第五話「リテラシーは身につけよう

入学二日目の初授業は国語・数学・社会の3教科だけ。只今、放課後で皆さん下校時刻です。用がないならさっさと帰りましょう。知らないおじさんが飴あげるって言っても決してついて行かないように!


「スマホっていいなあ。私も欲しい!ほまれちゃんとこまろちゃんも持ってるんでしょ?何だか二人とも楽しそうにやりとりしてるように見えるし。」


「いや、この人とやりとりしてて楽しいわけあるk・・・」


「楽しいですわよ、非常に!!ぜひ、あひりさんも持つべきですわ。高校生なら持っている方が何かと便利ですし。ご購入したのを教えていただけたら、ワタクシが初期設定いたしますの!ご安心を。」


「…あひちゃん。絶対こまろちゃんにスマホ渡したらダメだからね。個人情報もあったもんじゃないから…」


「・・・なんかスマホを持つのも色々大変なんだね…」


購入検討前に色々お勉強になって良かったね。ITが急速に進歩してきているのに比例して胡散臭い輩も沢山いるから注意しましょうね。


(ピコーン♪)


「あら?…『おめでとうございます!あなたは世界で5人の当選者に選ばれました。以下のリンクから必要事項を記入し、今すぐ1億円をゲット!!』ですって。ウフフ、それでは早速…」


「い、1億円!?凄い、こまろちゃん良かったね!!」


「・・・いや、どう考えてもそれ詐欺メールだろ。しかもそれ絶対分かってて騙されたフリしてるっしょ、あの娘。」


昔からよくある手法っすよね。最近は宅配業者やネットショップになりすまして、無視したら裁判起こすぞ!みたいな短気なお人が雑で支離滅裂の統一されてない文書で脅しをかけてくるし。未だに廃れていないということはまだ騙される人がいるからだろうけど。

ってか、こまろさん必要事項ポチポチ入力しているんですが…まあ彼女の事だろうから面白いおもちゃが見つかって嬉嬉としているんだろうね。いや、そもそも彼女にとって1億円なんてはした金だろうよ。


「送信っと!ウフフ、これで1億円はワタクシのものですわね。この業者さんはもう廃業でお気の毒でしょうけれど。」


「えっ!こまろちゃんホントに送っちゃたの?」


「送りましたわよ。栗宮と親交の深い然るべき機関に。もう二度とお便りが来ることはないと思いますわ。」


「・・・や、やっぱ恐ろしいわ。この娘…」


もしや、その頂戴する1億円は詐欺業者を『謎の力』で追い込んで得たリワードのことではないかと勘繰ってしまうんですが…(笑)

しかしまあ、悪役令嬢らしくない貢献もしてるものなのね、彼女も。社会的評価も高いという驕りがあるのも分かる気がします。





放課後教室でのスマホ話も終わって、ようやく下校する3人。帰り道は途中まで一緒らしいので、ほまれさん考案の遊びをしながら帰ってるっぽいです。


「ウム!説明しよう!ここのドブから我々のお別れ点まで水路が続いておるじゃろ?そしてここに様々な雑草が生えておる。もうお分かりだろう。そこで好きな雑草船を選び、先にお別れ点のゴールに着いたものをこのゲームの勝者とする。ルールは分かったな?それでは雑草船選び始め!!」


急に謎のゲームが始まってあたふたするあひりさんと暇潰し大好きなこまろさんはほまれルールに従って雑草船を選定し始めた。


「あっ、私この大きい葉っぱにしようっと。」


「フフフ、あひちゃん分かっていませんな!プロはこの細長い葉っぱを選ぶんですよ。こっちの方がスピードが早いんっすよ。」


「ワタクシも決まりましたわ。うまく編み合わせるの難しくて少々粗雑ですけれど、こちらで。」


「な、何それ…船じゃなくて巨大戦艦じゃんよ…」


とりあえず参加者三人は自身の船がそれぞれ決まったみたいです。蓋の開いた側溝にマイシップを構えてほまれの合図でゲームが開始されました。そして解説は私、『天の保護者』です。

まずトップを走るのはほまれ号、次いでこまろ号、ビリはあひり号です。


「見よ!これが小中学生の9年間このゲームの経験値を重ねてきたプロの腕前よ!ワハハ〜。」


「私のだけどんどん置いてけぼりにされてく…二人とも待って〜!」


ほまれ号、グイグイと二人を引き離していく〜!

おっと〜、この先は下り坂の傾斜。船の加速ポイントだ!スピード上げてけ〜上げてけ〜!・・・あっ、下りきった所にちと大きめな石が沈んでるんで気いつけてね。


「あらら、ワタクシの『ヤマト』が座礁してしまいましたわ。」


「うえ〜ん、私の船も坂の水の勢いに呑まれて沈んじゃったよ〜。」


「あっ、言い忘れてたけど船が動けなくなったらまた近くにある雑草船を調達して再開するのアリだから。勝者は最初にゴールした人だからね。」


どうやらゲームオーバーはなく、再挑戦できる制度らしいです。(解説者も今知ったw)

それを聞いてあひり船長が再び雑草船を探し始めている。一方でこまろ船長は・・・ん?スマホをポチポチといじって・・・んん?座礁した『大和』から電波塔のようなものが出現し・・・んんん??電波塔がすごい眩しく光ってバチバチ激しく音を慣らしている。


「エナジーアンテナ展開。パワーチャージ率100%。目標確認。衛星軌道よりターゲットにエナジーブラスター、ファイア!!」


(ズドーン!!という轟音と共に、ほまれ号は一瞬で跡形のなく消え去った。)


「・・・何、今の?ワタシノフネハドコ?」


「さて、ワタクシも再び船を探さないとですね。あひりさん、そちらに良さそうなお船はありませんこと?」


「うーんどうだろう?それよりもさっき物凄い大きな音の雷が落ちたみたいだよね。今日こんなに天気いいのに不思議だよね。」


結局このゲームの結果はほまれさんのあーだこーだの言い訳もあってか、無効試合になったようです。解説以上。





言葉通りの『青天の霹靂』があって中止となったゲームの後は三人はお別れ点でしばらくお話をしているようです。いや〜仲良いトリオっすね。


「こまろちゃんってお金持ちなのに徒歩で学校通ってるの?なんか高級な黒塗りの車で送り迎えされてそうなイメージするからビックリだな〜って。」


「言われてみればそうだね。自分で歩かず、それこそ使いの者とやらに送り迎えしてもらえばいいじゃん。」


「まあ、今回はたまたまですわ。ウォーキングをしなきゃ体も鈍りますしね。それにお二人の事ももっと知りたいですし。」


「・・・えっ!?」


こまろさんの口から意外な言葉が出てきたことに驚く三人(私も含めて)。その『二人をもっと知りたい』というのは単なる対象を辱めるためだけの情報を知りたいのか、それともその人個人のもっと人間的な部分(性格、好き嫌い、考え方など)を知りたいのか。どちらの意味で言葉を紡いだのかはこまろのみぞ知る。物語的には後者であって欲しいものだが…


「私もこまろちゃんの事もっと知りたい!高校って3年経ったらみんな別々になっちゃうんだよね?それまでにほまれちゃん、こまろちゃんといっぱいお話ししていっぱい遊んでたくさんの事を知って仲良くなりたい。そういうの青春?なのかなーって。」


「あ、あひちゃん…なんからしくないよ〜(ほまれさんシクシク…)」


「・・・!?(ワタクシの心をこれほどまでに揺さぶる人物は初めてですわ。どうやらあひりさんを思っていた以上にみくびっていたようですね…彼女は想像以上の強者。)」


あひりさんがそんなことを考えて学校生活送ろうとしているなんて…『天の保護者』である私もウルウルですよ。


「それじゃ、もうそろそろ帰らないと遅くなりそうだから帰るね。ほまれちゃん、こまろちゃんバイバイ!また明日〜。ノシ」


「あひちゃん、またね〜!」


「お気をつけて、シーユーダック!」


なんか入学初日に誰かさんが使ってたネタ流用されているんですけれど。しかもあひりさんには聞こえてなかったのか何も応答が返ってこなかったというオチで、またまん丸白目で棒立ちしているお嬢さま。


「私と同じネタ使ってるし…しかもコケてる…」


「ま、まあいいですの。彼女のお住まいは既にマークさせていただいてますから。」


「マークって、まさかあひちゃんの家に何か仕込んだのかアンタ!?」


「ウフフ、これから面白くなりそうですわね。」


・・・少しは改心したのかと思ったけれど、やっぱ悪役令嬢は悪役令嬢っすね〜w

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