第10話:星空のBelieve-佐々木 圭-vol.4
去年6月その日の練習終わりに監督から呼ばれたのは俺と河田キャプテンの二人だった。グラウンドを照らす夕日もだんだんと暗くなっていく。周囲の家々の窓に明かりがいくつも点灯していく。俺はその時ふいに、
腹へったぁ・・・。
誰にも聞こえないようつぶやいていた。この時間帯なら当たり前なのだけれど、何故かそれを声に出したかったのだ、小さくても。
部員は昼飯必須だ。何かしらの理由でそれを抜いている場合は帰宅させられる。空腹のままの放課後の練習は体力的精神的にも後々悪影響がでるためだとは監督の言葉だ。監督の目指すものは勝負ではなく、野球を通して高校生として健やかに成長していくことがその方針だ。だからふらふらになるほどの猛練習というのはない。平日雨天でなければ放課後約90分、土日の部活はない(自主練は構わないが、土日はなるべく野球から離れる生活をと監督は度々訓示する)。
部活の時間にしてはそう長い方ではないのかもしれないが、その分練習内容の緩急にメリハリがあって結構バテそうになる時もある。そして「一年生の間は球拾いがメイン」というのはない。学年関係なくほぼ同じ練習メニューだ。勿論入部したばかりの一年生、部員のフィジカルな面は監督からの調整が入る。
だから俺が一年で入部したときにはちょっとだけ面食らった。余りに野球一色という感じではなかったから。身体を十二分に動かす、ものをよく見る、何かを考える、自分を客観的に見る、部員の皆一人一人の行動・表情をよく観察する_。
勿論ボールを、バットを扱うベースボールの時間ではあるが、入部して一年後の俺はベースボールの能力よりも、ものへの見方が大きく変化した事に気がついた。
ベンチに腰を下ろした監督、俺と河田先輩は並んで監督の前に立つ。どういったことが監督の口から発せられるのかは大体予想できた。夏の大会が終わったら俺に次のキャプテンを任せるという事だ。そういった雰囲気は普段の監督、先輩からの言動からもおおよそ推測できていたが、その日の夕暮れが正式な任命ということになった。
俺は正直不安だった。野球を始めたのは中学生からで、小学生時代は剣道クラブに入っていた。いうまでもなく剣道は個人競技だ。(団体戦というのもあるが勝負は1対1)自身の技量をいかに高めていくか、その一点のみに集中できる。俺の性に合っていた。同じ部員の力量を傍から見定める事はあっても。
何故中学になって野球を始めるようになったんだろ_?
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