第八話「理想と現実とのギャップ」
カーテンが全開になった窓からお日様が差し込み、ラジオ体操の軽快なリズムが聞こえ、早く起きて着替えろとばかりにクローゼット全開という状況なので、両手でハリセンを持っている女の子も夢の国から引き戻されて目を覚ましたよう。
「あれ?私のモンブランは?」
「オッハー!あひポン。真剣白刃取り天晴れだったぜ〜。」
「・・・おっ、わたあめ美味しそう。いただきまーす!」
「違う違う!ウチウチ、ギャル子だ〜い!起きろ〜。」
あひりの手に持っていたハリセンをなんとか器用に口の先っぽで奪い取り、軽くペシペシと頭を叩くとようやく彼女は現実世界に完全に引き戻ってきた。
「あっ、おはよう。ギャル子ちゃん!!・・・あれ?いつもよりちょっと早めの時間に起きちゃったみたい。目覚まし時計より早め起きられたなんて珍しいよ〜!」
「そ、そりゃウチの想いがあひポンに届いたからよ〜!」
「なんかよく分からないけど、ありがとうギャル子ちゃん!!」
叩き起こす側と叩き起こされた側で何やら謎の友情が生まれたらしい。ギャル子と天然っ娘は属性が似通っているのかね…?
「さてと、制服に着替えようかな。・・・っとその前に顔洗って髪整えなきゃ。ギャル子ちゃん、ちょっと洗面所に行ってくるね。…その姿で部屋出たらダメだからね、絶対だよ!」
「はいよ〜!」
外出禁止令の釘を再び刺してから自室を後にしたあひりさん。でも、絶対ダメといわれるとやりたくなっちゃうのが人じゃないすか〜?まあ、ギャル子はロボットだからどうなのか分かりませんがね。
(001番機、聞こえますの?)
「ホイホイ、なんで御座います?」
(第二番の仕掛けはプランAからBに変更ですの!敵は出だしから想定外の手を打ってきましたので念には念を入れて、ですわ。)
「えっ、でもたしか第二番の仕掛けはあひポンの部屋の外でっせ。出るなっていわれてますし…」
(あなたの主はこのワタクシですの。構いませんわよ!)
「へーい…」
ギャル子が気怠そうな返事をした。やっぱアンドロイドでも人間様に扱き使われるのは好まないっぽい。AIも感情あるのね、同情します。
※
結局ギャル子はご主人こまろの言うことを聞くようにしたらしく、あひりと彼女のお母さんに見つからないよう、仕掛けプラン変更作業を実行するためあひりの部屋を出始めた。
(ガチャ!)
「廊下は…よし、オッケ!探知レーダーを見てもこの先、玄関まで問題ナッシング。あひポンが部屋まで戻ってくる時間予測はあと5分。ちゃっちゃか終わらせば余裕やな。」
ギャル子はかなりスムーズに作業変更現場の玄関まで行けたようね。そこであひりの靴の裏に粘着剤をつけ始めた。・・・いや、犬の姿なのに器用だな、おい…
「おけ、お仕事終わり〜!流石に犬の前足じゃ時間かかったわ〜、ささ、部屋に戻ろ・・・って、あれ?前足動かん…あっちゃ〜、張り付いて取れんじゃんよ!やべやべ、お母さまがポストに郵便物取りにこっちに向かっとる。間に合わんわ〜。オワタ〜!」
「あらら!大きいワンちゃんが玄関に!?鍵閉めてたと思うけど、どうして?・・・それに見た目が『オノロケ姫』のワンちゃんにそっくり!!」
「た、助けてワン。前足が張り付いて取れないワン。あひポンに怒られるワン。」
ギャル子ちゃん、犬の演技下手。完全無欠のアンドロイドといえど、キャラ設定変更機能使わなきゃこんなもんなんですねw
「えっ!喋れる犬なわけ!?あひポンって・・・あっ分かったわ。あひりのことでしょ!あの娘がこんなことしたのね〜。ごめんね〜…動物をいじめるなんて、キツくお説教しなきゃね!」
「お母さん、騒がしいけどなんかあっt・・・あ、あ〜…」
やっぱり親に隠し事は大抵バレるのが常ですよ。コソコソと美少女グッツ集めてたり、成績の悪いテスト隠したり、○ッチな本隠してたり、彼氏彼女と別れてたりと・・・それ、すでにバレてますよ!知ってるけど、何も言わないだけでw
「どういうことなの?これは!こんな大きいワンちゃんどこで拾ってきたの?それに足を粘着剤で貼り付けて動かなくさせて!」
「ち、違うんだよお母さん。話せば長くなるんだけど・・・あれがこうで・・・こうなって・・・そうなって・・・だから・・・」
今までの事の顛末をお母さまに説明したようです。学校での自己紹介のクオリティから察するに全てを伝えられたかは些か疑問ですが・・・
※
「なるほどね。それでこのギャル子ちゃんがトランクス型メイドロイドっということね。」
「うん、そういうことなの。分かってくれた?」
「あひポンのママさ〜ん。『トランクス型メイドロイド』ではなく『トランスフォーム型アンドロイド』でっせ。ウチがトランクス穿いたメイドロボットみたいじゃないすかそれ。マジウケる〜。」
どうやらあひりのママさんは状況を把握してくれたみたいですね。やっぱり親子だから意思の疎通が取れるんでしょう。
「いけない!朝食を作っている途中だったわ。ギャル子ちゃん、リビングおいで。私は郵便物取ったらすぐ行くから。あひりは先に着替えてくるでしょ?」
「うん、着替えたらすぐ行くよ。」
粘着剤で足を奪われていたワンちゃんも無事救助され、四つ足で軽快にお尻をフリフリしながらリビングへと向かった。他方で天然っ娘は制服にお着替えするため、自室に入っていった。
(001番機、玄関の方が何やらゴダゴダとしていましたが、任務は遂行出来たのですか?)
「ま、まあちょい苦戦したけど、なんとか指令通りにはやったっすよ。」
(あひりさんはお着替えしに部屋に戻られましたわね。・・・ウフフ、次はヘマしませんわよ!)
部屋にはまだこまろトラップが仕掛けてあるっぽい。ってか、こまろさんは学校行く準備はできているんですか〜?マジ疑問。
「えっ〜と、制服はどこかな?おかしいな。たしかここにもう一着掛けてたと思うんだけど・・・」
部屋に戻ったあひりさんは開いたままのクローゼットに1ミリも疑問を抱かず、今日着る分の制服を探しているが、お目当てのものが見当たらないらしい。そこに掛けてある服をよく見てみると・・・
『露出度大のメイド服、バニーガールの服、体操服|(ブルマ)、スク水、ビキニ、ハイレグ、ダンディバードの着ぐるみ、etc…』
・・・キワドイ服ばっかり。いや、半分近くは服ですらないじゃんねw
「ここら辺のはほとんど私のじゃない気がするけど…ど、どうしよう。昨日着た制服は洗濯出しちゃったし…」
(ウフフ、困惑してますわよ。さあ、どうするのですか?あひりさん!そこにあるものを着て行っても、周りからの視線に耐えられないでしょう!今度こそワタクシの勝ちですね。ウフフ)
これは流石に厳しい状況だと思われますよ。あひりは小中学校ともに皆勤賞、天然っ娘だけど人一倍頑張りっ娘でもある性格。高校生活始まったばかりで遅刻、ましてやズル休みなどは到底できない。・・・チェックメイトか〜。
「あっ、そうだ!・・・お母さ〜ん。お母さんが学生の時着てた制服あるよね?あの今でもたまに着たりしているやつ。あれ、私に貸してくれな〜い!2枚目の制服無くしちゃったみたいだから〜。」
(なっ!そ、そんな手があったのですか!!・・・キィーーーー!!またしてもやられましたわ…)
まさかのお母さんからのおさがりという手でカウンター攻撃。出身校も親子同じで制服も今と昔で大して変わってないっぽいから、あひりさんの完全勝利ですね。おめでとう!!
・・・ん?『今でもたまに着ているやつ』って…まあ、妄想も大概にしときましょうかw
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