのこまろちゃん!ご、ごめんなさいって…何も悪いことしてないんだから頭上げてよ!・・・謝らないといけないのは私の方だよ!あの時、そばにいたのにこまろちゃんを救うことができなかったんだから…それだから、幽霊の姿で今私の目の前にいるんだよね?」
「…は、い??」
「ちゃんと成仏できるようにお墓参りも欠かさずするつもりだから、安心して。」
恐らく、あひりさんの頭の中では建物の下敷きになったのはこまろとギャル子の二人で、こまろは帰らぬ人となっているらしいです。でも仮にもそうだとすると、瓦礫の下から先に見つかったのはボロボロになったギャル子だったから、ギャル子のことで頭いっぱいでこまろガン無視だったのかね?…こまろさんなんか可哀想w
(このワタクシを勝手に亡き者扱いするなんて、随分と無礼ですわね…)
「あひりさん、ワタクシの手を握っていただけませんこと?…生きてますのよ、ワタクシ。」
「・・・あれ?ちゃんと握れる。本当だ!…よかった〜、こまろちゃん蘇れたんだね!あの世での行いが良かったからだね、きっと!」
死者蘇生を受けてこの世に帰ってきた扱いらしいです。まあ、こまろはこの世での行いは悪い気がするんですけどね〜。
「・・・ま、まあいいですのよ…それとお詫びといってはなんですが、あひりさんにこちらの品物を持ってきましたの。ただ、それを開封するのは放課後まで待ってもらいたいのですが…よろしいかしら?」
「えっ、私にプレゼント?欲しい欲しい。嬉しい!ありがとうこまろちゃん//」
「・・・ウフフ!(ニヤリ)」
いや、絶対なんかまた企んでるだろ!やっぱクズお嬢様じゃないか、コヤツはw!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます