第3話 高校生活はバトルから始まる

六花高校に入学し、早一週間。

授業も本格的に始まっていた。

ここの学校にはエンハンスの授業には他の学校と比べてそこまで力を入れていない。

理由は、各々がその力の在り方を考え、誰の為に何の為に使うか。

それを生徒に任せているからだ。

そのため能力の使用は制限されていない。

つまり、学校内で自由に使えるという事だ。

ドーン!!!

今、目の前で校舎が爆発している。

とは言っても、校舎には傷一つついていない。

たかだか爆発ごときで校舎が壊れてたら、今頃この学校は塵となっているだろう。

「ねぇ月」

「どうした」

「これが青春なの?」

「青春だな」

「目の前で学校が爆発してるのに?」

「青春だな」

中学の頃はエンハンスの使用は授業時以外は固く禁じられていた。

高校によってはそうなのだが、ここは違う。

「慣れなきゃなぁ」

「そうだな」

流石の小春もちょっと引き気味だ。

「じゃあ教室に行こうぜ」

「うん」

「一限目って何だっけ?」

「エンハンスの理論だよ」

「眠くなるやつか」

「そうだね」

爆発した校舎に気にせず入って行った。

それは俺たちに限った事ではない。

周りのみんなも同じ様子なのだ。

それが俺たちの日常なのだ。






「連絡事項は特には無いが、最近隣町でエンハンスを使った事件が起きている。気をつけるように。以上だ。」

物騒だなぁ・・・。

SHRを終え、一限目の準備をしていると。

「ねぇねぇ」

「何だ?」

「今日さ帰りに買い物付き合って」

わざわざ今言う事かと思いつつも。

「良いぞ」

「やった」

承諾した。


というかあれって十分連絡事項じゃね・・・。





「皆知ってる通り、エンハンスとは人間が誰しも生まれながらにもつ異能の力である。それは同じ系統は存在しても全く同じ能力は存在しない。これは最早常識だね。さらには、複数のエンハンスを1人の人間が有することもない。」

中学でも習ったなぁ・・・。

みんな寝てるし・・・。

起きてるのは、何人かだけか。

小春は・・・。

カキカキ・・・。

真面目にノートを取っていた。

小春って黙っていればモテそうだよなぁ。

トントン。

「ん?紙?」

小春からルーズリーフの破片を渡された。

そこには何か文字が記されていた。

『月にならモテても良いよ』

怖っ!!

なんで俺の考えが分かるんだよ!!

そんな事思っていると、下にはまだ続きが書いてあった。

『何で考えが分かるかって、あなたの彼女だからだよ』

やばいやばい!!

俺の彼女が怖すぎる。

まあこんな彼女だけど、俺の事を想ってくれてる訳だし、現に俺も好きなわけだし別れる理由は無いんだよなぁ。

キーンコーンカーンコーン

「じゃあ続きはまた次回」

いつの間にか授業が終わっていた。

「月~。手紙読んだ?」

「はい・・・」

「私、月にだったら愛されたいのよ」

「はい・・・」

小春にリードされっぱなしだな。





昼休みになると、学校は戦場と化す。

ドーンッ!!

ズドンッ!!

バンッ!!

「平和だね」

「いやどこが?」

俺よりも小春の方がもうこの学校に順応していた。

「だってこんな爆発音とか発砲音とかしてても売店で争っている音なんだよ」

「それが異常だと思うんだけどなぁ」

そうこの音は、売店に駆け込んでいる生徒がパンを賭けて争っている音なのだ。

自由にエンハンスを使えるため、戦ってそのパンを得る。

そんな場所が売店なのだ。

俺と小春は弁当派なので関係はあまりない。

ドンッ!!

「・・・平和かぁ」




残りの授業も何事もなく終え、ゆっくりと高校生活を消費している気がした。

「じゃあ行くわよ!!」

「・・・ああ!」

「今忘れてたでしょ」

「い、いやそんな事ないよ」

やばい本気で忘れてた。

「ほら行くよ」

「分かったよ」

俺は小春に連れられ、学校を後にした。




その後、俺たちは買い物に来ていた。

というか小春が靴を買いたいというわけで着いてきたのだが。

「こっちとこっちどっちが良い?」

はい、ここで問題です。

彼氏としてどう答えるのが正しいのだろう。

どっちも似合ってるよってのは完全に悪手な気がする。

さらには、俺の完全な主観だと小春にとってはイマイチだった場合、微妙な雰囲気になる。

つまりは、小春の意図を汲み取って選ばないといけないのだ。

「それでどっちなの?」

今、小春に手に持ってるのは、これからの季節に向けてなのだろうサンダルだ。

デザインは同じようで、白と黒の二種類を持ってるのを見ると色に困っているようだ。

はっきり言って俺は、決まったもののブランドの靴や服しか買わないため、こういったものに対して疎いのだ。

「月の趣味で良いよ」

「じゃあ白」

即答だ。

趣味で良いと言ったから選んだのだが。

「・・・そっか」

あれぇ!!

外した!?

いやというか趣味で良いって言ったよね!?

それで言ったら望む答えじゃなかったのか!?

「なんで白なの?」

どうしよう!!

何て答えたら・・・。

「いやだって小春が良くこういった系統の持ってたと思って」

確か持ってたはず・・・。

「よく見てるね。でもね」

ゴクンッ・・・。

「月の事なら黒って言うと思った」

これ俺、やらかした奴か!

「だって月って黒系の服多いよね。でも最近は、白も増えて来てるけど」

「ああ、そうだな」

「月が私に合わせて来てくれてるのかなって思って、私も月に合わせたいなって思ったの」

「なるほどな」

それで黒を選んで欲しかったのか。

「でも白でも良いよ。可愛いのはこっちだと私も思うし。それに月が選んでくれたんだから」

「そっか」

「うん。じゃあお会計してくるね」

小春がレジへと向かおうとしているが・・・。

「小春、それ貸して」

「え?」

「サイズはこれで良いんだよな?」

「う、うん」

「分かった」

俺は小春が持っていた靴を取り上げ、レジに向かった。

「お会計が3,980円になります」

「はーい。じゃあ4,000円からで」

「ありがとうございました。またお越しくださいませ」

会計を済ませ、靴が入った袋を小春に渡した。

「どうして買ってくれたの?」

「気まぐれだよ」

「そっか」

「ああ」

なんか小春の顔が赤いような・・・。

「ありがとうね」

「おう」

お礼を言った小春の表情は綺麗な笑顔をしていた。

この笑顔を見れるなら貢いでも良いだろう。

「それで次どこに行く?」

「どこに行こうか」

基本的に俺たちのデートはノープランなのだ。

俺はこういった事を考えるのが苦手で、いつも小春にリードされている。

彼氏としていかがなものかとは思うが、どうしていいのか分からないのだ。

「月は、私によくしてくれてるんだからそのままで大丈夫だよ」

本当にお見通しのようだ。

「小春」

「なあに」

「ありがとうな」

「どうしたの急に」

「いや、たまにはな」

「私の方が感謝しないといけないのに」

そんな事はない。

俺は小春に救われたんだ。




あの後、俺たちは今晩のご飯の買い物をして家に戻って来た。

小春とは半同棲をしているのだが、寝る時以外はどちらかの家にいる。

基本的には俺の家なのだが、小春の家は隣で一人暮らしをしている。

わざわざ俺が独り立ちするのに小春もついてきたという感じだ。

家賃は、親戚が出してくれており、学費は奨学金で支払っている。

その他生活費に関しては、バイトをして稼いでいる。

小春に関しては、ちゃんと両親が支援しているようだ。

小春の家族に関しては、俺も顔見知りでお金を出すと言ってくれたほどだ。

まあ断ったのだが、小春の分さえ出してもらえれば良いと思っていたし、そこまでする必要性は無いと小春の両親に話した。

「ねぇ月。今日泊まっていい?」

「駄目だ」

「何でよ?」

「俺の理性が大変なことになるから」

「大変な事になっていいのに」

「駄目なものは駄目だ」

晩御飯を済ませ、今からお風呂という時にこんな話をしていた。

「もう高校生なんだよ」

「まだ高校生なんだよ」

「むぅ・・・」

小春は頬を膨らませてこっちを見つめる。

「はいはい可愛い可愛い」

「もう!馬鹿にしてー」

「分かったよ。じゃあGWだ」

「GW泊まっていいの?」

「旅行に行こう」

「へ?」

「だからどこか旅行に行こうぜ」

「良いの?」

「ああ」

バイト代もそこそこ貯まっているため、たまには小春に恩返しといったところだ。

「行く!絶対に行く!!」

小春も喜んでいるようだ。

あとの問題としては・・・。

「その代わりちゃんと両親に許可を貰う事だ。年頃の男女が二人でお泊りなんて普通許さないだろうけど」

「どうだろう。一応確認してみる」

小春はスマホを取り出し、チャットアプリのRISEで連絡をとってるみたいだ。

「良いんだって」

「早いな!!」

返信早すぎるだろ・・・。

ブーブーブー・・・

「あっお母さんからだ」

ピッ

「もしもしー」

『小春?月君は今近くにいるかしら?』

「うん居るよー」

『じゃあ変わってもらえる~?』

「はーい。という事ではい」

小春は俺にスマホを差し出した。

それを受け取り、電話を代わった。

「もしもし、神薙です」

『もしもし!月君!!元気にしてる???ちゃんとご飯食べてる!?いつもごめんねーうちの小春が』

小春のお母さんの鬼月美沙さんは、とても元気で性格は小春とはまた違ってほんわかとしている。

「お久しぶりです、美沙さん。元気にしてますよ。それにご飯もちゃんと食べてますし、食べさせてます。」

嘘偽りはない。

『ごめんなさいね。小春は、絶望的に料理が出来なくて。目を離してなくても、レシピ通りに作らない子だから』

「十分承知しております」

実は、美沙さんも小春の料理下手には手を焼いたようだ。

『それで旅行の件は良いわよ。ただし避妊はする事。まあ孫が出来ても私は構わないわよ~』

まあこんな人だ。

「ありがとうございます。ただそういった事はちゃんと生計を立てられるようになってからと考えています」

『ふふっ。それだから小春をあなたに任せられるのよ』

「そう言ってもらえると嬉しいです」

『うん!!それじゃあそういう事だから楽しんでおいで。あっお金は私と旦那が出すから。月君は出さなくて良いからね。むしろ絶対に出さないで。出したら・・・やっちゃうぞ☆』

何をやるかは聞かない。

こういう所は小春そっくりなのだ。

にしても、美沙さん達が出すのか・・・嬉しいけどちょっとな・・・。

「でも・・・」

『ん?口答え?』

「滅相もないです!!」

『よろしい。お金は小春に預けておきますので存分に楽しんで来なさい』

「すみません。ありがとうございます。」

小春にしろ美沙さんにしろ助けられてばかりだなと思った。

『じゃあもうそろそろ切らないと小春が怒っちゃうから。またね』

「はい。お世話になります。」

『うん。じゃあね』

「失礼いたします」

ピッ

電話を切り、スマホを返そうと思ったのだが。

「・・・」

小春の目からハイライトが消えていた。

「あの・・・小春さん」

「なに?」

「旅費は美沙さんが出してくれるんだって」

「そう」

見れば分かるキレてるやつやん・・・。

「小春。こっち来て」

「ん?」

俺は小春を呼び寄せそのまま後ろから抱き着いた。

「はわわわわわ」

「こっち向いて」

「うん」

小春をこちらの方に向かせ、そのまま・・・。

ちゅっ

口づけをした。

「月!?」

「ごめん。嫌だったか?」

「ううん!!そんな事無いよ!ただ初めて月からしてくれた」

「そうだな」

キスは前にも何度かはしたことある。

だが、それは全部小春からだ。

俺からは照れくさくてする勇気がなかった。

それを小春も分かってるらしい。

「ありがとうね。月」

「ああ」



その日は、小春と夜まで過ごした後、家に帰した。






翌日、六花高校にて・・・。

「鬼月小春さんを賭けて勝負しろ!!」

「・・・」

なんかトラブルに巻き込まれた。

目の前にいる勝負を仕掛けてきた男に面識はない。


時を遡ると、俺と小春はいつものように登校した。

もちろん例の方法でだ。

靴箱のロッカーを開けると、一通の手紙が入っていた。

小春に見られる前に処分しようと思い、中身だけ見ると。

『放課後、体育館裏に来い』

なるほど、これがラブレターか。

面倒なことになりそうだったから、小春には言わなかった。



それで今に至る。

「帰っていい?」

「馬鹿な事を言ってないで勝負しろ!」

馬鹿な事を俺は言ったのだろうか・・・。

今この場には、小春は居ない。

俺と勝負を仕掛けてきた二人しかいない・・・と言いたいが、隠れてはいるものの複数の人が俺を囲んでいる状態だ。

「あっこれはいじめか」

「良いから早くかかって来い。さもなくば俺から行くぞ!」

男は俺に向かって走って来た。

様子を見るため、距離を取る。

だが・・・。

「引っかかったな」

男は、立ち止まった。

その瞬間。

ドンッ!!

「俺のエンハンスは、爆弾魔ボマー。触れたものを爆弾にし起爆する。威力は、校舎を破壊までは出来ないが、人を殺すレベルまで調整できる。」

その辺り一帯は爆心地のように塵となった。

「こんな弱い奴があの人の彼氏だとはな・・・。よしお前ら!今すぐあの女を捕らえてこい!!今日は楽しむぞ」

「「「「「おう!!!」」」」

男は小春の身体が目的のようだ。

その周りの奴も同様だ。

「あーびっくりしたなぁ」

「なっ!?」

今のは本当に危なかった。

何て言ったってこの男は本気で俺を殺そうとしていたのだから。

「何で・・・」

爆弾魔ボマーの男とその取り巻きは驚いているようだ。

「何で無傷なんだよ!!」

俺の身体は傷一つついていない。

「さあ?威力が弱かったからじゃないの?」

挑発するように男を嘲笑う。

「全員でこいつを殺せ!!」

人数は10人といったところだ。

分が悪い気がするが、申し分ない。

高校入学して一週間。

ようやく高校生活が始まった気がする。

まさか高校生活がバトルから始まるとはな。

「楽しいかもな」

男たちは一斉に襲い掛かって来た。

敵は、全員物騒なエンハンスばかりだった。

爆弾魔を筆頭に、電気を操るものや風を操るもの。

他には、瞬間移動をするものもいる。

「いやあ便利な能力だね。羨ましいな」

「なんで当たんねぇ!!」

とりあえずは、攻撃を全て躱す事に専念していた。

「じゃあ反撃と行くぞ。純白スノーホワイト

白き炎を足に纏わせる。

「白い炎???」

「ビビるな!!全員でかかれ!!」

どこまでも三下な連中だった。

「死ぬ覚悟は出来ているか?」

「食らえ!!雷撃サンダーストライク!!」

雷が俺を目掛けて飛んできた。

キィィィン!!

雷を足で受け止める。

「馬鹿が感電して死ね!」

威力を上げ、感電死させようとしている。

「こんなもんかよ」

「は?」

受け止めていた雷の攻撃を反らし、男の懐に潜り込んだ。

地面に手を着き、勢いのまま男の顔を目掛けて側転蹴りをする。

ドゴンッ!!

そのまま男は飛ばされ、体育館の壁に衝突した。

「さて次は誰だ?」

「ひぃぃ!!」

「くそ!!」

ビビって逃げ出すものも居れば、無謀にも立ち向かってくる奴もいた。

「まあ逃がさないけど」

そこに居た全員を圧倒し、残りは爆弾魔の男だけになった。

「さてどうする?」

「俺を舐めるなよ!!」

ズドンッ!!

諦めずに戦うようだ。

スタ・・・スタ・・・

「何で効かないんだよ!!」

スタスタ・・・

俺はゆっくりと男に歩み寄る。

「どうしてお前の攻撃が効かないか、ネタ晴らしをしてやろう。お前が爆弾を起動させたときに能力で防御をしたんだよ。俺のエンハンスの純白スノーホワイトは、見た目は白い炎なんだけど実はこれ高密度のエネルギーなんだ。つまり、爆発の威力をその高密度のエネルギーを全身に纏い、相殺させたんだよ」

これが俺のエンハンスの正体なのだ。

炎と勘違いされるのは見た目や高密度エネルギーのため、熱を持っており炎に似てしまっているからだ。

「まあだから、ある程度のエンハンスなら傷一つなく防御できるんだ。さっきの雷にしろお前の爆弾にしろ」

「ば、化け物」

「お前よりかは人間やってるよ」

こんな下種野郎よりかはマシだと自覚しているのだが。

「じゃあそういうことだから。お前もお仲間と一緒に眠ってろ」

ドンッ!!






多少のトラブルはあったが、ようやく解放された。

帰ろうと思い正門に行くと。

「遅い」

「待ってたのか」

小春が立っていた。

「当たり前でしょ。彼女なんだから」

「彼女でも先帰ってると思ったんだけど」

「私は月と帰りたいの!」

「そっか。待たせてごめんな」

「分かればよろしい」

俺は小春と一緒に帰路に就く。

「今日のご飯は何の予定?」

「うーん。疲れているからパスタで」

「分かった」

「あれ意外に素直」

「疲れているんだったら仕方ないよ。誰と戦ってたなんて聞かない」

本当にお見通しなんですね・・・。

「それで何の為に戦ってたの?」

「プライドの為」

「馬鹿」

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