大学1年 ⑬ またしても東京 ~ファイナル~

ガーガーガーガー・・・・

うるさいなぁ。誰かのアラームで目が覚めた。ネカフェに太陽の光は届かない。年中無休同じ暗さのネカフェでは、音が朝を知らせてくれる。

時刻は10時。今日は何をしようか。

3日目の東京、特に行きたいところなんてなかった。

でもせっかくの東京だし・・・。あ!!忘れてた!!


未希は吉祥寺に行かなきゃいけないことを思い出した。楳図かずおのまことちゃんハウスである。何年か前に景観が悪いことで問題になっていたあの家。ファンなら一度は見に行きたい場所である。


人生初の吉祥寺。人混みがうんざりだ。何があるかなんて調べる気にもならなかった。疲れ果てていたからである。すぐにまことハウスまでの道順をググった。

一本道を逸れたら、先ほどの大量の人が一気にいなくなった。恐る恐る道を進んでいく。すると・・・赤白の派手な家が見えてきた。上の方には立体でできたまことちゃんがぐわしをしている。

感激した。問題になるほど派手な作りではないと思った。確かに色は派手だけど、家の前に立たないと存在に気づかないからだ。周りの家よりも少しだけ奥に建ててあるから全然目立っていない。別にいいのになぁと思った。


5分くらい居た。家の写真を撮ったり、この中どうなってるのかなぁと想像したりして過ごした。もう十分見ることができたしそろそろ帰るかな。そう思った時だった。iPhoneがヴーヴーと鳴っている。父親から着信だった。正直出たくなかった。まだ東京に居るなんて言いたくなかったからだ。

恐る恐る出た。

「おい!今どこにおるんや!」

「今は楳図かずおの家の前に居る」

「あっはっは!おい!ちゃんとピンポン押して来いよ!!せっかくここまで来たのなら押さんかったらアホや!!」

「はぁ?無理だし!!絶対おらんやろ!」

「んここと言っとったらあこけ!京都から来ましたってちゃんと言うんやぞ!わかったか!!?」

「はいはい分かったよ!やってみるわ!!」


そういうやり取りをした。予想外の電話の内容に未希は笑えてきた。

よっしゃやってやるぞ!という気になった。

楳図かずおの家の前、いざ!ピンポンだ!!


ピンポ~~~ン♪

「はーい、楳図です~。今開けますね~」

そういうと門のロックがガチャリと解除された。


え・・・??居たん?しかも開けてくれるん??!なんで?こんなファンサービスいい人なん!?ヤバすぎる。どうしよう。


そんなことを思いながら玄関へと進む。開けてくれたのなら行くしかない!そう思ったからだ。


そして玄関の扉が開いた。

「はい楳図です。・・・は?だれ?」

目の前で見る楳図。じいちゃん。赤白の服だとばかり思っていたが・・・茶色の服を着ていた。なんでやねん!逆にレアか?!

「あの、京都から来ました!ファンです!握手してください!」

「え?だれ?時間ないんだけど!」と言いつつ楳図は握手をしてくれた。

楳図は門のところを見た。3人くらいスーツを着た人が来ていた。「ちょっとちょっと!来ちゃったじゃん!」そう言って部屋の中に戻っていった。35秒くらいのやり取りだった。


未希はすごく緊張したけどすごく満足した。こんなことが起きるとは思わなかったから本当にびっくりした。

玄関を離れて門を出る。3人くらいの人たちは仕事でこの家に来たようだった。

苦笑いですれ違った。


すぐに父親に報告した。そしたら、ほらな!!というような感じだった。

楳図かずおには迷惑をかけてしまったけれど、すべての偶然のおかげで握手までたどり着いたことに感激した。

あの時父親からの電話に出なかったら・・・。

父親が電話かけてこなかったら・・・。

来客の予定がもしなければきっと楳図は家に居なかった気もするし・・・。

もし来客者が私よりも先に来ていたら握手できなかっただろな・・・。


ああ、、、ありがとう。


幸せな気持ちで未希は東京を後にした。


2月からは部活が始まる。オフシーズンにたくさんの思い出を作ることが出来た。

嫌なこともあったけど、大ファンの楳図かずおの握手で締めくくることが出来て幸せ者だ。未希は心の底からうれしかった。大吉だなぁ。ふふふ!私って強運の持ち主だ!ふふふ!


これからも勇気を出して行動しよう!!その大切さに気付けたのだった。





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