第10話 テストを終え、夏を迎える

テスト三日目、俺は体操服に着替え、一人でグラウンドに居た。

正確には、一人ではないが。

「それで零先生。俺は何をすれば良いんですか?」

そう、目の前には担任の零碧先生がいた。

「よし来たな、神薙。お前には特殊な試験をしてもらう」

「特殊ですか?」

「ああ。試験内容は、私と戦う事だ?」

「はい?」

なんだそのバトル漫画的展開は。

「質問はあるか?」

「あのーいまいち意味が分からないのですが・・・?」

そんな疑問を投げかけると。

シュッ!!

先生の蹴りが顔の側まで来ていた。

「そのままの意味だ。私と戦え」

俺は、先生の言う事に従い、戦うことにした。

「じゃあ行くぞ」

「ちょっと!?ルールは!?」

俺の質問に答える事なく先生は、迫って来た。

「くっ!?」

先生は、確実に急所を突くようなものばかりだった。

それになによりも・・・。

「早いっ!」

「集中を切らすな」

「やべっ・・・」

ドンッ!!

「かっ・・・!!」

先生の蹴りは、確実に俺の鳩尾に蹴りを入れた。

「さてここで問題だが、何故お前はエンハンスを使わない?」

「はぁはぁ・・・。」

何で使わないかって使えないんだよ!!

なんだ?

これが先生のエンハンスか?

それだと単純に体術の勝負になる。

「ふぅ~。さてどうしたものかな」

落ち着け・・・。

冷静に戦え・・・。

「やる気になったか」

「なってないですね!」

とりあえずエンハンスが使えないなら、確実に蹴りを入れるしかない。

俺は、距離を詰め攻撃の当たる間合いに入った。

だが、攻撃の間合いはお互い同じなので一瞬でも気を緩めたら今度こそアウトだ。

「はぁぁぁ!!」

「・・・」

先生に攻撃の隙を与えないように、連続で攻撃するも躱され続けている。

「甘い」

「くっ!」

防御もされており、決定打が一つもない。

「どうしてお前だけこういう試験をしてるか教えてやろう」

「は?」

「お前と鬼月。GWに事件に巻き込まれただろ?お前の方はかなり瀕死の状態だったみたいだが・・・」

GWの事を知ってるのか?と聞こうとするが、まだ続きがあった。

「それより前にも、というか六花高校に入学する前にも色々巻き込まれてたみたいじゃないか。最近も強盗やカツアゲ犯にも」

「どうして知ってるんですか?」

「知っrてるとか知らないとかそこはどうでもいい。それでも聞きたいというなら、私がお前の担任だからとでも言っておこう」

「そうですか。じゃあ質問を変えます。それがこの試験に何の関係が?」

この巻き込まれ体質と試験は関係ないはずだ。

「お前は、そのエンハンスは疎ましいと思った事はあるか?」

先生は、俺に問いかけた。

「少なくとも俺はないですよ。俺のエンハンスを好きと言ってくれる人もいるんで」

小春とか・・・。

「そうか。じゃあお前は何の為にその力を使う?」

何の為って・・・そんなの決まってる。

「自分の為ですよ。他の誰の為でもなく、自己満足の為に使います」

「そうか。その気持ちを忘れるなよ。それで今回のこの試験の意味だが、お前の巻き込まれ体質の心配しての事だ。何も無ければ問題無いが、どこの主人公か知らないが何も無い方がありえないだろう。だから、お前にはエンハンスを頼らない戦いも知ってほしかったんだ。エンハンスは万能では無いからな。それに、お前の中学の担任だった白銀麗奈に頼まれているんだよ。神薙と鬼月を頼むとな」

「白銀先生と知り合い何ですか?」

意外だ。

あの先生にも友達が居たなんて・・・。

「まあな。腐れ縁というやつだ」

「そうなんですね」

「じゃあ試験は終わりだ。これから始まる夏休みは、平和に学生らしく過ごしたまえ。」

こうして俺のエンハンスの実技試験は終わった。

・・・試験は、完敗で幕を閉じた。





試験も終わり、今は小春と家に帰って来ている。

2人は、試験の話をしていた。

「それで月。試験はどうだった」

「まあまあかな」

「そう・・・。隠しごとをするのね」

「話します」



俺は、今日の試験の事を全て話した。

「そう。あの女が月を傷つけたんだ・・・」

「やめなさい。あの女って俺たちの担任だから」

「・・・これだから先生というのを信用できないのよ」

ようやく心を開きかけたというのに、俺のせいで・・・。

「小春、あの先生は俺たちの為を思ってあんな試験をしたんだ。俺たちがいつも何かしら事件に巻き込まれるから、戦い方を教えてくれたんだよ」

俺は、小春を落ち着かせるように言った。

「・・・分かった。月がそう言うなら。」

納得してくれたようだ。

「ねぇ頭を撫でて」

「良いぞ」

小春に心配かけてばかりだから、小春の為になる事をしてあげなきゃな。

なでなで・・・

「ふぁぁぁぁ」

「眠そうだな」

「気持ち良くて」

「寝る時は、自分の部屋で寝ろよ」

「分かってるよ~」

テスト期間中は、ずっと俺の部屋で寝泊まりしていたため今日もそのままの勢いで泊まりそうなのだ。

「ねぇ月。私、ここに住んだらダメ?」

「駄目だ」

「もうやることやったんだよ」

「やることやっても駄目だ。それに美沙さんに魁斗さんはそうさせない為に、わざわざ俺の部屋の隣に部屋を借りてくれたんだろ?」

「うん。だけど・・・」

「俺の事が心配なのは分かる。でも、そこまでしなくても大丈夫だ。」

そう言って断ろうとした。

「だけど・・・お母さんは良いって。」

「へ?」

今、小春は何と言ったのか?

「お母さんは、月の家に住むのは賛成なんだって。私の部屋の契約も今月いっぱいだから。月が断ると住む場所が無くなっちゃう」

こ、これが外堀を埋められるというのか。

「お願い」

「はぁ。分かったよ。小春を路頭に迷わせる訳にはいかないし。何て言ったって俺の彼女だからな」

もうこれは、諦めるしかないのだろう。

これで断ったら寝覚めも悪いし、逆に俺が何されるか分かったもんじゃない。

「やった♡じゃあ実質私は、月の奥さんね。ね!?ア・ナ・タ♡」

本当に正しい判断を俺はしたのだろうか。

多分、詰んでる気がする。

「ふふふ~ん」

「機嫌良いな」

こうしてテスト期間にも幕を閉じた。



俺たちは、そのまま一学期の残りを消化していき夏休みとなった。




「暑いな」

「暑いね」

「アイス食うか」

「食べる」

「というか何で俺たちは・・・海に来ているんだ?」

「さあ?」

「小春~月君~。若いのは良いけど、外でヤるのはおすすめしないわよ~」

「しませんよ!」

「しないの?」

「しないよ!!」

俺と小春は、美沙さんに連れられ旅行に来ていた。

時は遡る事、三日前・・・。



「小春って荷物は、基本的に服とかなんだな」

「うん。料理は基本的に月の家でしかやらないし。寝て起きるためだけの部屋みたいなものだから。」

「そっか」

俺は今、小春の引っ越しの手伝いをしている。

引っ越しというか半ば脅しで、俺の家に住み着くようなものだけど。

「月~。これ重いよぉ~」

小春が呼んでる。

「何が重いんだ?」

「この本棚~」

本棚には、たくさんの本が収納されていた。

ジャンルは、ほとんど少女漫画だった。

小春も女の子なんだなぁと思っていると。

『彼氏を監禁する方法』

『彼氏に内緒で、子どもをつくる方法』

『名前辞典』

やばいやばい!!

彼女の闇を垣間見た!!

「月?見ちゃったのね」

「はい!?」

小春が背後に立って居た。

「ねぇ。子どもの名前何にしよっか」

「それはじっくり考えませんか・・・?」

「そうだよね。性別が分かってからだよね。ちなみに私は男の子かな。」

「それはまたどうして?」

「月に似ているなんて、最高じゃない!!」

早くこの彼女をなんとかしないと・・・。

そう心に固く誓うと・・・。

ブーッブーッ・・・

「小春、なんか電話来てるぞ」

「あっ本当だ。」

小春のスマホに着信だ。

ちなみに、俺のスマホは無理矢理、機種変更させられたため、俺のスマホには小春の番号しか追加されておらず、無料チャットアプリにも小春の連絡先しかない。

ピッ

「もしもし」

『小春~。夏休み、海に行かない?もちろん月君も誘って』

「行く!!」





そうして俺は、鬼月家と旅行に来ていた。

だが、小春のお父さんの魁斗さんの姿はない。

どうやら今度は、海外に出張中なのだ。

忙しい中、俺なんかがこの二人と過ごして良いものか。

「ねぇ月。まだ感想を聞いていないんだけど」

「感想って・・・。ああ水着のか。似合ってるよとても。綺麗だ」

「うん!ありがとう!!」

黙っていれば美人というのはこの事だろう。

「今、失礼なこと考えなかった?心中する?丁度海あるし」

自殺の名所を生み出しに来たわけじゃないんだけどなぁ。

「俺は、小春の事が美人だなと思っただけだぞ」

正直に言った。

「ふぇ!?・・・不意打ちは駄目だよ」

顔を赤らめて言った。

「あらあらお暑いわね。私も若いころはこんな感じだったのよ~」

「そうなの?」

「ええそうよ。あの人ったらなかなか奥手でね。初めてのデートも私が誘ったのよ」

魁斗さんとは、何度か話したことあるが落ち着いた雰囲気の人だ。

口数も多い方ではないが、家族思いなのは確かだ。

「私たちは、月から誘ってくれたよね?」

「ん?ああそういえばそうだったな」

俺たちの初めてのデートは、中学2年の丁度この時期だった。

あの頃はまだ若かったからお互い、積極的では無かった・・・。

いや、そうでもないな。

あんまり変わらないかも知れない。





中学2年、夏。

世間は、夏休みというやつで、こんな時期に学校に来る奴はほとんどの人が部活だろう。

だが、俺は違った。

「白銀先生。これって本当にやって良い事なんですか?」

「良いの良いの。今のあなたは、私が養ってるようなものでしょ。」

「まあそうですけど・・・」

俺は今、白銀麗奈先生の手伝いとして教室の清掃をしている。

「にしても、ワックス掛けって業者とか呼ばないんですか?」

「金のある学校ならそうするだろうけど、何せここは違うからねぇ」

「そういうものなんですね」

俺は、ワックスとモップを手に持ち、教室の床にワックスをかけていた。

「鬼月さんは今どうしてるの?」

「今ですか?多分寝てると思いますよ。小春って夏は苦手みたいで」

「女の子だね~。日差しが苦手とか?」

「いえ、クーラーがガンガン効いているところで寝たいということです」

「あははっ!!可愛らしい理由ね。うん、そっちの方が好きだわ」

「そうなんですね。というか絶対俺たちじゃ終わらないでしょ。誰ですかこれをやらせるように指示した人は」

「教師なんてそんなもんよ。こんな事したって給料は増えもしないの」

「うわぁ」

俺と先生は、愚痴をこぼしながらも作業を進めた。

「そういえば、神薙君」

「はい」

「今日、祭りあるの知ってる?」

「知ってますよ」

今日は、この地域の祭りがある。

祭りというか花火大会だが、正直あんまり変わらんような気がする。

「鬼月さんと行って来たら?」

「んー。俺はともかく小春もインドア派だからなぁ」

あんなエンハンスを持っていながらインドア派なんだもんなぁ。

「それでも誘いはしなさいよ。これは先生というよりも一人の女性としてのアドバイスよ。そもそもデートはしたことあるの?」

「・・・ないです」

今どきの中学生ってデートとかするのかと思っていると。

「中学生だからってデートしちゃダメって事はないんだから。それにお金が無くても花火くらいは二人で見てみなさい。鬼月さんも喜ぶと思うわよ。」

白銀先生は、俺にアドバイスをしてくれた。

「先生は、デートってどんな事やるんですか?」

参考程度に聞いてみる事にした。

「餓鬼が。大人の世界に踏み込むな」

「急に口悪くなりましたね。美人が台無しですよ」

「嬉しい事言ってくれるじゃない。」

この先生は、彼氏がおらず独身なのだ。

今年で26歳になるようだが、男の気配が全く無いのがこの先生なのだ。

「神薙君は優良物件だよ」

「生徒に手を出さないでください。」

「漫画やアニメのようにはいかないものね」

「確かにそうですね。でも俺は別に良いんじゃないかとは思いますけどね」

誰が誰と恋愛しようと、好きならばそれでいいじゃないか。

「じゃあ私も神薙君狙おうかな」

「命が惜しくなければ。それに多分ですけど、俺は小春以外には靡かないと思いますよ」

「そこは断言しなさい」

「俺は無責任な発言はしないんで」

「中学生とは思えない発言ね」

「そうですか?でもまあ、とりあえず小春誘ってみます」

「ええそうしなさい」

たまには、彼氏らしい事やってみようと決意した。




先生の手伝い、もといアルバイトを終え、家に帰り着いた。

「ただいま~」

「ほはいり~(おかえり~)」

家には、アイスを食べてる小春が居た。

「小春?それ誰のアイス?」

「さあ。冷凍庫に入ってたやつ」

「俺のやつだよね?一人暮らししてんだから、俺のしかないよね?」

「あら私の家でもあるのよ」

「小春の家は隣だろ。ここは俺の家で、そこある冷蔵庫は俺のだぞ」

「あら?これって夫婦喧嘩?だとしたら燃えるわね」

「結婚してないんだから夫婦じゃないだろ」

「月は私と結婚したくないの?もし、したくないって言ったら・・・死のっか。二人で」

「心中かよ」

今日も絶好調という事は理解した所で本題に入ろう。

「なぁ小春」

「良いよ」

「まだ何も言ってませんけど!?」

「ふふ冗談だよ。それでどうしたの?」

「デートに行かないか?」

「ふぇ!?」

「今日の夜の花火大会に一緒に行かないか」

「行く!絶対に行く!!」

「お、おうそうか」

小春は、かなり乗り気だった。

暑いのと人が多いのが苦手だと思っていたが、こういうイベント事には参加したいのかと思っていると。

「月とデート~」

「すまんな。誘うのが遅れて」

「ううん。良いの。誘ってくれたことに意味があるから」

「そっか」

俺は、制服から私服に着替え、小春も着替えに一度自分の家に戻った。

というか、俺の部屋で何故、Tシャツ一枚で居られるんだ・・・?

「しかも俺のだったぞ・・・」





辺りは暗くなり、街も賑わって来た。

ピーンポーン

小春だろう。

「はい」

ガチャ

「ど、どうかな」

扉を開けた先には、浴衣を着た小春が居た。

「綺麗だよ」

「あ、ありがとう」

照れてる姿も可愛いな。

「ほ、ほら準備が出来てるなら早く行こ」

「そうだな。行くか」

俺と小春は、花火大会の会場へと向かった。



「それにしても、人多いねぇ」

「ああ・・・」

「月?」

「人多いな・・・」

「もしかして人酔いしてる!?」

「うぅ・・・」

俺は、人が多い所は苦手なのだ。

人が溢れかえっている所に行くと、気持ち悪くなる。

「ほら、人通りの少ない所に行きましょ」

「ああ・・・」

俺は小春に支えられながら、人の少ない所に行った。

「ほら、水呑んで」

「ああ。ありがとう」

小春から水を受け取り、水分を補給した。

「まだ気分悪い?」

「だいぶ落ち着いてきた」

「そっか」

「ごめんな。楽しみにしてたんだろ?」

「うん・・・。でも月と一緒にデート出来ただけ嬉しいから」

「小春・・・」

「じゃ、じゃあ飲み物買ってくるね。月は何が良い?」

「俺は水で良い・・・というか俺も行くぞ」

「月は安静にしなさい」

「でも」

「私が心配なのは分かるけど、大丈夫だって」

そう言って小春は、買い物に行ってしまった。

「あー情けないなぁ」







私は今、月の為に飲み物を買いに来たのだが・・・。

「ねぇ君一人?」

「俺たちと一緒に回らない?」

「あっもしかして友達もいる?じゃあその人も誘おうよ」

ナンパだ。

実際にナンパされたのは、初めてだけど全く嬉しくない。

こんな男たちにナンパされたところで靡くわけもないのに。

私はその男たちを無視して、飲み物が売ってある屋台へと足を進めた。

「ねぇ無視しないでよ」

「可愛いんだから一人じゃ危ないよ」

「俺たちと回ろうよ」

しつこい・・・

「ねぇねぇ」

「・・・」

「無視しないでよ~」

まだ言い寄ってくる。

「はぁ。私は、今急いでいるので。ナンパなら他を当たってください。あまりにもしつこいと警察呼びますよ」

これで諦めてくれるのだろう。

「ごめ~ん。でも心配でさ」

「そうだよ~」

「ほら、手を繋ごう」

男の手が私に近づいてくる。

「やめてください。あなた方のような汚れた手で触らないでください」

私は、男たちに言い放った。

「あ?」

「言うね~」

「お兄さんたちを舐めちゃだめだよ」

そう言って男たちが近づいてくる。

怖い・・・。

助けて・・・月。

「小春。大丈夫か」

「えっ・・・?」

私を呼ぶ声がした。






小春が飲み物を買いに行った。

「あー気持ち悪るぅ。よくこんな人の多い所に行きたがるなぁ」

人通りの多い方を眺めながら、感心した。

「というか、小春大丈夫か?普段、気慣れてない浴衣に履きなれてない下駄。・・・綺麗だったなぁ」

俺は、一人つぶやく。

「ん?この鞄、小春のじゃないか。財布は・・・あるし。あいつ何を持って行ったんだ。」

俺は、小春の鞄を持って後を追った。

「こっちの方だったよな」

小春の行った方向に向かったが、この人だかりの中探すのは大変だ。

「探索系のエンハンスがあれば、簡単なんだろうなぁ」

周囲を見渡し、小春を探す。

「ん?あの後ろ姿・・・。小春か?」

小春らしき人に近づくと何やら揉めていた。

「やめてください。あなた方のような汚れた手で触らないでください」

この声は・・・。

「小春。大丈夫か?」

「えっ・・・?」

どうやら合ってたみたいだ。

「ほら、小春。財布忘れてたぞ。何をしに行ったんだよ」

「月ぁ~」

小春が飛びついてきた。

「小春?どうしたんだ?迷子にでもなってたのか?」

「るなるなるな~」

小春の情緒が安定しない。

「あ?お前誰だよ」

「この子の知り合い?」

「彼氏か何か?」

そう言ってきたのは、高校生らしき男たちだ。

「小春がお世話になりました。俺たちはこれで」

さっさと退散しよう。

人が多すぎて吐きそうだ。

「おい、待てよ」

「話はまだ終わってないんだよ」

「舐めてんのか」

まだ話しかけてくる。

「何ですか?簡潔に済ませてください。吐きそうなんで」

やばい。

かなり上がって来た。

「うぜぇんだよ」

「正義感かよ」

「キモイな」

もう無理!

我慢できない!!

この場を立ち去ろうとした。

「待てって言ってんだろ!!」

ガシャン!!

鉄パイプが飛んで来た。

「危なっ!小春大丈夫か?」

うっ・・・。

急に避けたからまた気持ち悪く・・・。

「ねぇ。今の誰?月に怪我させようとしたのは」

小春が男たちに問いかける。

「何だ?お嬢さんがやるのか?」

「そっちの男は腑抜けか?」

「だっさ」

酷い言われようだが、まずい。

「そっか・・・」

ズドンッ!!

男の一人が小春に蹴り飛ばされた。

「てめぇ!!」

「調子に乗るなよ!!」

一人は、物を浮かし、もう一人は、瞬間移動のようだ。

「死ね」

小春は、浮遊能力者の方の顔を目掛けてハイキック。

「小春!」

小春の背後に瞬間移動してきた。

男の手には、ナイフを持っている。

俺はとっさに小春を庇うように後ろに立ち、瞬間移動してきた所に回し蹴りをした。

シュッ!

ドゴンッ!!

俺は、男に回し蹴りを当てたが腕にナイフが掠めた。

「っ・・・!!掠ったか。小春!大丈夫か!?」

「う、うん。月は・・・。ねぇその腕。私を庇った時に?」

「気にするな」

「気にする。ねぇ私を庇った時にあの男が切りつけたのね」

「切りつけたというか掠ったというか」

「月。はっきり言って。」

「分かったよ。はっきり言うぞ。落ち着け小春。俺は大丈夫だ。むしろお前を1人にしてすまなかった」

俺は、小春に頭を下げた。

これ以上、小春を刺激させないためにここを離れるべきだ。

「月」

「小春。とりあえずここから離れるぞ。これ以上大きな騒ぎになる前に」

「・・・分かった」

俺と小春は、先ほど休憩していた場所へと戻った。

男たちは、気を失っていたので放置してきたが、まずいかなぁ。

「月、腕見せて」

「ん?気にするな。とりあえず今は絆創膏でも貼っておくわ」

そう言って財布に入っている絆創膏を取り出そうとすると。

「月。早く見せて。死にたいの?」

「すみません」

大人しく小春に切られた腕を見せた。

「傷は浅いね」

「だから言ったろ。気にするなって」

「うん気にしない。私は、月を傷つけた奴を殺しても気にしない」

「それは、気にした方が良い。嫌だぞ、彼女が殺人犯って」

何とか小春の怒りを鎮めようとした。

「・・・ごめん。私のせいで」

「気にするな。俺が小春を1人にしたのが悪い。怖い思いをさせてすまなかった。」

「どうして月が謝るの?」

「彼女に怖い思いをさせたんだ。ごめん」

再び頭を下げた。

「馬鹿」

「そうだな」

「馬鹿馬鹿」

「ああ」

「私を1人にしないで」

「させるか」

「結婚して」

「今すぐは無理だな」

「じゃああの世で」

「出来れば生きている内にしたいな」

「じゃあ許嫁で我慢する」

「本当に良いのか?俺で」

「何を今更。私は昔から、そしてこれからも月のことしか好きにならない」

「そうか」

「うん」

その後、二人は静かに隣り合って座っていた。

「なぁ小春」

「なあに月」

「トイレ行って良いか?もう無理」

「私もついてく」

トイレに急行した。




ジャー!!

「はぁ・・・。スッキリした」

「良かったね」

「ごめんな。こんな予定じゃなかっただろ。もっと見て回りたかったよな」

小春には申し訳ない事をしてしまった。

「ううん。良いの。月がしたいことが私のしたいことだから」

「小春のしたいことは俺のしたい事でもあるんだぞ」

「結婚も?」

「・・・」

「・・・」

「それはちょっと」

「指輪は、8号ね」

「細いな」

「あなたもでしょ」

時間も19時50分となり、花火が上がるまで残り10分となった。

「良い感じの場所に行こうぜ」

「うん。でもそんな所って人多いんじゃないの?」

確かになぁ・・・。

でも、あそこは少ないはず。

「任せろ。多分だが人は少ない。ちょっと歩くけど良いか?」

「構わないよ」

俺たちは、ある場所に向かった。




「ここって・・・」

「穴場スポット」

俺たちは、高台に来ていた。

ここは天体観測で人気なのだが、今日は祭りという事もあって人は居ない。

「星、綺麗ね」

「そうだな」

2人で星を眺めていると。

ヒュ~ドンッ!

「わ~花火だ」

「そうだなぁ」

「私ね、こうして好きな人と花火見るのが夢だったんだ」

「そっか」

「うん。ありがとうね月」








時は流れ、現在。

「とまあこんな感じですね」

「あらあらそんな前からお暑いのね~」

「まだあの時の事、私気にしてるから」

「だからな、かすり傷一つで小春を守れたんだ。それでいいじゃねぇか」

俺はあの時のことを全く後悔していない。

強いて言えば、小春を1人にさせた事だけだ。

「あなたの傷は、私の傷でもあるの。もし月が傷ついたら、私も同じところを傷つけるから。覚悟してね♡」

「傷物にされちゃうのね!!」

「意味が違うと思うんですけど」

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