第九話「当たり前に感謝しよう」
こまろトラップがまたしても華麗に回避されてしまい、今頃は監視カメラの向こうで顔真っ赤にしている(であろう)栗宮さんは次なるトラップに期待を寄せていた。
(こ、この次の仕掛けは前二つのとは違って、絶対に回避できませんわよ。次で彼女を仕留めますわよ!)
お母さんのコスプレ衣装(学生服)を着たあひりはリビングでギャル子と一緒に朝食の準備のお手伝いをしていた。今日の朝食は母オリジナル製フレンチトーストとコーヒーのようです。シンプルな朝食だけど美味しそうね。
「これでよしっと。あひり、配膳をお願いね!」
「あひポン、配膳はウチがやるから任せ〜!」
「えっ、ギャル子ちゃんいいの?じゃ、じゃあお願いするね。うーん…それじゃ私は洗い物するよ。」
自ら進んでお手伝いする感心な娘さんたちね。将来いいお嫁さんになりそう。
(001番機〜!)
「はいはい、今度はなんざんしょ?」
(うまく配膳を奪えましたわね。もう例の仕込みはされましたの?)
「ばっちぐ〜っす!…つか、これ大丈夫なんすか?やり過ぎると技術士おこおこしまっせ。」
(杞憂ですわよ。ワタクシも加減は考えていますの。)
何やら今までとは違う感じのトラップっぽいようですね。こまろさんは加減をしてるって言ってるけれど、ホントか〜w?
よくよく考えれば、ギャル子は人々に生きる幸せを与えることが目的で作られたアンドロイドだから、こういったことは内心気が進まないのだろう。最高名誉技術士のロリが桃咲家を訪問しにきたのも、高機能を悪用するこまろみたいなヤツを嫌っているからなんだと分かりましたわ。
※
「ギャル子ちゃん、配膳ありがとうね。あひりも洗い物終わったら食べましょう!」
「うん、もうそろそろ終わるよ。…ってあれ?ギャル子ちゃん、自分の分は?」
「ウチはアンドロイドだから食べなくても餓死らないから問題ナッシング〜。あひポンとあひポンのママ二人で分けてオタベ〜。」
「そ、そういえばそうだったね…ありがとうギャル子ちゃん!」
わざわざギャル系ロボットの分まで作ってたようね。
あひりも洗い物が終わって三者ともテーブル席へと腰掛け(内、一匹はおすわりし)、いただきます!をする。
(ウフフ、いよいよですね。ほまれさんのような可愛い可愛いお写真も撮らして頂きますわよ!)
「お母さんの作ったフレンチトースト、すごい美味しそう!・・・(もぐもぐ)う〜〜ん!やっぱりお母さんの料理は世界一だよ。」
「大袈裟よ、あひり。ほらほら食い意地を張らないで、ちゃんとコーヒーも飲みながら食べないと。」
「うん、そうだね。(ゴクゴク)・・・」
「うんうん、やっぱりパンにはこのコーヒーが一番だね♪」
「ウフフ、あひりの元気な笑顔みるとお母さんも嬉しくなるわ♪」
やっぱり仲睦まじい親子を見てるとこちらも幸せな気分になれますね。でも、くれぐれも時間は忘れないようにねw!・・・おや?盗撮カメラ越しのお方はなぜかアンラッキーな表情をしてるっぽいっすけど…
(えっ、どういうことですの?・・・001番機!!あなたちゃんと手違いなくやったんですよね?)
「ええ、寸分の狂いもなく任務遂行しましたぜ!」
どうやらこまろの新たなあひり打倒計画は難色を示しているっぽい。
「でも、お母さん。なんかこのコーヒー、いつものと違う感じする。」
「そう?いつも通り作ったんだけど?」
「甘さが足りない気がする…ちょっと味を調整してくるね。」
あひりは自分が飲んでいたコーヒーを持ってキッチンに入り、謎のキューブ状のものを5、6個カップに投下してスプーンで攪拌し始めた。
(何をやっているの?あの娘は・・・ワタクシの取り寄せたスペシャルシュガーカプセルで、あのコーヒーは糖度推定90%以上になっているはずよ!・・・あれで甘さが足りないなんて、嘘よ…絶対嘘よ!!)
あ〜、そういえばあひりが朝食で飲むコーヒーは激甘コーヒーでしたね。製造方法流出厳禁の。こまろさんはそこに勝負を挑んでしまったか〜、そりゃ負けるわ。…彼女の飲んでいるコーヒーは最早、コーヒーとは言い難い禍々しいものですからねw
これで三連敗ですね。栗宮お嬢さま今どんな気持ち〜?悪役令嬢が叩きのめされるって、ねぇどんな気持ち〜?(笑)
※
食事も無事何事もなく?終わり、あひりは歯磨きもし終わってそろそろ行ってきます!をするところ。ギャル子ちゃんは流石に一緒に連れて行けないので、お留守番。
(どうせ玄関の粘着トラップも回避されるでしょうから、次の仕掛けでなんとかあひりさんを追い詰めないとワタクシの立場がありませんわ…やっぱりワタクシでは・・・いえ、こまろ!弱気になってはいけませんわ。何としてでも…)
その次の仕掛けとやらがラストチャンスのようですね。それよりもこまろさん、あなたもそろそろ学校行く準備したほうがいいのでは?
「えっと、今日はこの靴で行こうかな。…これでよしっと!それじゃお母さん、ギャル子ちゃん、学校に行ってくるね。」
「行ってらっしゃい、あひり。気をつけてね。」
「あひポン、ガンバ〜!」
…まあ、これまでの彼女のトラップ回避率的に靴の裏に粘着剤トラップ程度じゃ引っかかるわけもありませんよね〜。今更だけど、こまろさんの仕掛けた数々のトラップってなんか悉くショボいよねw
いや、金と権力で大掛かりなもの仕掛けられても、それはそれで困り物ですけど・・・
(まあ、その仕掛けは今となってはもう捨てですわ。001番機!最終指令ですの。)
「うい〜す。マジでラストなんっすよね?」
(ワタクシに二言はありませんわ。001番機、その犬のテクスチャからこのワタクシのテクスチャに変更するのです。・・・これで方をつけますわ!)
「へいへい…」
ギャル子は渋々、送られてきたテクスチャデータを読み込んで姿形をこまろお嬢へと変えた。いや〜、ロボットもなんか色々大変ですね。レプリカこまろはあひりママにバレないように玄関を出て、通学中のあひりの尾行を始めた。
※
「この姿であひポンを尾行して、ここぞという時に攻め入る指示を出しますので。とか言ってたけど、指示が今までより曖昧だからどうすりゃいいんだ?…イミフだからとりま尾行しとけばいいっか。」
こまろ司令本部も混乱しているのか血迷っているのか、部下に出してる指示が曖昧でとても困惑している様子のギャル子。現実社会でもいますよね〜、朝令暮改で突拍子もない言動する上司がw
「あっ、猫ちゃんだ!可愛い…って逃げてった。そっちは危ないよ猫ちゃ〜ん!」
「!?・・・なんかヤバそう感めっちゃある…あひポ〜n」
ギャル子があひりを呼びかけしようと瞬間だった。通りに飛び出ていった猫がトラックと衝突…しかけたが運転手が急ハンドルを切り、スレスレで回避。・・・だが、トラックはハンドリングを奪われ、建設中の建物に激突。建物の一部が倒れてきて、その場所には小さな男の子が!!
「危ない!!」
轢かれかけた猫ちゃんを抱えたあひりが大きな声を出した。・・・っと、その横を黒い影が結構なスピードで通過していった。あひりはその姿に見覚えがあった。
そう、こまろだ!!
その影は小さな男の子を突き飛ばした。それと同時ぐらいに建物は豪快な音を立てて倒壊した。
男の子は無事。だが・・・
「こまろちゃーーーん!!・・・そ、そんな…そんな…」
何事かと近所のおじさん・おばさん方もワラワラと集まってきて、気がついたら救急車・消防車・パトカーのサイレンが騒がしく鳴り響き始めていた。あひりは涙で遮られた視界で倒壊した瓦礫を必死に掻き分けていた。そこから見つかったのは・・・透明な肌のロボットの頭部。建物の下敷きになったのはこまろではなく、ギャル子だった。
「ぐすん…ギャ、ギャル子・・ちゃん?・・・うわーーーーん!!」
(・・・ご、ごめんなさい。001番機…ごめんなさい…)
あひりは人目も憚らず、大泣き。電柱に設置していたカメラからモニタリングしていたこまろも悲しげ顔で『ごめんなさい』を何度も連呼していた。流石にそこまでクズなお嬢ではなく、人の心もある程度は持ち合わせているらしい。
「あひポン、泣くのは溶鉱炉にサムズアップして沈んでいくシーンの時にしようぜ!」
「ふぇ?・・・ギャル子ちゃん!ギャル子ちゃん!!無事なの?」
「アタリキシャリキコンコンチキよ!ウチ、完全無欠のアンドロイドでっせ。まあ、パーツ損壊は思ってたよりも酷いけどね。ウチも試作品段階にしては人助けに一役買えてバリバリ自己満ですわい。技術士さん褒めてや〜!」
「ぐすん…よかった…よかったーーーー!!(むぎゅ〜)」
「あ、あひポンちと熱苦しいぜ!・・・でも、雰囲気的にしばらくこのままでもいいんじゃね?」
周りの雰囲気まで考えられるトランスフォーム型アンドロイドさん、有能すぎます。
今回は『天の保護者』である私もうるうるでしたわ。モブこまろよ、あなたの負けです!反省なさい。
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