第14話:月の鏡-松田好華-vol.2
熊本県立、山華高等学校?
「ねぇ、あれ」と私は緞帳の方を指さし潮さん、はるよの視線をそっちに向けさせるのだけれど、二人とも「ん?」
「だから、あれって」
「霊でもみえるの?」と潮さん。ちょっとぉ。
「ヤマカ高校、っていうの?」と私。
「はぁ?ヤマガでしょ」何言うてんのよと苦笑いするはるよ。潮さんは小首をかしげてクスクス。
「鹿本高校だよね」の私に対して、駄目だこりゃ的にあきれるはるよ。
「ここ山鹿だよ。鹿本はお隣」と潮さんは笑ってる。いや確かにそうなのだけれど。確かに場所は山鹿市のど真ん中なのに菊池市と隣接している鹿本町の名称を校名にしているのは変。山鹿なら山鹿が妥当,ちょっと離れてる場所に山鹿中学校もあるし。でもなんで”山華”なの?だってさ学校前の通りを”鹿校通り”っていうじゃん。あ、もしかしたら”華校通り”って書くのかな?
あ~昔といっても昭和の頃は山鹿高等学校っていう名前だったって入学式で校長先生が話してたなぁ、とその時の光景を思い出そうとするのだけれど、まぁああいう行事の先生の話、て大抵おもしろくなくて真剣に聞いていないんだよなぁ。何かの記念で山華高等学校となってんのかな?でも「山華」なんて見た記憶無い。山鹿灯籠だって「山鹿」だよ。私地元じゃないしなぁ。「熊本県立鹿本高等学校」だったよね・・・。
ねぇ、と潮さんに声をかけようとした時ちょうど6時限目終了のチャイムが鳴る。とりあえず集合。私も制服のまま最後尾に並んで、一礼。
女子数名が授業の後片付けをはじめ、他は私も含めぞろぞろと体育館から出て行く。お未玖、ゆうかがささっと私の両隣にならんで体調を気遣う言葉を投げてくれる。
「大丈夫大丈夫、どやんなかよ」表面上は、ね。きっと私の頭の中はまだ混乱してる。
教室にもどって生徒手帳を開けてみる。ヤな予感は当たった。
熊本県立山華高等学校。
所在地、熊本県山鹿市鹿校通
その後に続く校訓、校歌。最初にもらったときのものと同じ。学校名以外は全て。じゃなんで「鹿校通」やねん、字ちがうやろ!と関西の芸人風に突っ込んでしまう。今2022年だよねぇ、ってタイムスリップは関係ないか。
スマホのグーグルマップを開く。生徒手帳と同じで”山華高等学校”以外は見慣れた名称ばかり、勿論”山鹿中学”も”山鹿小学校”も_。
ちなみに、と自宅周辺に移動してみる。変わりない。もう何なんだろう。
今日、部活はないので放課後校内を歩いてみる事にした。二階を一回り。7組の自分のクラスから8,9,10組、渡り廊下を通って5,4,3,2組とゆっくり歩く。どのクラスも数人がいるだけでいつもの放課後の風景と変わりない。次のクラス、1組。もちろん圭はいなかった。
購買部、職員室(は入らない)、そこから三階に上る、もうほぼ無人の三年生の教室。あと一カ月と少し経てば私たちはこっちに来ることになる。中庭を見下ろしつつゆっくり廊下を歩く。三年6組の前に図書室があって、そっと入る。結構広くて、なんでも約5万冊の蔵書らしい。カウンターの前にはその日の新聞、週刊誌が取りやすいように並べてある。休み時間には先生数名がそばの丸テーブルに陣取って新聞読んでたりする。
「体調もういいの?」カウンターの向こう、司書の小坂先生が声をかけてくれた。ちょっとハスキーがかった声が魅力的なアラサー女子。前髪を眉のあたりで一直線に切りそろえたストレートな黒髪ロングは背中まである。保健室の宮田先生とは仲いいらしく昼食は保健室か図書館管理室で一緒にいることが多い(とは図書委員の東村さんからの情報)。二人とも男子生徒に人気あって、たまに二人が廊下を並んで歩いていたりすると、その辺の男子の視線が一斉に二人に集中する。映画「キル・ビル」のテーマが流れてきそう、て男子が囁いていたのを聞いた事がある。(キル・ビルって何?)
二人はうちの高校の二大最強アラサー女子だ。
「うわっ。アベンジャーズ。」「アイアンマンとキャプテン・アメリカ」「ゴジラvsキングギドラ」
と二人を評したのは小学生からずっと一緒の高本彩花。彼女は特撮ヒーローものやアメコミのファンでよくなにかを例えるとき好きなキャラクターを口にするんだけど、いやいや女子を例えるのにそれはないんじゃない?
小坂先生(男子はよくコサカナと呼んでる)も宮田先生同様に長身で(たぶん170)なおかつ線が細い。物静かで口数少なくいつも微妙に微笑んでいる感じを漂わせている。宮田先生はちょっと”Sっ気”があるのだけれど小坂先生は”その気”はみじんも感じられくていつもおっとりしている。きっと緊急事態なんてことが起こっても走ったりせず、「あ、困ったな」なんてつぶやいてトコトコ非常口に歩いているタイプ。
でも私は好きだ。
「あ、もう知られちゃいました?大丈夫です」と愛想笑いの私。放課後やってきた理由を考える。「先生、この学校の歴史の資料みたいなの、ありますか?」
「うん?ええとねぇ」小首をかしげ人差し指でこめかみの辺りを軽く押さえる仕草、黒髪がさらっと揺れる。あぁこういうのに男子やられちゃんだろうな・・・。
小坂先生と私しかここにはいないみたい。図書館中央から少し外れた場所の本棚に案内される。
「同窓会館の方が詳しい資料はあると思うけど」とそこから一冊を取り出してくれた。大きさでいうとA4サイズのたぶん50頁位の年季の入ったもので「山華高等学校史」というタイトル。
「これ借りてもいいですか?明日返却します」
「え、勿論」優しいまなざし。
私は図書カードにその本のタイトルを記して自分の教室に戻った。
そして学校の門を出るとき、表札を振り返る。
熊本県立山華高等学校
もう夢かどうかなんてどうでもいい_。
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