第7話 ヤンデレの母もヤンデレである

GWも三日目となり、折り返しだ。

俺たちは、チェックアウトを済ませ、駅についていた。

「これから直接、小春の実家に行くんだよな」

「そうだよー」

「了解」

そう、今日は小春の実家に行くのだ。

「なんかお土産買っていくか」

「良いかもね。私も何だかんだ言って、久しぶりに会うから。」

俺は、中学生から一人暮らしをしていたのだが、それを心配して小春も俺の住むアパートの隣に引っ越してきた。

小春の両親は、別に止めることもなく俺の事が心配らしく小春の一人暮らしを認めたようだった。

「美沙さんって甘いもの好きだったよね。お父さんの魁斗かいとさんは、何が良いかな」

「んん~。お父さんもお母さんと同じで大丈夫だと思うよ。本当はお酒とかが良いんだろうけど、私たちじゃ買えないし」

「まあそうだな」

小春の両親には、洋菓子を買っていくことにした。

「じゃあそろそろ時間だな」

「そうね。買い忘れはないかなぁ」

「大丈夫だろ」

「そうね」

俺たちは、新幹線に乗り小春の実家へと向かった。

小春の実家は、俺たちの住むアパートからそう離れておらず、電車で2駅の所にある。

だが、新幹線の駅からは離れているため美沙さんが迎えに来てくれるそうだ。

「というか魁斗さんは家に居るのかなぁ」

「出張中ってお母さんは言ってたよ」

「そうなんだ」

挨拶はしておきたかったんだけどなぁ・・・。

「帰りは流石に何も起きないね」

「乗るたびにジャックされてたら、流石に引くぞ」

そんな事してたら会社潰れるぞと思いつつ、ちょっと警戒してしまった。

だが、そんな心配は不要で何事もなく、目的の駅に着いた。

駅に着くまで何をしてたかと言うと、俺は持ってきていた本を読み、小春は寝ていた。

「んんぅぅぅ。よく寝たぁ」

「おはよう」

「うん、おはよう~」

小春は、間延びした声で返事をした。

「駅に着いたから、さっさと出るぞ。美沙さんも待ってるだろうし」

「うん~」

目を擦りながら荷物を持ち始めた。





「小春~!!月君~!!」

俺たちを呼び声がする。

その声がする方に目を向けると、一人の女性が立って居た。

「お母さん~!」

「小春~!2ヶ月会えてなかったけど、何か綺麗になったというか何というか・・・。」

美沙さんはそう言って小春をじっくりと見ていた。

「ああ、ついに月君の女になったってとこかな」

「美沙さん!?」

「お母さん・・・(*ノωノ)」

「よくやったわ小春。これで月君は確実にあなたのものよ」

そう美沙さんは小春の上位互換とも言えるだろう。

見た目もそうだが、中身もそうなのだ。

この人もそう・・・。

「あっ月君。小春を捨てたら・・・どうなるか分かってるよね☆」

こんな事を笑顔で言ってみせるのだ。

「俺からは絶対に捨てることは無いですよ。俺の事を好きって言ってくれるのは小春だけですし」

「月君のそんなところが安心して小春を任せられるのよ」

そして、お母さんとしてはしっかりとしている。

「じゃあ二人とも、車に乗って~。家に行くわよ~」

「はーい」

「すみません。お願いします」

美沙さんの車に乗り込み、小春の実家へと向かって行った。





「よし着いたよ~」

なんがかんだで小春の実家に着いた。

車の中では、美沙さんに質問攻めされた。

小春の身体はどうだった?とか小春に対しては、月君のどうだった?とか。

根掘り葉掘り聞かれた。

「ただいま~」

「お邪魔します」

「はーい」

小春の実家は、二階建ての一軒家だ。

そもそも小春の家は、三人家族のため一人娘なのだ。

「荷物はどちらに・・・?」

「小春の部屋で大丈夫よ。小春も良いよね?」

「うん。良いよ」

「ねっ?」

「分かりました」

俺は、荷物を小春の部屋へと運んだ。

小春の部屋に入るのはこれで何度目だろう。

小学生の時は、何度かお邪魔したことがある。

その時から、部屋の散らかりようは異常で全く片づけされていなかった。

まあ片付けを出来なかったともあるが、わざとしなかったのだろう。

嫌なものを隠すために。

今は、もう帰省した時にしか使ってないため綺麗な状態だ。

「よいしょっと」

俺は荷物を下ろし、整理を始めた。

「じゃあ私着替えるね」

「おう。じゃあ出てるわ」

「うん・・・。別に居てもいいのに」ボソッ

「ん?何か言ったか?」

「ううん。何も」

「そっか」

後半何て言ったか分からなかったが、俺は小春の部屋を後にした。

リビングに行くと美沙さんが居た。

「あら月君どうしたの?」

「小春が着替えているので」

「それで出て来たの?まだ初心なのね」

「まあ恥ずかしいですね」

「ふふっ可愛い」

可愛いか?と思ったが口に出さなかった。

「あっそういえば、これお土産です」

俺は、駅で買ったお土産を渡した。

「あらあら気を遣わなくていいのに。でもありがたく受け取るわね」

美沙さんにお土産を渡し終え、そろそろ小春の着替えも終わる頃だろうと考えていると・・・。

「ねぇ月君。ちょっと二人でお話しない?」

どうしたんだろう。

「良いですけど、もうすぐ小春が来ると思いますよ」

「んー。大丈夫だと思うよ。小春だったら話に割り込むというよりも盗み聞きして後から聞いてくるタイプだと思うから」

それは、後々俺にダメージがあるやつだよね・・・。

「それでお話とは?」

「そうね。まずはありがとう」

美沙さんにお礼されてしまった。

「いえ!こちらこそ今回の旅行の件に関しましてはありがとうございました!!」

「ううん。私が言っているのはあの子を助けてくれたことよ。実はね、あの子が小学生の時の事はあなたに返しきれないほどの恩を頂いたわ。本当は親が守ってあげないといけないのに・・・。」

そういって美沙さんは、頭を下げた。

「その件は、言わないでください。俺は、ただの自己満足なんです。・・・片想い中ではあったものの好きな人が辛そうだったから助けただけですから。」

あの頃から、俺は密かに片想いをしていたのだ。

だが、助けた事で恩を売るような真似はしたくなかったため、俺は小春の告白を渋っていたのだ。

「月君のそういう所が安心できるのよ。あの子をこれからよろしくお願いします」

「こちらこそ幸せにしてみせますので、よろしくお願いいたします。」

「ふふっ、結婚の挨拶みたいね」

「それはお互い結婚できるようになってからまた挨拶に伺います」

「楽しみにしてるね。あと結婚してくれなかったら沈めちゃうぞ☆」

今までの真剣な空気が台無しだ・・・。

海かな湖かなと沈められる場所を考えた。

「それで小春。もう出て来ていいわよ。良かったわね、あなたの事はちゃんと好きみたいよ」

ガタンッ!

背後から物音がした。

ガチャ・・・

「る、月・・・」

小春が顔を赤くしながらリビングに入って来た。

「えっと・・・いつから?」

「あら月君、気付いていなかったの??割と最初からよ」

そうだったのか・・・

「・・・」

小春が静かにこちらに歩み寄り、俺の横に座った。

「小春さん???」

返事がない。

「あらあら小春ったら、月君が一目惚れしていた事に照れているのね。可愛いじゃない」

そっかぁそれも聞かれていたのかぁ。

「というか月君は言ってなかったのね」

「まあそうですね・・・」

恥ずかしくて本人には話せてない。

「じゃあとりあえずゆっくりしなさい。今、お茶淹れるから」

「俺も手伝いますよ」

「月君は座ってていいのよ」

「分かりました」

俺は、美沙さんの言う通りにして大人しく座ってることにした。

小春に関しては・・・。

「・・・」

まだ戻らないようだ。

「なぁ小春」

「う、うん」

「話した事無かったが、俺はあの時よりも前に小春の事が好きだったんだ。それまであんまり話したことなかったけど、佇まいが綺麗で惹かれていたんだ。だから小春がいじめられていると知った時、絶対に助けなきゃと思ってあんな事したんだぞ」

「そうだったんだ・・・」

「まあ後は、俺のエンハンスの威力を確かめるためだな。あそこまでやっていると、自分でもちょっと引いたわ」

あれは流石にやりすぎたなと思い返していると。

「ふふっ、そうだったんだ。」

どうやら正気に戻ったようだ。

「お待たせ二人とも。月君は紅茶よね。それで小春はココアね」

美沙さんは、何故か俺の好きなものも把握している。

多分、小春が言ったのだろうと思った。

「そういえば二人は学校はどう?楽しめそう???」

学校の様子を聞くところを見るとお母さんだなあと思った。

「まあ楽しいですね」

「私も月がいるから」

「仲良いわね。それで二人は友だちは居るの?」

「「ギクッ!」」

俺と小春は同じ反応をした。

「今、ギクッ!って言ったわよね。言葉に発する人を始めて見たのだけど」

「と、友達ですか???どこまでが友達だろうなぁ」

「そ、そうね。どこからを友達と言って良いのか」

分かりやすく慌てる。

「まあ小春に関しては、仕方ないけど月君はちゃんと友達を作った方が良いわよ。小春のせいで友達出来ませんでしたってのも私は母親としてしてほしくない。」

「小春のせいでは無いですよ。まだ時期がですね・・・」

「そ、そうだよ。まだ高校始まって一か月よ」

「もう一か月なのよ。」

美沙さんの言う通りだ。

高校生になりもう一月。

俺と小春は、教室でお互い以外に話す相手が居ないのだ。

「まぁ無理して作るものじゃないからね。好きなようにしなさい。あっ月君は女の子と仲良く話しちゃだめよ」

あぁなんとなく予想がつく。

「もしそんな事したら、私が制裁するからね☆」

美沙さんに制裁されるのか・・・。

「駄目。月は、私が始末するからお母さんは口出ししないで」

「ごめん!!俺から口出しさせて!!始末する前提の話はやめません!?」

挨拶程度でも殺されそうな勢いだ。

「実はねぇ旦那が出張しててね、もう我慢できないのよ。今も電話かけてるけど出ないし」

いつの間にそんな事をしてたのかと、美沙さんの携帯の履歴を除くと・・・。

不在着信999+

カンストしてんじゃねぇか!?

魁斗さん、早く出ないと死んじゃいますよ!?

「お母さん、流石にそれは引く」

小春が引いてる!?

「小春はどうなのよ」

「私はそんな事しないよ」

確かに、小春から鬼電されたことは無い気がする

「だって・・・盗聴k」

「ちょっとすみません!!家に帰らなきゃ!!」

ガシッ

小春と美沙さんに肩を掴まれた。

「どこに行くのかしら?何か必要なものがあれば私が買ってくるわよ」

「そうだよ月。何を慌てて、あっ下着の心配?私の貸すよ」

ダメだこの親子・・・。

「美沙さん、俺の必要なものはプライバシーです。そして小春、同性でもあんまりする事だとは思わないが、異性なら猶更下着の貸し借りはするものじゃないと思うが」

「じゃあ今脱いで渡すよ」

「要らん!!」

「それじゃあ私のが欲しいのかしら?」

「美沙さんも乗らないで」

この人本当に人妻なのかと疑ってしまう。

「というか盗聴器の事を流さないで!小春、マジで仕掛けているのか!?」

「うん。もちろん。それを私のおかずにしてるんだもの」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

彼女に本当に盗聴されていた。






盗聴発覚から数時間後、夕食も終えお風呂に入っていた。

「ふぅ~久々に一人でゆっくり浸かれるなぁ」

そう思った束の間。

ガララララ

「月」

「はぁ・・・」

小春だ。

「今どうして溜息したのかな?」

「いや、何でも」

「そう」

そのまま当たり前のように髪を洗い始めた。

というかタオルもしないんだな。

俺を男として見てないのだろうか。

「月の事は旦那として見てるから」

「ナチュラルに心を読むんじゃない」

にしても肌綺麗だなぁ。

「る、月。流石にそんなに見られると恥ずかしい・・・」

「お前のその切り替えはなかなかついていけない」







お風呂から上がり、リビングに行くと美沙さんがどこか出かけるようだった。

「どちらに行かれるんですか?」

「あら月君。今から旦那の所に行くのよ」

「そうなんですね」

今、魁斗さんは出張中なのだがこの人はそんな事は関係ない。

何故なら・・・。

「じゃあ行ってくるから小春の事お願いね」

「分かりました」

「うん。じゃあおやすみ」

そう言って、美沙さんは姿を消した。

美沙さんのエンハンスは、自分と同じものを身に着けている者の場所に移動する特殊な瞬間移動なのだ。

エンハンス名は、束縛バインディングリング。

その名の通り、美沙さんと魁斗さんは同じ指輪を身に着けているためそのリングを媒介としている。

結婚指輪がこんなヤンデレグッズになるとはなぁ。

「あれ?お母さんは?」

小春は髪を乾かし終え、リビングに入って来た。

「魁斗さんのところに行ったよ」

「いつの間に・・・」

「まあついさっき飛んで行ったところだ」

「そっか。流石に行動力あり過ぎるね」

お前が言うかとか思ったが口に出すと殺されそう。

「じゃあ寝よっか。今日も抱き枕になってね」

「いやあるだろ。実家なんだから」

「口答え?」

「えぇ・・・」








場所は変わり、どこかのホテルにて。

「やっほ。来ちゃった」

「なんで美沙はここに居るんだ???」

美沙は、夫の鬼月魁斗の泊まるホテルに突撃した。

「この指輪を身に着けてる限り、私はあなたがどこに居ようと追いかけるからね」

「怖いんだが・・・?」

「明日も仕事?」

「明日は休みだが?」

「じゃあ今晩は楽しめるね」

「疲れてるって言ったら?」

「寝てて良いよ。私が一人でするから」

「はい・・・」

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