第4話 予定というのは未定なものである
ピピピピピ!!ピピピピピッ!!ピピッ!
「うー朝か…。準備を始めよう。」
今日から待ちに待ったGW。
俺は、小春と約束した旅行の準備を始めた。
珍しく、俺がプランを練って宿の予約もした。
まあ繁忙期ということもあり、なかなか見つけるのも苦労した。
たまたま空いていたところに予約をし、準備万端な状態となった。
一応、2泊3日を予定している。
俺は、顔を洗い荷物を詰め、着替えも済ませた。
今は、4月末なのだが昼間はそこそこ気温が上がる。
そのため服装は非常に迷うのだ。
今日の俺の服は、白いTシャツに紺色のジャケットを羽織り、ジーンズを履いている。
オシャレかどうかは怪しいものだがこういった格好が多いのだ。
鏡でおかしな所がないか見ていると。
ピーンポーン
客人だ。
まあ一人しかいないが。
「はーい」
ガチャ
玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは。
「おはよう、月。準備は良さようだね」
「あ、ああ」
目の前には、白いブラウスにパンツタイプのジーンズを着た小春がいた。
小春は女子にしては身長は高い方で、こういった服装はとても似合う。
「それでどうかな」
小春が恥ずかしいそうに聞いてきた。
「ああ似合ってるよ。綺麗だな」
「ふふっ」
小春は可愛いと言うよりかは綺麗系って感じだ。
今日はいつも以上に美人な気がした。
「それで準備が出来たなら早く行こうよ」
「分かったよ」
小春に急かされ荷物を持った。
「じゃあ出発~」
「ああ」
荷物を持って駅に向かった。
目的地は新幹線で1時間くらいかかる温泉地なのだ。
GWという事もあり、駅は人で溢れかえっていた。
座席はあらかじめ予約しており、移動くらいはストレスフリーで行きたいものだ。
「全員動くな!!動いたら殺すぞ!!」
キャー!!!
ざわざわ・・・。
どうしてこうなった。
今、俺たちが乗っている新幹線がジャックされている。
「はぁ・・・」
「月、落ち込まないで」
せっかくの旅行が台無しだ。
というか、何が目的だ?
バスでも電車でもなく、何故新幹線なんだ。
ジャックしたところで自由は利かないだろ。
だとしたらよっぽどな理由があるだろう。
まあ俺は探偵じゃないから推理とかできないけど。
「さてどうしたものかなぁ」
「私たちは大人しくしておくべきだよね」
「当たり前だろ。人質の上、逃げ出すことも応援を呼ぶこともできない新幹線だぞ。時速300キロで走ってるから
そんな力なのだが、移動しているものに瞬間移動するのは困難なのだ。
「予約した時間までに間に合うかな・・・」
「無理でしょ」
「だよなぁ」
今から電話して、送れる事伝えた方が良いかなぁ。
「なんか速度上がってない?」
小春が窓の外を眺めながら、そう口にした。
俺も外を見てみると、確かに、移動速度が異常な気がする。
「あー暴走させてるのか」
「ねぇどうする?」
「どうしようもないだろ。今、犯人は操縦室にいるんだろ?それに何人いるかは分からないからな。」
「まあそうだよね」
でもこのままじっとしてても解決するか怪しい。
「はぁ・・・」
溜息をつき、俺は立ち上がった。
「どこ行くの」
「トイレ」
「嘘ね」
速攻で見抜かれた。
「漏らすぞ」
「あなたの命の方が大事」
「俺は尊厳の方が大事。高校生にもなって、漏らすって死んだも同然だ」
適当な事を言ってこの場を凌ごうと思った。
「馬鹿」
「自覚はある」
「大馬鹿」
「いくらでも言え」
「好き」
「それは不意打ちだな」
こんな緊急事態ってのに死亡フラグかよ。
「仮に、トイレに行くんだったら私もついて行くわ」
「駄目だ」
「あら、どうして?連れションでしょ。」
「それは同性の友達でする行為だ。」
「好意なんて・・・」
「馬鹿なのか」
「あなたに言われたくない」
こんな状況でも冗談が言えるとはな。
この新幹線は8両編成。
俺たちが居るのはちょうど真ん中の4両目だ。
犯人はこの車両にはいない。
おそらく、操縦室だろう。
そこから先頭に向かうのだが、挟み撃ちだけは非常にまずい。
「仕方ないか・・・」
「月、あなたが考えている事が多分最適解よ」
「でもなぁ」
「あなたは私を庇いすぎよ。たまには私にも戦わせて」
「分かったよ」
「うん」
俺の考えとは、単純明快。
二手に分かれて、この新幹線の安全を確保することだ。
敵が何人いるか分からない状態だが、これが一番効率が良いだろう。
「じゃあ俺は先頭車両に、小春が後部車両に。」
「うん」
「じゃあ無事でな」
「月こそ」
二手に分かれ、それぞれが車両の安全を確保しに向かった。
「さて単独犯か複数犯か。どっちかな」
小春と別れた後、先頭車両へと目指した。
周りを見渡すと、犯人らしき人は居ない。
乗客は大人しくしているという状況だ。
「ここには居ないか。次の車両だな。次は2両目か」
俺は次の車両へ向かった。
「ふんふんふ~ん」
私は後部車両へ向かっていた。
犯人が他に居ないかを確認するのが私の役目なんだけど、絶対に月の方が危険なのだ。
「さっさと終わらせて月の応援に行こう」
そう思い、私は足を進める。
俺は、2車両目に着いた。
乗客に紛れているかと思ったが、ここにも居ない。
「単独犯か?」
ん???
待てよ。
私は、6車両目に居た。
ここにも犯人の仲間と思われるような人は居ない。
「単独犯なのかな・・・。だとしたら月の方に行くのに」
とは言ったものの月に頼まれてしまったから、最後までやり遂げるけど。
あれ???
おかしい。
「「何で乗客はこんなに静かなんだ(なの)???」」
俺は、乗客に話を聞こうとしたが。
「ん?」
周囲がぼやけて見える。
まるで霧がかかったように・・・。
ザシュッ!!
「なっ!?」
全身が刃物に切られたように、血があふれ出た。
「っ!!」
身体を見ると全身に切り傷が出来ている。
「ちょっと厄介だな・・・。だが、残りの乗客は?」
周りを見渡すと、負傷しているものは居ないが。
何かがおかしい。
「俺の事を認識していない?」
さっきから気になっていた。
新幹線がジャックされているのに、静かすぎるのと俺らが歩き回っているのに見向きもしないなんておかしすぎる。
「気付いたな」
「あ?」
いつの間にか、目の前に金髪の男が現れた。
「誰だお前?」
「人に名前を聞くときはまずは自分からだろ?」
まさかこんなやつに常識を説かれたみたいで腹が立つ。
「俺は、神薙月」
「そうか。俺は、ジョー・ハート」
金髪の男は、そう名乗った。
「お洒落なファミリーネームじゃねぇか」
「貴様こそ所謂キラキラネームというやつだろう」
「あいにく気に入ってるんでねっ!!」
足元にあった荷物をジョーに蹴り飛ばした。
「目くらましのつもりか?」
「くたばれ!」
俺は懐に入り、鳩尾に蹴りを入れた。
だが・・・。
「感触が無い・・・」
俺の蹴りは空を切った。
さらには・・・。
プッシャァァ!!
「うっ!!」
まただ。
霧が目の前を覆ったと思ったら、全身が傷だらけとなっている。
だが、謎は一つ解けた。
「そうか。それがお前のエンハンスか」
「ほう気付いたか」
「お前のエンハンスは自分の身体を霧にし、その霧は高速で運動をし、ウォータージェットのように切断する。だが、一撃で殺せないのは何か理由があるのか?」
やろうと思えば、最初の一撃で良かったはずだ。
あの能力は、何か制約があるとしか考えない。
「そこまで気付いていたのか。そうだ俺のエンハンス、
奴のエンハンスの制約はそれだったのか。
「なるほどな。それで俺を殺さなかったのか」
「まあそのままだと、大量出血で死ぬだろうな」
確かに、このままだと俺は確実に死ぬだろう。
「だが、ここで俺が死んだら自殺をする奴がいるんでね。それだと約束を守れなくなるからな。ここで死ぬわけにはいかないんだよ。」
小春と約束している。
大人になったら結婚しようとな。
「かっこいいじゃないか」
「ありがとうな」
俺の身体は血を流しすぎており、立つのもやっとだ。
「最後に聞いておきたい。お前はどうしてこの新幹線をジャックしたんだ?」
最初からこの新幹線ジャックは目的が分からなかった。
入念な計画が無ければ、こんな大掛かりなエンハンスも使わないだろう。
「まあ答えてやってもいいが、俺からも聞きたい」
「何だ」
「何故お前は催眠が効いていない?」
「あ?」
神薙月がジョー・ハートと戦っている一方、鬼月小春は6車両目に居た。
「みんな乗客は、私を認識してないみたいね」
この新幹線をジャックした犯人のエンハンスだろうと予測し、先へと進んだ。
7車両目に着くと、そこも来る途中と同じような様子だった。
「本当に単独犯なの?」
そう思いながらも最後の車両に向かった。
最後尾の車両、そこには綺麗な女性がいた。
金髪で碧色の瞳をした人形のような人がいた。
「あの~すみません」
こちらを認識しないだろうと思いながらも話しかけてみた。
「っ!?」
驚かせちゃったみたいだ。
「ごめんなさい。急に話しかけて。ただどうしてあなたはここに居るのかな?」
「何であなたは私が見えているの!?」
「えっ?」
普通に会話をしたけど、今の私はどういう訳か周りに認識されていない状態だった。
「あなた何者!?」
「私は鬼月小春と言います。それであなたは?」
「アネット・アン・ヒルよ」
まさか普通に返してくれるとは。
「それであなたは、このジャック犯のお仲間かしら?」
「そ、そうよ。それで私の質問にも答えて頂戴。どうしてあなたは、私の催眠が効いてないの!?」
そうか。
乗客が認識していないのは、催眠のエンハンスによるものみたいだ。
「さあ?私もどうして乗客は私を認識していないのか不思議だったの。まあそれは今解決したのだけど」
催眠のエンハンスとは厄介な力・・・。
「まあ良いわ。あなたを倒せば問題ない!!
アネットはさらにエンハンスを使い、私に催眠をかけた。
一瞬めまいがして、アネットの方を見ると、姿が消えていた。
その代わり、目の前には私の愛する人、神薙月が居た。
「小春、おいで」
月が私を呼び寄せる。
「おいで」
私は呼び寄せられるように近づく・・・。
「小春」
「月・・・。
「なっ!」
ドゴンッ!!
私は、月に向かって回し蹴りを食らわせた。
「かはっ!」
アネットはそのまま吹っ飛び、吐血していた。
「そんな催眠が私に効くと思ったの?あなたの間違いは、月に変装したのが間違いなの。多分だけど、五感さえも催眠にかけたのだろうけど、そのくらいじゃ駄目よ。何て言ったって、私は月を殺す覚悟があるんだもの」
「はぁはぁはぁ・・・。自分の愛するものを殺すの・・・?」
「そのくらい愛しているのよ。他人に殺させるよりかは私が手を下す。それに、何度か殺そうとしたんだもの」
「歪んでる・・・!!」
「そうよ。私の愛は歪なの。それをたかだがあなたのような三下に汚されたんだから、死ぬ覚悟は出来てるかしら?」
「ひぃ!!」
起き上がろうとするアネットを私は追い打ちをかけるように、もう一撃食らわせようとした。
「ねぇあなたの目的は何?」
今回の件を引き起こした動機を聞く。
「私はあの人の役に立つため」
「あの人?」
「私が愛する人よ」
「そう・・・」
この人にも愛するものは居るんだ。
「でもどうして!あなたは催眠が効かなかったの!?」
確かに、何でだろう。
場所は変わり、神薙月とジョー・ハートが戦う2車両目。
「最後に聞いておきたい。お前はどうしてこの新幹線をジャックしたんだ?」
「まあ答えてやってもいいが、俺からも聞きたい」
「何だ」
「何故お前は催眠が効いていない?」
「あ?」
そうか。
乗客が俺たちに無反応なのは、催眠のエンハンスによるものか。
だが、確かに俺と小春は別に何ともなさそうだ。
「さあな。催眠に関しては今言われて気付いた」
その言葉に噓偽りはない。
「そうか。それで俺の目的だったな。俺はある男を殺すためにこの新幹線を乗っ取った。」
怨恨によるものか。
「それである男って」
「俺の愛する人を殺した奴だ。ほら、貴様の横に座っている男がいるだろう」
俺はジョーの言う男を見た。
その男は、およそ30代くらいの男性で、人を殺しそうには見えなかった。
「人は見かけによらないとはよく言ったものだ。この男が俺の愛するものを殺し、平然と生活しているのだ。」
「でも警察があんたの愛する人を殺した犯人を捜しきれなかったのか?」
そこまで警察は無能ではないだろうと思った。
「もちろん捕まった。だけどそれは、そいつのエンハンス、身代わり《スケープゴート》によって自分の代わりのものを犯人に仕立て上げたのだ」
「そんな事があったのか・・・。でもこの計画が成功する保証無いんじゃないのか?」
そんなエンハンスだったら殺される事にも身代わりを立てるのではないか。
「そいつの能力は、身代わりたい人物をその時に指定しないと発動できない。つまり、この新幹線で全員を殺せば、身代わりさえも無くなる。もちろん俺も死ぬつもりだ」
最早、テロ行為と同じだ。
そんな計画の為に、乗客全てを皆殺しなんてな。
「じゃあ猶更止めないとな。さっきも言ったが、俺はここで死ぬわけにはいかないんでね。」
この計画を何としてでも止める。
「なぁあと一つ聞かせてくれ」
「何だ?」
「あんたの共犯者、この催眠をかけたのは何者だ。」
こっちに居ないとなると、おそらく小春の方に居るのだろう。
「アネットは、俺の愛する人の妹だ。あいつも俺の為に命を賭けてくれた」
「そっか・・・。聞きたいことはもう無いけど、あんたは?」
「俺も無い」
「じゃあ終わらせるぞ」
「来い」
攻撃できるのは、あと一回が限界だ。
これが決まれば生、外したら死。
この一撃に全てを賭けよう。
「
「
俺は、真正面からジョーを捉え、飛び蹴りをした。
だが、ジョーのエンハンス
「これで貴様の終わりだ!!」
霧が俺の身体を覆う。
「・・・捉えた」
俺は、飛び蹴りをした後そのまま手を地面に着き、遠心力を使って脚を大きく回転させ、背後にいるジョーに回し蹴り。
「はぁぁぁぁぁ!!」
ドゴンッ!!
「ぐはっ・・・」
その蹴りはジョーの身体にヒットし、そのまま後ろの車両へと蹴り飛ばした。
「はぁはぁはぁ・・・」
同時刻、鬼月小春とアネットのいる車両。
「私がどうしてあなたの催眠が効かなかったのかは、正直私にも分からない。だけど、今の私には関係ない。私が許せない私の愛する人に化けて汚した事なの」
私は、横たわるアネットを踏みつぶそうと脚を振り下ろそうとした瞬間。
ドンッ!!
「何!?」
後ろで何かが飛んで来たような音がした。
音の方を見ると、金髪の男が倒れていた。
「ジョー!!」
アネットがその男のであろう名前を叫ぶ。
「あなたが言っていた愛する人って」
「しっかりしてジョー!!」
「ごめん・・・。アネット・・・失敗した」
「ごめんなさい・・・。私の方こそ。負けちゃった」
「・・・そうか」
この人が共犯者だったのね・・・。
多分、月がやってくれたのね。
私は先頭車両の方を見つめ、エンハンスで視力を強化し月を見ると。
私の眼に映ったのは、血まみれ姿だった。
「月!!」
私は、急いで月の下に向かった。
どうしてあなたという人はそんなに無茶をするの?
どうして私にその傷を分けてくれないの?
どうして私じゃないの?
どうして私はこうも弱いの・・・?
「ねぇジョー・・・」
「なんだ・・・」
「あなたと戦った人は・・・?」
「かなりの重症だ・・・」
「そうなの・・・」
「だが、あいつは俺なんかよりも強かった。」
「そう・・・」
ジョーに勝利した俺だが、血を流しすぎて意識が朦朧とする。
「・・・やばい」
ここで意識を手放すとまずい気がする。
バタンッ
「あれ・・・?」
身体が動かない・・・。
これマジでやばい。
「・・・月」
この声は・・・。
「月!!」
「こ、はる・・・?」
「しっかりしてよ!!」
小春が駆けつけて来たようだ。
どうやら小春の方も片が付いたようだ。
「ねぇってば!!」
小春に身体を揺さぶられるも、意識を手放した。
私は、血まみれで倒れている月に駆け寄り、必死に呼びかけた。
「ねぇ目を覚ましてよ!!」
目を開けてくれない。
どうして・・・。
「月!!」
早く眼を覚ましてよ・・・。
「ねぇってば!!」
私は必死に呼びかけた。
だが返事が返ってこない。
「月!!」
「・・おいうるさいぞ」
誰かが話しかけてきた。
私はそんなのには耳を貸さず、名前を呼び続けた。
「だからうるさいって!!」
「なんなのよ!!」
声の方を見ると、そこにはまた知らない女性が立っていた。
「全く・・・。これだからガキは・・・」
「今、あなたと話してる暇はありません。今すぐこの人を治療しないと・・・」
「死ぬな」
「っ!!」
分かってる。
このままだと死ぬことなんて。
私は、月を抱えこの新幹線から飛び降りて病院へ向かう事を考えていた。
「仮に今新幹線を降りて、病院に連れて行ったところでこいつは間に合わないだろう」
その女性は私にそう言った。
「じゃあどうすれば!?」
「うるっさいな・・・。どけ、私が治してやる」
「は?」
何が起きているのかが分からない。
「だから退けって言ってんだ。こいつを助けてやるから。」
「助けてくれるの・・・?」
「さっきからそう言っているんだけどなぁ。まあ良いから早く退け」
私は藁にも縋る思いで、この女性に全てを託した。
「じゃあ行くぞ。
エンハンスを発動したと同時に、その女性が傷に手を当てるとその箇所が光った。
「傷が消えてく・・・」
手を当ててる部分から、傷が癒やされ元の状態となっていく。
そのまま治療を進め、あっという間に傷口は全て塞がった。
「なぁそこの泣きわめいてたガキ」
私のことだろう。
「何ですか」
「傷は全て塞がった。あとは、血の補充だけだ。それもすぐに終わる。あとは休養を取る事だ」
「分かりました・・・」
改めて私は、自分の無力さを痛感した。
ポタ・・・
「ん・・・んぅ・・・」
目を覚ますと泣いている小春が居た。
「お、おはよう小春」
「月~!!」
小春が抱き着いてきた。
「苦しい・・・」
「ごめん!」
俺の為にここまで泣いてたのか。
「そういえば俺の傷は・・・?」
身体を見ると傷口がすべて消えている。
「治療のエンハンスを持つ人が治してくれた・・・」
「そっか。それでその人は?」
「戻っちゃった」
「そうか」
お礼の一つくらいしたかった。
「というかここって俺たちの座席だよな。小春が運んでくれたのか?」
「うん」
「ありがとうな」
「うん」
見たところ、新幹線は元の状態に戻っていた。
戦った甲斐があったというものだ。
「あとどのくらいで着きそうなんだ?」
「10分ってとこかな」
「そっか」
「それでこれで良かったの?碧。あなたの生徒じゃないの?」
「私たちは戦闘向けのエンハンスじゃないからな。凛華のエンハンスのおかげあいつを救えたんだ。ありがとう」
「どういたしまして」
神薙月、鬼月小春が乗っている新幹線に、偶然にも二人の担任の零碧とその友人の
「でも碧ったら、流石に生徒を危険な目に合わせるのは関心しないなぁ。この車両だけあなたエンハンス、
「そうだな・・・」
「まあ私に貸し一つね」
「ああ」
神薙月と鬼月小春がアネットの催眠が効かなかった理由は、零碧のエンハンスによるものだった。
この力を使って、神薙月と鬼月小春の居た車両を催眠から守ったのだ。
「GWくらい休ませて欲しいものだな・・・」
「そうだね」
ようやく目的の駅に着いた。
「小春、とりあえず予約していた旅館に行こうぜ。早くチェックインしなきゃな」
「そうだね。でも、もう動いても大丈夫なの?」
「ああ、旅館でゆっくりしたい」
「それもそうね」
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