第6話 成長

 特訓が始まって三ヶ月が経った。


「サラ、よく逃げずに私の特訓についてきましたね」

「……」


 サラの頭に悪夢が蘇る。


「もう無理ですぅっ!許してくださいぃっ!」

「大丈夫です。私はわかっていますよ。口でそうは言っても体はもっと鍛えてほしいと思っていますね、うふふ」


 ナナルが滅多に見せない笑顔を見せ、特訓項目が追加された。

 ナナルに心酔しているサラでも流石に肉体的にも精神的にも限界になり、何度も逃げ出そうとしたがその都度捕まり、


「まだ体力が有り余ってることを私に行動で示したかったんですね、うふふ」


 ナナルが滅多に見せない笑顔を見せ、特訓項目が追加された。

 そしてついには理性を失い、無謀にもナナルに戦いを挑んだ。


「くたばりやがれっ!」


 当然返り討ちにあい、


「なるほど。自分の力を試したかったのですね。あなたに相応しい相手を探して上げましょう、うふふ」


 サラは気づくと見知らぬ山にいて、目の前に魔物がいた。



 こうしてサラは何度も何度も生死の境を彷徨い、その都度ナナルの超回復魔法で復活する。

 その繰り返しだった。

 この地獄からどうやっても抜け出せないと悟り、サラは考えるのをやめた。


(……そうしたらなんか楽になったのよねえ、ふふ……って、あああ!考えたらダメよ!思い出したらダメよ!私!)


「サラ?」

「は、はい!頑張りました!」

「この短期間にあなたは数多くの魔法を授かり、戦闘技術も格段に向上しました」

「ありがとうございます」

「明日は騎士団に同行して魔物退治に出かけるのでしたね?」

「はい」

「では今日の訓練は軽めにしておきましょう」

「やっぱりするんですね……」

「何かいいましたか?」

「いえ!何でもありませんっ!」



 翌日、

 サラは討伐を終え、ナナルの元へ報告に来ていた。


「先ほど騎士団の方に会いました。討伐では大活躍されたそうですね。騎士団の方々は大変驚いていましたよ」


(それ、怖がってましたの間違いだと思います)



 以前のサラは騎士団の間でとても人気があり、二級神官に昇格した当初は「自分を勇者候補に!」と申し込む者が毎日のようにやって来ていた。

 だが、今回の討伐ではサラと久しぶりに話すチャンスだったにもかかわらず、話しかけるどころか近づいても来なかった。

 それは当然かもしれなかった。

 サラの戦闘力は桁外れだったのだ。

 初戦の時のようなうっかりではなく、意図的に全身にハードコートをかけて魔物を殴り飛ばした。

 日頃の鬱憤を晴らすように暴れまわった。

 その姿を見て、引く引くみんな引く。


(久し振りにスッキリしたわ。今思えばあのときの私は満面の笑みを浮かべてたかも)


「……鉄拳制裁のサラ」


 どこからそんな声が聞こえたような気がした。


「野獣を前にしている心境なんだけど……食べないでね」

「……酷い言われようだわ」


 同行した親友の言葉にサラは悲しくなった。

 サラは自分が強くなったことを実感できたが、それでもナナルにはボコボコにされる。

 これだけ自分が強くなってもナナルはずっと先にいるのだ。



「念のため確認しますが、必要以上に魔法は見せていませんね?」


 ナナルのその言葉がサラを現実に引き戻した。


「はい。使ったのはハードコートだけです。ヒールも使う機会がありませんでした」


 ヒールは初級の回復魔法だ。

 ほとんどの神官が最初に授かる魔法だが、サラが最初に授かったのはハードコートで、ヒールは三番目だった。

 魔法は人により得手不得手がある。魔法を授かったからといって必ずしも上手く扱えるとは限らないが、経験を積むことである程度カバーする事ができる。

 サラにとってヒールがまさにそれだった。授かった当初は効果が平均以下であったがナナルとの特訓で頻繁に使用することで今では得意といっていいほど効果が上がっていた。


 サラの言葉を聞き、ナナルが少し首を傾げる。


「騎士団の方々の怪我は少なかったのですね」

「そ、そうですね」


 それも間違いではないが、怪我した者達はサラを避け、他の神官に治療をしてもらっていた。


(私、バケモノ扱いされてるみたいだったな。でもそんな私以上のバケモノなのよね、ナナル様は)


「どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもないです」

「そうですか。前にも話しましたが、あなたが授かった魔法の多くは対魔族用と呼ばれる強力なものが多いです」

「はい」

「その事を知られると皆に不安を与えるかもしれませんので使用にはくれぐれも注意してください」


 何故、皆が不安になるかといえば、強力な魔法を授かるのは魔族の侵攻が近づいているからだという説があるからだ。


「わかりました」

「では始めましょうか」

「あ、やっぱりそうですよね」


 サラはちょっとだけ「これで特訓を終了します」と言ってくれることを期待していた。


(また討伐にいきたいなぁ。魔物の巣窟でもいいけど)


 サラはボコられ意識を失う瞬間そう思った。



 そして更にニヶ月が経ち、サラの特訓は終了した。

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