第12話:星空のBelieve-佐々木 圭-vol.6
「転校。三年で?どこに行くと?」と俺、なんとなく森本さんの姿を思い浮かべる。黒髪サラサラで病気なのかと思うくらい色白で目鼻立ちくっきりで背丈もスラッと俺より高い。
「外国、フランス、てたい」好華。
「はぁ!フランスって、今更?」受験だの何だの以前に驚いた。「森本さん家って何ばしよらすと?」(親御さん、何やってる人?)
「余り詳しく教えてくれんけど外資系の会社の偉い人みたい」
「マジか?」そういえば好華は森本さんと同じ文芸部だった。先輩後輩の仲か。
誰にも言わんでね、絶対。と好華は念を押す。「私もあまり詳しい事は知らんとやけん・・・」
森本さんはこの夏には日本を離れ両親と彼の地へ向かう。フランスは9月からが新学期という事で、彼女が高校一年の夏休み中にその話を両親から聞かされたらしい。
「河田先輩は知っとっと?」(知っているの?)
「二年の時に言うたって」
「どやんさすと?」(どうするって?)と言う俺の問いは曖昧で愚問だ。でも部外者にはそんな言葉しか出ない。
「どやんさすとだろねぇ」とため息をつく好華。俺は基本的な情報収集を始める。そもそもフランス、て言葉は大丈夫なのか?
「だって先輩生まれはあっちだよ、フランス。お母さんがフランス人で10才くらいまで向こうで暮らしてたって。お父さんは日本人」
「はぁ」と俺。外資系企業でフランスに住んだり日本だったり、て結構なお金持ちなんだろうけど、ならなんで熊本の田舎にやってきたんだ?
裕福な家って、実家が東京、横浜とか京都、神戸とかじゃないのか?
「先輩、子供のころは身体が弱くて、それで都会でなくて空気がよくって自然に囲まれたここをご両親が選んだって。お父さんが学生の頃一人旅でやってきたここに。ちなみに、阿蘇でお母さんと出会ったって。あっちは家族旅行で日本にきてたらしいよ」
「森本さん、やっぱり行きたくないみたい。でもご両親が一人暮らしとかルームシェアは駄目だって。親戚とかも九州にはいないみたいだし、実家は東京の世田谷なんだって。それにまぁいろいろ理由はあるみたいなんだけど・・・」
「向こうの大学を卒業したらこっちに帰ってくるかも、て言ってた。河田先輩もそれまで待ってくれるんじゃないかな」
好華の話を一方的に聞いている。好華って、結構森本先輩と仲いいんだな_。
「ん?でもたい、森本さん、て髪黒かよね」(髪黒いよな)
今の好華にとってそんな俺の問いに拍子抜けしたようで、
「染めてんの!黒に。校則で」ちょっとキレ気味で返された。
「あ、そうだっけ?」天然パーマとか理髪店で天パ証明とかなんとか書いてもらったらO.K.だったよな?だったら地毛も、なんて口に出す雰囲気でない。
「あ~ぁ、脳天気でいいねぇ、純和風の丸刈り男子は。」
深刻な空気を壊したのは俺か?上から目線であきれる好華の目つきが明らかに”女子っていろいろ大変なんだよ!”と語ってるのが判る。この瞬間、超能力(読心術)が冴える俺。沈黙は金なりだ。
昨日と同じに空は雲一つ無い快晴で、周りの田園には軽トラとトラクターが点在している。やがてゆったりとした風が吹いてきて、夏を迎えるちょっとした蒸し暑さが少しだけ頬と首筋を涼しくする。俺と好華の自転車の車輪の軽い音が心地良い。
?
いつしか好華が唄っていた。誰に聞かせるでもない小さな声で。最初は鼻歌かなと思ったが、その歌詞とメロディにはだいぶ前に聞き覚えがあった。それは離ればなれになった人といつか巡り会える事を信じ祈る歌詞だった。決して悲観的でなくむしろどんな未来でさえも喜んで迎え入れる決意に満ちた_。
苦しいときこそ いつか見た青い空を きっとあなたと見上げる日まで
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