第11話:星空のBelieve-佐々木 圭-vol.5

 監督、河田先輩からキャプテンとして行うべきいくつかの訓示を受ける

 キャプテンて何だ?今更考え込んだりする。二年の野球部員で俺の実力はというと決してトップではない事くらい自覚しているし、チームのムードメーカーというわけでもない。野球センスなら高瀬、ムードメーカーなら井口あたりなのだがよりによって俺か。

 「ま、来年3年に上がるまでのあくまでも暫定キャプテンという気持ちでおっとよか」(気持ちでいればいい)と監督は俺の肩をたたく。

 「頼むけんな」と河田先輩。

 先輩は体育会系にしては珍しく口数が少ない(と思う)。まぁ学校の体育会系部活なんて大抵は上下の圧力が強くて学内外で下級生が上級生を前にしての直立不動の姿勢や、下級生への理不尽な(と思う)パシリ扱いは日常茶飯事というより常識化している。度々渡り廊下で見かける。

 でも河田先輩にはそういう雰囲気が伺えなかったし、他の先輩の下級生へのパシリ扱いを暗にとがめるような言動も何度か見た事がある。いつも最小限にじっと相手を見つめながら言う。ただ河田先輩は見た目余り強面じゃなくそれがどれくらい効果があったかはよくわからない。でも現在の野球部内ではじゅうぶんだった。家が結構裕福らしく、それに美人の彼女(確か三年の文芸部)もいるらしいから、まぁ人間が出来ているのだろう_。



「ねぇ、三年の森本先輩って知っとる? 女子の」

7月上旬期末テストの時期は部活もないから(まぁ即帰宅してテスト勉強を、の意味で)、のんびり自転車こいでいると、自転車を引きながら歩いてる好華に追いつく。田んぼの真ん中を走る自転車専用道路で。(昔は鉄道の線路だったらしいが廃線になってその後専用道路になった)


「どやんした?パンクしたっか?」と俺も自転車降りて好華と並ぶ形になる。好華は首を横に振る「歩きたくなったと」(歩きたくなったの)

 降りた手前しようがない、俺はしばらく付き合う事にする。

「練習、なかと?」(練習ないの?)と好華。

「ん」と俺。「なんか悩んどっとや?」

好華の髪、顎にかかりそうな辺りでゆらゆら揺れるおかっぱ。好華から「おかっぱ言うな、ボブ!」と先月反撃されたから、今何か言い返したい気になるが、ちょっとその表情が気にもなる。


「森本?」ちょっとわからない。

「部活んとき、斎藤さんとたまに話してない? 髪長くて色白で」

「あぁ、文庫本いつも持ってる感じの」斎藤さんとは三年の野球部マネージャーだ。金網越しにたまに三年女子が並んでいるのをみる。

「そう」

「サラサラヘアの」

「そう」

「森本さんがどやんかした?」(なにかあったのか?)

「河田さんと森本さん、つきあっとーて、知っとった?」

マジか! う~ん、だからたまに練習見に来るのか、成る程。めっちゃ美人やんか。驚く俺を横目に好華は明らかに上から目線で俺を”鈍い奴”とあきれ顔になる。俺さぁそういうの興味ねーんだよ。

「まぁお似合いじゃなか」(お似合いなんじゃないか)美女と野獣って程でもないか。

 好華は沈黙する。

 お? まさか?

 ちょっと気まずい、今話しかけたらだめなのか?女子的には_。自転車の車輪の音だけになる。左右に広がる田園風景。左に目を向ければ遠くに鞍岳を含む阿蘇の山々が、まるでこの広大な平地をとりまく自然の囲いのようにも見える。


「森本さん、転校する、てたい」(転校するんだって)


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