第9話 男の娘とは伝説の生き物である

季節は、移ろい、夏。

俺たちは・・・。

「月は勉強しないの?」

「夜からやるんだよ」

テスト勉強をしていた。

期末テストを明日に控え、勉強をしているのだが、俺は一夜漬けで点数を取りに行き、小春は入念に勉強して点数を取っている。

成績は五分五分であり、学年でも上位に位置している。

「ニャー」

「にゃー」

俺は、猫様と戯れていた。

いや、名前はもう決まっていた。

「シエル~。おやつ食べるか~?」

「ニャッ!」

そう猫様の名前は、シエルと名付けた。

「月、あんまりあげすぎないでよ」

「分かってるよ。ほれシエル様~」

おやつのをシエル様に献上していた。

もぐもぐ・・・

「ほぇ~可愛い」

「ねぇ月。シエルばかりじゃなくて私にも構ってよ」

「勉強の邪魔をしないのが俺のポリシーなんでね」

「あなたにかまってもらえないならもういいや。月、あの世で結婚しよう」

「申し訳ございません」

俺は、人生初の土下座をした。

「今度という今度は許さないよ。テストが終わったら覚えておいてね」

「はい・・・」

死刑宣告がなされた。

余命はあと、三日ほどだろう。

「それはそうと、はい月。クッキー作ったの食べて」

小春からの差し入れだ。

最近、小春に料理を教えてあげたらクッキーを作れるようになったのだ。

「美味しく作れたと思うから・・・食べて」

「・・・今度は何も余分なものを入れてないよな?」

「・・・」

図星のようだ。

小春とクッキーを一緒に作ってる時、私を感じて欲しいと思ったらしく、小春の体液を入れていた事があった。

食べ物を粗末にするなと言って止めたのだが、この様子だと今回も何かしら入れているな・・・。

「今度は何を入れたんだ?正直に言ったら食べてやらんこともない」

「実は!唾えk」

「よし自分で食べろ」

「ごめんってば!!でもあの女のクッキーは食べたじゃない!!」

「あれはなぁ・・・」




以前、あの女・・・扇野姫奈さんにクッキーを貰った事があった。

だがあのクッキーには実は・・・。

「神薙君!あのクッキー食べてくれましたか?」

「はい、美味しかったです」

「良かったぁ。実は隠し味を入れてたんだけど気付いたかな?」

「すみません。そこまでは分からなかったです」

「そっかぁ。じゃあ教えてあげるね。耳貸して」

「はい」

「実は・・・私の愛液が入ってたの・・・」

絶対的アブソリュートドレス!!」

ドゴンッ

それからは、修羅場でした。

扇野姫奈のエンハンスは、透視クレアボヤンス

これは、持っているものの透視以外にも相手の思考の透視もできる。

そのため、小春の動きも見透かされていて全く当たらない。

「小春、落ち着け」

「なに?月はあの女の味方をするの?」

「俺は小春の味方だ。それよりも頭を冷やせ。これは俺の落ち度だ。すまない」

俺は小春に頭を下げた。

「流石、神薙君。私のご主人様にふさわしい!神薙月様、私をあなたの奴隷にしてください!!」

扇野さんは俺に頭を下げた。

というかこの人なんて???

「首輪を私に着けてください」

やばい小春とはまた違うベクトルのやつだ。

「私がつけてあげるわ。女狐め」

「あら結構ですよ。あなたみたいな地雷女は必要ないです」

「殺す!!」

やばい小春がキレていた。

「死ね!!」

小春はエンハンスを使い、本気で扇野さんを殺そうとしていた。

「待てっ!!」

小春の蹴りを受け止め、制止を促した。

「落ち着け小春。それに扇野さんも煽らないで下さい。というか小春の事を悪く言ったら・・・俺がお前を蹴らなきゃですから」

扇野さんに忠告をした。

「はぁ♡是非!!」

逆効果だ。


それから猛アタックの日々が始まり、今に至る。

「月は、私のなのに・・・」

「はぁ・・・。分かったよ。」

「え?」

「はむっ」

モグモグ・・・

「食べてくれたの???」

「お前がそんな顔してるからな」

俺は小春のクッキーを食べた。

味は、何も問題もなく、いい出来だと思う。

「・・・何か恥ずかしい」

「お前が作ったんだろ!?」




夕食を終え、俺は勉強を始めた。

「ねぇ月ってどうしてその勉強法で良い点数が採れるの?付け焼刃と思わせておいて、模試とかでも良い点数だし」

小春が俺の勉強法を不思議に感じていたみたいだ。

「んー。模試って勉強しようがないというか、あれって学校のテストをしっかりやってればそんなに苦ではないだろう。学校のテストは授業を聞いてれば取れるし。だから授業を受ければ、テストの点数も良いし、その内容さえ忘れなければ模試でも多少は通用するだろ」

これが俺の勉強の理屈だった。

「でも一夜漬けでしょ?忘れないの??」

「これが忘れないのが俺なんだよ」

「不思議な脳みそね。」

「自覚はある」

そうして俺は一夜漬けを始めた。

小春は、日付が変わるころには、俺のベッドで寝ていた。

「・・・いや家で寝ろよ」

「すぅ・・・」

俺の声は聞こえなかったようだ。






翌日、学校へ行くと、教室でみんな勉強していた。

「神薙!ここ教えて!!」

「鬼月さんここ良いかな?」

俺と小春は、なんとかクラスに溶け込むことができ、クラスのみんなに勉強を教えていた。

小春も少しずつは心を開いているようで安心した。



キーンコーンカーンコーン

「席につけ」

予鈴がなり、みんな席に着いた。

テストは、三日間行われ、国数英理社の5科目それに加えてエンハンスの基礎理論やテスト最終日に行われる各能力に対応した実技試験が行われる。


カキカキ・・・

まあ筆記試験は勉強したし、赤点は採らないだろう。

小春に方も心配はないだろう。



こうしてテスト一日目は終わった。

放課後になり、今は小春と一緒に帰っている。

「それで月。どこに行くの?」

俺たちは、真っすぐ家に帰らず、寄り道をしていた。

「ドーナツ買いに行くけど」

「またなのね。テスト期間になるとドーナツ食べないと死んじゃうの?」

そう、俺はテスト期間になると必ずと言っていいほどドーナツを買って帰っている。

「糖尿とかそういうのには気をつけてよね」

「確かにそれは怖いよな」

「もし死ぬときは言ってね。私が手を下すから」

「マジか。でもまあ病気で死ぬくらいだったら小春に殺されるのも良いかもな」

「そっか。確かにそういうのも良いかもね」

あれ?

思ってた反応と違う。

小春の表情が優しく見えた。

「なんか小春可愛くなったね」

「ん?今までは違ったのかな?」

やばい。

変な事を口に出してしまったが最後・・・。

ぎゅぅぅぅ!!

「痛い痛い痛い!!」

「ふふふ」

今、俺は小春と手を繋いでいた。

というか握り締められていた。

「待って!!ごめん!!心の底からごめんなさい!!」

俺の右手が砕かれる前に必死に謝った。

「はぁ・・・。今日の所は許してあげる♡」

でも最近の小春は、料理の克服や人間関係の克服。

俺なんかよりも成長しているなぁ。

小春・・・俺にはやっぱりお前が眩しいよ。

「ん?どうかしたの?」

「いやなんでも無いよ。」

「えー」

俺たちは歩みを進めた。


ドーナツを買い終え、家に帰ろうとしたその時。

「助けて!!」

どこからか助けを呼ぶ声が聞こえた。

「小春!」

「はぁ。分かってるわよ」

小春は、あまり乗り気じゃなかった。

まあ面倒事にまた巻き込まれそうな気はするしな。

俺たちは声のする方へと向かった。

「月、何があっても絶対無茶しないでね」

「・・・フラグか?」

「そう。死にたいのね」

「すみません!!」

俺だって無茶はしたくないものだ。

「この辺ね」

「そうだな」

声のした方に着いたのだが、声の主はどこだろうと思い探した。

「あっ月!あそこ!!」

「あれか!」

小春が指さす方に、女の子が男に追われている人影が見えた。

「行くぞ!」

「ええ!!」

俺たちもそちらの方に走った。




「はぁはぁはぁ・・・」

まだ追ってくるの?

ここどこだろう・・・。

怖いよ・・・。

誰か助けて・・・。

「ちょこまか逃げやがって。もう追い詰めたぞ。さて観念してもらおうか」

「だ、誰か・・・」




「飛ばすぞ!!小春!!」

「ええ!!」

「飛んでけぇぇぇぇ!!純白スノーホワイト!!」

絶対的アブソリュートドレス!!」

小春を俺の足に乗せ、そのまま振り払い射出した。

「くたばれ!!」

ドゴンッ!!

小春は、男を蹴り飛ばした。

「ふぅ~。ねえあなた大丈夫?」

「は、はい!」

「おーい小春。大丈夫か?」

「うん!こっちは無事みたい」

良かった。

間に合ったようだ。

というか勢いでやっちゃったけど何だったんだ???

「ねぇあなたはどうして追われていたの?」

「実は・・・カツアゲされてて」

うーわいつの時代だよと思っていると。

「そう辛かったわね。あなた可愛いから気をつけないとだめだよ」

「小春?見ず知らずの人を口説いてるのか?」

「月とは違って私は口説いたりしません。それにこの子女の子よ。」

「俺だって口説いたことねぇよ。それに女の子ってのは見れば分かる」

髪はピンクに染めてて遊んでそうだなぁと思っていると。

「あの・・・僕・・・男です」

「ふぇ?」

「はい?」

「「ええええ!!」」

これが伝説の男の娘というやつなのか。

小春も受け入れられておらず驚いている。

「そうですよね・・・。驚きますよね・・・」

「驚くにも・・・えっ?本当に女の子なの?」

「男の娘って実在したんだな」

「あの・・・助けていただきありがとうございました。」

お礼をされるようなことはやって無いが、それよりもまだショックの方が大きかった。

「あっまだ名乗ってませんでしたね。僕は、恋塚真琴こいづかまことです。六花高校二年です」

恋塚さんは、恥ずかしそうに名乗ってくれた。

というか・・・。

「先輩だったんですね」

「そうみたいだね」

小春も意外だと思っているのだろう。

「えっ!?ああすみません!!」

「謝らないでください」

「そうですよ。恋塚先輩。私たちは六花高校の一年です。私は鬼月小春。そしてこちらが私の旦那の」

「神薙月です。あと小春の彼氏です」

俺は、小春に続いて自己紹介をした。

小春の紹介が少々違っていたので訂正させてもらった。

「それはご丁寧にどうも」

「それで恋塚先輩。この人ってお知り合いじゃないですよね?」

俺は、小春が気絶させた男を指さし聞いてみると。

「はい・・・。実は、私急いでて近道を通ろうと裏路地使ったら話しかけて、お金を要求されました」

俺たちは恋塚先輩の事情を聞いた。

「そういう事があったんですね。一応、気をつけた方が良いですよ」

「はい。そうします・・・」

「月、怖がらせてるよ」

「あっすみません!!」

「いえ・・・僕が男らしくないから」

恋塚先輩は、か細い声言った。

「ねぇ先輩は、それがコンプレックスなの?」

「え?」

「男らしくないってのは、嫌?」

小春は、恋塚先輩に問いかける。

男らしくない。

女らしくない。

小春にも思い当たる節があるのだろう。

俺は、そんな思いをしたことないから何も言えない。

言う資格がない。

「うん。だってこんな見た目のせいで、今回みたいなこともよくあるし・・・。この僕のエンハンス、人形遣パペットマスターいのせいで」

恋塚先輩も自分のエンハンス嫌っているのか・・・。

「そうだったんですね・・・。私も昔はこの力が嫌でした。こんな力・・・。だけどこの力を好きと言ってくれる人もいるんです。私はこの力を好きと言ってもらえる人のために使いたいと思ってるんです。だから先輩が嫌いでも誰かの為になるはずです」

「この力を・・・?」

「はい。だから自分を卑下しないでください。とりあえずまずは、私たちに見せて貰えませんか?」

「あなた方にですか?」

「はい」

「・・・少し待ってください」

恋塚先輩は、鞄から何かを取り出している。

「あった・・・」

「それは?」

恋塚先輩は、鞄から熊のぬいぐるみを取り出した。

「エンハンスで使うんです。行きますよ人形遣パペットマスターい。」

恋塚先輩が、ぬいぐるみに指をかざすと・・・。

「凄い動いた!」

「可愛いですね」

なんとぬいぐるみが歩き出したのだ。

「こんな何にも使えない力なんて・・・。」

「でも、この人の心は掴んだみたいよ」

「えっ?」

「凄いモフモフが動いてる!!」

「月は、可愛いのが大好きなんですよ。猫とか。ぬいぐるみも家にいっぱいあるの。」

「そうなんですね・・・」

「意外でしょ?これが神薙月って人なの。能力や見た目では絶対に判断しない。見た目より中身を見るってこういう事なんだと思える、そんな人よ」

「そうですか。何か勇気出たかも。後輩にここまで言われるとはね」

「恋塚先輩!!他にも動かせますか!?」

俺はこの能力をもっと見たいと思って聞いてみた。

「う、うん。できるけど」

「月、私はいつでもあなたの操り人形になるわよ」

「要らん」

「は?」

グギギギギ・・・!!!

「痛い痛い痛い痛い!!」

「はははっ!仲良いね二人は」

そうして俺らは、仲の良いと呼べる先輩が出来たのだった。









テスト二日目。

今日は理数系の科目があった。

カキカキ・・・

数式見てると猫撫でたくなるな・・・。

カキカキ・・・

もふもふ・・・

カキカキ・・・

もふもふ・・・

そんなこんなで、テストを終えた。



「小春はどうだった?」

「私は文系よりも理数系が得意だから」

「そういえば、そうだったな」

勉強に関しては、本当に正反対だなと思う。

俺は文系が得意であり、小春は理数系が得意だ。

勉強法も一夜漬けと日頃から行うといってかなり違うのだ。

それでも恋人として成立してるのがまた面白い。

「明日はエンハンスの実技よね?月の方は大丈夫?」

明日はテスト最終日。

内容はエンハンスの実技だ。

高校生になってから初めてだが、やる事は大して中学の事と変わらない。

小春は体力テスト。

俺は・・・なんだろう???

「月???」

「分からん。何させられるんだろうな」

「言われてないの?」

「全く」

試験内容は、前もって告知されてたりするものだが聞いていない。

「小春は聞かされてる?」

「うん」

「そっか」

あれ?俺だけ聞かされてない???

明日の試験が不安で仕方ない。

ブーブー・・・

「月、なんか通知来てるよ」

「あっ本当だ」

スマホを確認すると・・・。

非通知着信

「出なくて良いか」

「良いの?」

「非通知で電話に出る奴が珍しいと思うぞ。この前なんて番号が表示されてたけどしらない番号だったから調べたら、海外からの着信だったぞ」

「そんなのまで分かるんだね」

最近の端末は、どこからの着信か分かったりするみたいだ。

「でも最近よくかかってるじゃない」

「・・・どうして知ってるのでしょうか」

「そんなの見たからに決まってるじゃない。今更、何を言ってるの」

管理社会とはこの事なんだろうなぁ・・・。

「着信拒否とかした方が良いんじゃない?どこの女か分からないし」

前半部分に関しては賛成するが、後半に関しては何故分かる???

「女に限った話じゃないだろ?」

「分からないわよ」

「それはそうだけど・・・」

ブーブー・・・

またかかって来た。

「出てみるか」

「大丈夫なの?」

「多分」

俺はその電話に出ることにした。

ピッ

「もしもし・・・?」

『もしもし!!繋がった!ご主人様ですか!?私です、扇野です!!電話かけてたんですけど、出なかったので心配でした・・・。』

どうやら大量の着信は扇野さんからのようだ。

「いや、ツッコミどころが満載でどこからツッコめば良いのか分からないんですけど・・・」

どうして番号を知っているんだ???

『どうして知ってるかって考えてますね???そんなの透視したんですよ』

そっか。

そういえばこの人のエンハンスは、そんな事さえできるんだった。

『それでですね!!実は・・・!』

「貸して」

「小春?」

ピッ

小春が俺のスマホを取り上げ、電話を切った。

「私以外の女と話してそんなに楽しい?」

あっヤンデレモードだ・・・。

ドンッ!

俺は小春に壁へ叩きつけられた。

「しかもあんな雌豚とだなんて、あなたに相応しいのは私だけ。良いわね」

「は、はい・・・」

ちょっと小春を怖く感じた。

「ねぇ聞いてる?あなたは私のもの。誰にもあげないわ。あなたを幸せにするのも私。あなたを気持ちよくさせるのも私。あなたを満足させられるのも私。良いね」

久々にこんな小春を見た気がする。

「分かった。俺の全ては小春のものだ」

「うん。分かればよろしい。分かったら今から携帯ショップに行って買い替えましょう。お金は私が出すから」

「おい、そこまでしなくても・・・」

「何?あの女と話したいの?死にたい?」

「ひぇっ。小春に買ってもらうのは気が引けるというか・・・。もっと自分の為に使って欲しいんだけど・・・。」

「うん、だから私の為に買うのよ」

まずい。

ああ言えばこう言う感じになってる・・・。

「ほら行くよ。」

「ああ」

俺は小春に付いて行き、スマホを買い替えに行った。




・・・結局、明日の試験内容はなんだろう・・・。

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