第13話:月の鏡-松田好華-vol.1

 やっぱり夢なの?心臓がどうにかなりそうになる。なんで圭がいる?


 クラス中の視線はおどけつつ教室から出て行った圭に向けられいつものお昼のザワつきに戻っていく。

 はるよが心配げな表情で「大丈夫ね?」

 ゆうかも「どうしたん?」私の表情をじっと伺う。私の中に生じた動揺の元を探るような視線で。

 お未玖は「ったく、佐々木、がさつやけん、あやんときは手ではたかにゃぁ、ピシッと」(ああいうときは手で叩かないと)

私は三人に、クラス中へも愛想笑いでごまかす。

「へへへ、ビックリのドツボにはまっちゃって」て、笑いのツボはきいたことあるけど、ビックリのツボ、てなんなん?と自分を突っ込む。

 とりあえずこの場をおさめなくちゃ。でも身体全体が微妙にこわばってきていて上手く口が動かない、寒さでかじかんだような変な気持ちになる。お弁当の蓋がちゃんとはまらない、指先が可笑しいくらいに震えてるから。

 それにお未玖。お未玖とは中学から一緒だ。だから圭の、中三の時の圭の葬儀にもクラスで一緒に参列している。そのお未玖も圭を見ても、全く普通だった。いつものがさつな男子としか見てない・・・。


 コロナ禍もなく、圭も生きている。

これが夢ではない事はわかる。なら何なの? 

動悸が激しくなり始める、私はふいに_。





 ”保健室の匂いだ”。二月の昼下がりの暖かさと保健室独特の匂いに私はゆっくりと目を覚ます。不思議なくらいに身体が落ち着いている。真っ白い天井と周りを囲んだ白いカーテン。廊下を誰かがゆっくり歩いている足音、遠くにサイレンの音、救急車?それともパトカー?近所の犬が吠えてる。今何時だろう。ベッドの上に起き上がると、保健室の先生が「起きた? 大丈夫?」声をかけてくれた。

「はい、大丈夫です」

 さっとカーテンが開けられる。保健の宮田先生(アラサー女子)が少し猫背気味で入ってくる。背が高い事を本人は気にしているのか、何かの拍子にそうなるみたい。もったいない、スタイル良いのに。でも真っ白いマスクをしている。

「あ、マスク」私はまたちょっとだけ混乱しそうになる、やっぱりコロナ禍だったのかしら? 長い夢をみてたのかと。

 宮田先生は体温計を差し出し、私の額に掌を当てる。

「朝から身体の具合どうだった?」

「いつもと、変わりません」いつも、ってなんだろ、今日は変な事ばっかりだ。私は体温計を脇にはさみ、ふっとため息をついた。

「ん?なぁに」と先生。

「マスク」私は指さす。

「あ、ごめん、におう? お昼お肉と餃子だった」

「あ、いえ。あの、コロナは・・・」

「うん?コロナ?」

「何でも無いです」やっぱ変わってない。ちょっとだけ愛想笑いをしてしまう。ちょうどその位置から丸い壁掛時計がみえる。6時限目中、あと二〇分くらいでチャイム鳴りそう。う~ん。体温計見るまでもなく体調は万全だ(ホントかな)。

「授業に戻ります」

「いいの?もう少しいたら放課後よ」

「大丈夫です。ありがとうございました」

ちょっとだけ気分がよくなってた。もしかしたらひと眠りしたことで頭の中がリセットできたからかもしれない。


 保健室を出てそのまま体育館に向かう。6時限目は体育だった。まぁ10分程度の見学ということで気分転換するかな。


 うちの高校校舎を空から見たイメージは長方形。南北校舎をその上下とするなら左右は南北をつなぐ渡り廊下。体育館はその一階の渡り廊下から屋根付きの通路を通って北側校舎に並ぶように建っている。校舎より新しく見える。室内は明るくてきれいだし。

 バスケットボールの跳ねる音が聞こえてくる。こういうのが青春なんだよなって思う。重いドアを開けて中をのぞく。板張りをシューズがかけていく音。体育は7組8組合同授業で、バスケの試合中みたいだった。そーっとドアを閉める。体育館のドアってなんでこんなに重いの?キー、ゴワッというドアの閉まる音に近くにいた数人の視線がこっちに。

 潮さんとはるよがこっちを見て”だいじょぶ?”笑顔でこっちこっちと手招くからつられてそそくさと私。体育の先生(女性)がちらと私を見た。テヘヘ顔で愛想する。

 潮さんの隣に腰を下ろすとちょうどお未玖がコート内でシュートを決めてた。くぅ~、カッコイイ。私には到底無理だ。お未玖も私に気づいたみたいで、小さくガッツポーズを見せてくれた。


その時何気なく、壇上の緞帳に目を向けた。深いワインカラーのそでに金色で刺繍された文字をみて私の中に違和感がまた生まれてしまう。


 山華高等学校


 え?山華高等学校ってなに? 鹿高(鹿本高等学校)でしょ?








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