第2話 鬼月小春は今日も積極的である
今日から華の高校生。
私、鬼月小春はJKというやつになった。
高校生になっても変わらない。
ピンポーン
「ふふふ~ん」
「はーい」
ガチャ
「おはようございます、旦那様」
バタンッ!!
「ねぇ!!開けてよ!!いい加減慣れてよ!!」
「朝飯を二人前用意するこっちの身にもなれ!!」
「いいじゃないの!!分かったわよ!!ご褒美上げればいいんでしょ!!」
「何くれるんですか!?」
「私の初めてよ!!」
ガチャ!!
私は月に腕を掴まれ、家の中に引きずり込まれた。
その勢いで私は、月を押し倒し私が覆い被さるような体勢となった。
「優しくしてね♡」
「誰がするか!大声でそんな事言われる俺の身にもなれ!!」
「私に魅力が無いって言いたいの!?」
「違うわい!!こんな事で貰えるかって言ってんだ!!」
「・・・」
「・・・」
月から驚きの言葉を聞いた。
「じゃ、じゃあいつ貰ってくれる・・・?」
「然るべき時が来たらだ」
「うん!!じゃあ楽しみにしてるね!!あと、貰ってくれなかったら・・・殺すから」
「ひぇ!!」
月が怯えてる・・・。
何でだろう?
でもその顔・・・興奮する。
「あの?というか小春さん。こんな事してたら、俺たち入学式に遅れるんですけど」
「はっ!今何時?」
「8時」
入学式は、11時なのだが、集合は9時となっている。
私たちの行く高校は、中学と違い歩いて行ける距離ではない。
電車などを使って行くのが普通なのだ。
でもはっきり言って私たちにはあまり関係ない事だ。
なぜなら・・・。
「じゃあ私が送って行くよ」
「高校生活の始まりなんだから普通に登校しません???」
私の旦那様は何を馬鹿な事を言っているのだろう。
「あなた、これは共同作業なのです」
「ん?」
「あなたが家事をやり、私があなたを抱えて登校する。ほら役割分担出来ているでしょう?」
当たり前の事を言わないといけないほど、旦那様は残念な頭になったのだろうか???
「おい、今俺の事を残念な頭してるとか考えてるだろ?」
「はて何のことかな」
流石は私の旦那様だ。
私の考えてることを分かってる。
「あと、俺はまだ独身なわけで、奥さんも居ないからな」
「え?」
今、聞き捨てならないことを聞いた気がする。
「ねぇ。私は遊びだったの?」
棄てられちゃう・・・。
「そういう事じゃねぇよ。ただな、小春とそういう関係になるのはもっとお互い大人になってからだ。だからまだ旦那さんとか奥さんとか、そんな関係じゃないって言っているんだ」
「って事は・・・」
「大人になったら・・・その時まで小春が俺の事を好きで居てくれるなら、結婚しよう」
月からこんな事言ってくれるなんて珍しいと思った。
本人は恥ずかしがってあんまり言わないのだが、たまにこうして言ってくれる。
その度に私は悶えるのだ。
「私は、月以外に好きになる人は居ないよ。昔もこれからもね」
「そうかい」
私は、月にすべてを捧げると決めているのだから。
「それはそうと小春」
「なあに?」
「そろそろマジでヤバいっす」
「えっ」
時間を確認すると、08:15と表示されていた。
「ほら月立って!!」
「おい!何をするつもりだ?」
「決まってるじゃない!!いつものよ!!」
「もういや!!」
私は月が騒いでいるのを無視して、お姫様抱っこした。
身体能力の強化や肉体そのものの強化、そんな能力なのだが、この力のせいで昔私は虐められていた。
女の子らしくないとか言われたりして、男の子にも女の子にも虐められたことがあった。
それを助けてくれたのが、神薙月。
それから私は、月の為に尽くそうと思うようになり今に至る。
「ううう・・・」
「舌嚙まないようにね」
「分かってるよ・・・」
私は、月を抱えて飛び立った。
私が月を抱えて登校する時は、基本的に建物の屋根を伝って向かっている。
この疾走感がたまらない。
月は、怖がってるけど、その姿さえ愛おしいものだ。
今日から通う事になる高校の名は、
私たちはなんとか高校まで着いたのだが、なぜか正門で止められた。
「あのーどうしたのでしょうか?」
「いや、君たち。それはどういう状態なんだ?」
ここの先生なんだろう人に呼び止められ、どういう状況か聞かれてしまった。
「えーっと彼氏をお姫様抱っこしてます」
「そういう事じゃなくてね」
質問の意図がよく分からないなと思っていると。
「いやそろそろ降ろしてくれない?」
「あっごめん」
私は月の言う通り、降ろしてあげた。
「それで何でしたっけ?」
「いや小春。明らかに俺たちがおかしいからな。」
月におかしいと言われてしまった。
「というか君たち新入生だよね?あんまり目立った事しないように」
「「はーい」」
高校生活初日に、ありがたい説教を頂いてしまった。
正門にて、説教された後私たちは自分達の教室へと向かった。
私と月は、嬉しいことに同じクラスとなっていた。
席も近く、幸せな高校生活の始まりだと確信した。
「なぁ小春」
「どうしたの?」
「ここって俺たち以外に同じ中学の奴とか居なかったよな」
「そのはずだよ」
「なるほどなぁ」
この高校は、中学からそこそこ離れており、わざわざここまで通う物好きは私たちだけのようだ。
「でも流石に、静かだよな」
「入学初日だからね」
「まあそれもそうか」
今、この教室で話しているのは私たちだけだ。
まだ、HRも始まっておらず自由時間なのだけど、かなり静かなものだった。
キーンコーンカーンコーン
「はーい。席につけ、全員居るな。初めまして、私がこのクラスの担任となる
どうやら私たちの担任は女性のようだ。
スタイルもよく美人な人だった。
というか珍しい名前だなぁ。
「じゃあ座席順に自己紹介を頼む。名前とエンハンス名をそれぞれ紹介してくれ」
座席順となると私からか。
トップバッターって嫌だなぁ・・・。
「鬼月小春です。エンハンス名は、
さっさと自己紹介を終え、次へと行った。
まあ次は・・・。
「えー神薙月です。エンハンス名は、
流石は、私の彼氏様。
いつも通りだなと感心した。
その後も順番に自己紹介が滞りなく進んでいった。
「うむ。全員終わったな。最初に言っておくが、この学校は他の学校とは違い、エンハンスによって生徒を分別しない。他所は、エンハンスによってクラス分けとかもしたりするみたいだが、ここではそんな事はしない。エンハンスをそれぞれがコントロールし、使う機会を考えて生活して欲しい。」
なるほど、それがここの校風なんだ。
私は、このエンハンスを誰の為でもなく月のために使いたい。
月を守るために。
HRを終え、ホールにて入学式が執り行われた。
こういった式典って退屈なものだなぁ。
月も眠そうだし・・・。
「すぅぅぅ・・・」
いや寝てる・・・。
まあ終わったら起こしてあげようかな。
月の寝顔を見てたらあっという間に時間が過ぎていった。
「ふぁぁぁ」
「お目覚め?」
「ん?ああ」
「ふふっ」
月の寝起きはとても可愛いらしい。
なんか猫みたいだ。
「むにゃぁ」
本当に猫かな?
「今日って式だけだよな?」
「ええ。明日から本格的に始まるみたい。でもほとんどはオリエンテーションとかだと思うよ」
「なるほど」
入学式を終え、教室に戻った。
そのまま終礼となり、本格的な高校生活は明日からになるみたいだ。
「それじゃあ君たちは立派なこの学校の生徒となる。そのエンハンスの使い方をしっかり考えながら生活したまえ。それじゃあまた明日」
キーンコーンカーンコーン
「なんか美人な先生だよね」
「小春がそういうの言うって珍しいよな」
「私だって言うよ。こんな綺麗な人になりたいとか」
「そうなのか」
「うん」
好きな人の前では綺麗で可愛くありたいものだ。
「でもまあありのままの小春が俺は好きだよ」
「えっ」
今、好きって・・・。
「よしじゃあ帰るぞ」
「うん!!」
月に促され、私たちは帰る事にした。
帰り道にて私はデートしたいと思い、誘ってみた。
「ねぇ!月、デートしない?」
「ん?良いよ。どこに行く?」
あっさり受け入れてくれた。
朝あんなことがあったから嫌がられるかと思ったけど、普段通りだった。
「ん-とりあえず、街をぶらぶらしよう」
「良いぞ」
それから二人でデートを始めた。
「にしてもどこも入学式なのかねぇ」
「そうかもね」
今、私たちはドーナツ屋にてドーナツを頬張っているのだが、周囲には違う学校の制服を着てる人たちが多かった。
「まあそういう時期だしな」
「それもそうだね」
周りは客は友だち連れとか、カップルとかばかりだった。
「ねぇ月」
「ん?」
「どうして私を好きで居てくれてるの?」
「何をいまさら」
「だって私重いじゃん」
自覚はある。
私が月に対する思いは一途を通り越してかなり重い。
そんな事は分かってる。
でも、一人が怖い。
月が居ない生活が怖い。
だから手放したくない。
そんな私なのにどうしてここまで優しいんだろう。
「確かに、小春は俺に対する思いが重すぎるが、それほど俺の事を好きで居てくれてるんだろ?それを拒絶する理由はない。それに、そんな事を差し置いても小春は優しくて、一緒に過ごしてて楽しいからな。だから俺は小春が好きだ」
「ありがとう・・・」
やばい!!
顔が熱い!!
ここまで言われると逆に恥ずかしい!!
「それよりもドーナツ食べないと俺が食べるぞ」
「た、食べる!」
なんか恥ずかしくなっちゃった。
私はそのドーナツを黙々と食べた。
「あっ悪い。ちょっとお手洗いに行ってくるわ」
「う、うん」
月が席を外してる間、私は心を落ち着けようと必死だった。
深呼吸をして心を落ち着かせてると・・・。
「ねぇそこの君」
「・・・」
誰だこいつ・・・。
「無視しないでよ。ねぇ今一人?」
「何?」
まさかこいつ私をナンパしようとしてるの?
「良かったらここ座ってもいい?」
「彼氏が居ますのでお引き取りください」
気持ち悪い・・・。
「いいじゃん。その彼氏が来るまでの間さ駄目かな?」
「駄目です」
早く帰ってきてよ・・・。
「その制服って六花高校だよね。君みたいな美人が居るって知ってたら俺もそこに通えば良かったなぁ。」
早く・・・。
「ねぇあんた誰?」
「あ?」
この声は、月だ。
遅いよ、ばか。
「いや、あ?じゃなくて。どこのどちら様だって聞いてんだよ」
「なんだよ関係ないだろ」
「関係あるんだけど。そこの子は俺の彼女なんだけど」
「お前がこの子の?釣り合わないな。お前のエンハンスはどんなのだ?」
「言う必要はないよな」
「それは大したことない能力だと自覚してるからか。じゃあ良いよ。俺と勝負しろよ」
「やだよ。面倒くさい」
「あ?なんだよ腰抜けかよ。こんなやつがこんな美人さんの彼氏なんてやっぱり似合わない。ねぇ今から俺に乗り換えない?」
もう我慢の限界だ。
「あんたみたいな三下に私は付き合わないわよ。それに勝負だったら私がしてあげる。もしあなたが勝ったら私の彼氏になることを認めるわ。ただし、私が勝ったら死んでもらうわよ」
ここまで月を侮辱してくれたんだから、死んで償ってもらわないと私の怒りが収まらない。
「おい、小春。そこまでしなくて良いから」
「月は、下がってて」
「でもな」
「良いから」
「分かったよ・・・」
月を何とか納得させた。
「じゃあここじゃ店に迷惑かけるから外に出ましょう」
関係ない人を巻き込むのは流石に気が引ける。
「よしじゃあ俺も張り切っちゃうよ。君みたいな子を彼女にしてみたな」
どいつもこいつも私を下卑た目で見てくる。
「じゃあ行くわよ」
「良いよ」
私は、月を侮辱されて怒っている。
でも冷静さを失ってない。
本能のまま戦ったら本当に殺めかねないから。
「じゃあ俺から行くぞ。
目の前に居た男が消えた・・・。
これがこいつのエンハンス。
瞬間移動ではなさそうだ。
これは透明化。
「これで終わりだ」
男は私の背後に回り仕留めようとした。
だがそれは無駄だった。
「これだから三下は」
「は?」
ドゴンッ!!
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
「死角を突いたつもりでしょうけど、あなたのエンハンスはただの透明化。気配までは消せない。私のエンハンスは自分の五感さえも強化するのよ。そんなおざなりな能力で私に勝てると思わないで」
こんな実力で、私に喧嘩を売って来たのか・・・。
「それであなたは今私に負けたけど、死ぬ覚悟は出来てる?」
「ひぃ!!」
私は横たわる男の頭蓋を踏み砕こうと足を振り下ろすと。
ガキンッ!!
「そこまでにしておけ小春。俺は何とも思ってないから。それにお前を犯罪者にさせるかよ」
振り下ろした足は、月の足によって止められた。
私の戦闘スタイルは月の真似をしたものだ。
基本的には足技。
月いわく、『拳で殴るって痛いじゃん』という理由から脚しか使わない。
エンハンスを使って振り下ろした足を楽々止めてみせる私の彼氏は、流石だと言える。
「ほら帰るぞ。こいつもあの一撃で戦闘不能だ」
「うん・・・」
「今日の晩御飯は小春の好物にしてやる」
「うん」
私は正気じゃなかったかもしれない。
心では冷静を装っていても月には見通されてたのかもしれない。
だって私は・・・本気であの男を殺そうとしてたのだから。
家に帰り、私は後悔した。
「ごめん、月」
「ん?何が」
「私正気じゃなかった」
「だろうな」
「ごめん」
「それは何に対してのごめんだ?。俺の静止を聞かずに勝負したことか?それとも・・・
「全部です・・・」
「はぁ・・・。今更気にするなよ。俺の為に怒ってくれたんだろ?そこを咎めるつもりはない。だけどする喧嘩ぐらい選べよ」
「うん」
月は本当に大人だな・・・。
私だったら次こんな事あったら、同じことをやるかもしれない。
「じゃあ座ってゆっくりしてろ。今、ご飯の準備するから」
「・・・私も手伝う」
「えっ!?」
「そんなに驚かなくても良いじゃん」
私だって好きな人の負担を軽くしたい気持ちはある。
「でもなぁ・・・」
じっ・・・
私が無言で見つめていると。
「分かったよ。じゃあ食器を洗ってもらえるか?あと今日のご飯は唐揚げだ。」
「うん!!」
晩御飯を一緒に作り、二人でご飯を食べた。
いつも二人で、ご飯を食べているのだが幸せな時間だと思う。
月の両親は、物心つく前に二人とも亡くなった。
それからは、親戚に引き取られたのだが今は一人暮らしをしているみたいだ。
私は、月と過ごすために家を出て一人暮らしを始めた。
月の支えになりたいと思い、この生活を始めたのだが逆に支えられてばかりだ。
「ねぇ月」
「ん?」
「好き」
「ありがとう」
「うん!」
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