第3話:星空のBelieve -松田好華-vol.3

「おはよー」「おはー」「はよー」

自転車置き場で同級生の何人かと顔を合わせる。

ちょっとした違和感_?

その違和感は昇降口から上履きに履替え、廊下を歩き出してから心のなかでちらつき始める。まるで決定的な何かを私だけがど忘れしてしまったかのように。


 あれ? 今日なんか特別な行事かなにか、あったんだっけ_?


 それでもおかしい。

 いつもと同じ、昨日と同じ廊下、昨日と同じルートで階段を上って、二年7組の教室に入る。潮さん、高橋君、山口さんの三人がすでに席に着いていたのだけれどやはり変だ。

 「おはよー」と私は席に着く。朝のピンと冷えた空気の教室内で、私の席は窓際の前から4番目でしばらくすれば日が当たりはじめ、じわっと暖かい空気になる。冬場にはたまらない窓際席は、昼近くになるとやたらに眠たくなる、気持ちいいくらいに。

それまでは小さな我慢、ほっぺたスリスリ、あくびがまた出る。


 あと20分もすればクラスのみんなもやってくる、それまでは、とスマホを鞄から取り出してロック解除したところで、お未玖が「オスッ」とやってきた。ショートボブの金村未玖、女子バスケ部の次期キャプテン候補。隣の席にどかっと腰掛ける。身長は私より大体15センチくらい高い彼女なのだけれど、椅子に座ると私と同じ目線になる。ええ私と違ってスキニージーンズがかっこよくはまるのよ、お未玖は。

「おは」と私。

「ん?風邪でもひいたと?」とお未玖は病気怪我とは全く無縁そうなもろ体育会系。怪訝な顔になるのはお未玖、私の両方同時で。

「なんで?」私は視界のすみ、黒板の横に掲示され見飽きてたポスターの標語が、その朝は別のものになっていることに気づいた。その瞬間、登校中からなんとなく抱いていた違和感がだんだんとはっきりして、それはお未玖の「風邪でも」の言葉で決定的になった。

 

「ねぇなんでみんなマスクしとらんと?」(マスクしてないの?)

「は?なんで?」とお未玖と私の怪訝な表情は変わらない。

「いやだって、マスクせんといかんでしょ」(マスクしないと駄目でしょ)

「ん?どやんこと?」(どういうこと?)

私はからかわれてるのかな?

「コロナ、流行ってるから・・・」

自転車に乗ってるときは気にしてなかった。校内に入ってから、ちらほら見かける生徒のほとんどがノーマスク、私だけが新品の真っ白いマスクで覆っている。

「コロナ?」

「そう」

「タピオカの次に流行っとっと?」(流行ってるの?)

お未玖はちょっぴりニヤついてる、わざとぼけてる、お笑い好きだし。でもなんでタピオカの次がマスク関係すんのさ、私のツッコミ待ちか?その手にはのってやんないよ。

「ウチの学校、てなんていうか、一年に一度ヤな事忘れよう、なんて行事あったっけ?」私は軌道修正する。

「文化祭、体育祭・・」

「じゃなか」(それではなくて)

う~んとしかめ面のお未玖なのだけど、笑いを取ろうとするモードに入っているから私はちょっと本気モードで、「コロナだよ、新型コロナウイルス。世界的に流行して病院が大変だってニュースになったたい。ええとコビッド-19、てゆうたっけ」

お未玖はちょっと口をとがらせる。私は続けて「毎日毎日ウイルス感染者が世界に何万人もでて死んだ人も沢山でて、クラスターでたり、三密に注意したりとか・・・」ととりあえず知ってる単語を並べ立てた。


 もう、何かのドッキリ? テレビの”モニタリング”?



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