大学1年 ⑫ またしても東京 パートⅡ

前日寝る時間が遅かったので9時半に起きた。今日会う人『野村さん』とは10時に集合となっている。未希は時間にルーズであった。10時集合なら10時ぴったりに着けばOKという感覚だった。逆に10分前に待ってたりすると張り切ってるって思われるから苦手だった。ほんの1・2分遅れる感覚が好きだったが、今回は起きてからのんびりしすぎていたし、9時55分なのに「着いたよ!ホテルの外居るね!」と野村さんからメッセージが届いた。まじかよおお早すぎだろ!と思いつつ、急いで準備してチェックアウトしホテルを飛び出た。


外に出たら腕を組んで待ってる野村さんが居た。野村さんともインターネットで知り合い、よく電話をしていた。野村さんは29歳で、仕事はまだしてなくて税理士の勉強をしているとのことだった。未希は相手が何の仕事をしてようがどうでもよかった。

「遅いよ!!」と言う。「遅いから腕も全然開放しない!」と言い、ずっと腕を組んでいた。そして上野動物園へ。

上野動物園でいろんな動物を見て楽しかった。ハシビロコウも居た。18歳の時、姉と東京旅行して、その時もハシビロコウを見た。その時たまたまハシビロコウと仲良しな人間が寄って行ってて、めったに動かないと言われているハシビロコウが羽をばたばたさせていた。すごく運がよかったのだが、今回はずーーーっと動かないままだった。それでも見れてうれしかった。レッサーパンダも印象に残った。めちゃくちゃ可愛かったからだ。

一通り動物園を楽しみ、ちょうど昼時になった。上野にすごくおいしい油そばの店があるから案内するよ!と先を歩いて案内してくれた。野村さんはしばらく歩いたが、そのうちきょろきょろしだし、「あれ?・・・なくなってる」そうつぶやいた。

ランチは日高屋で食べることになった。関西には日高屋はなかったので興味深かった。普通に油そばがおいしかった。そしてそこに酢をちょろっとかけると更においしくなることを学んだ。

御徒町を歩いた。「野村さんは、するめを食べながら勉強をすると集中出来るんだ。」といい、いろんな店を吟味してするめを選んでいた。なんだかおもしろかった。

「本日最終!本日最終です!ブランドものお早めに!」という呼び声が聞こえてきた。それを聞いた未希は、買わなくちゃ!!!と思った。こんな可愛いものが1,000円!?しかもブランドなのに!?なんでみんな素通りなん!?母親のお土産に買おう!!プレゼントや!!そう思い、未希はその店で時計を一つ買った。野村さんは何か言いたそうな顔をしていたが何も言わなかった。


「そうだ、横浜行かない??」御徒町探索も飽きたところで、野村さんが提案してくれた。行きたい!!!未希は横浜に行ったことがなかったので即答した。

未希の中で横浜は「one more time , one more chance」の街だった。そのころ何故か山崎まさよしのそれをよく聞いていたからだ。桜木町に思いを馳せて、二人は電車で向かった。


横浜に着いた。地図を見てビックリ。あれ?中華街とか観覧車あるところまでめちゃくちゃ遠くない?!そこまでどうやって行けばいいのかわからなくて、約4キロの道のりを二人で歩いて向かうことにした。

歩いてるとき、行きに合ったことを相談した。

「私の電話番号を教えた人は部活の4回生の先輩だったんだよ。証拠なんてないんだけど、いつも私とか一つ上の先輩に「未希ちゃんこっち向いて―」と声かけて写真撮って、勝手にOBの男の先輩に送ってるんだよ。その先輩は「キモ!」とか返事してるんだよ。ひどくない?それにわざわざやり取りを見せてくるし。それにその人とそのOBの男の先輩はセフレらしい。本当にありえない。きもいのはどっちよ!」

野村さんは「そんなことする人だから、絶対その人が番号教えたんだと思う。そんな人に人生で出会ってしまうのは残念なことだね。」

そう慰めてくれた。


「僕を練習台にして、自然に手を繋ぐ練習してみなよ!」そう提案をしてくれた。未希はドキドキした。自分から手を繋ぐ!?はっ!?すごく緊張したが頑張って練習をしてみた。「全然ナチュラルじゃない!!!」そういうアドバイスをしてもらった。男と付き合うというのがよくわからなかった。触れ合いの大切さなんてものも全然分からなかった。でも手を繋ぐ練習、なんだかすごく楽しかった。


そうこうしている間に観覧車が近くに見えてきた。「観覧車乗ろうよ!」すごくワクワクして誘ってきたので断る理由はなかった。しかしよく見ると回っていない。風が強くて運休中だったのだ。野村さんの手は未希から緩やかに解かれていった。



赤レンガ倉庫に入った。よくテレビで見るところだったので何があるか楽しみだった。いろんな商店があり洒落た雑貨が多く売られていたが、未希はその雰囲気がなんとなく好きではなかった。アイスクリーム屋があったので食べることにした。

野村さんが急に言い出した。「僕さ、付き合ってた子との思い出を何かにして取っておきたくて、ご飯食べに行ったときとか遊びに行った時のレシートは全部保管していたんだ。そういうのある?」

未希は突然の話題になんて返事をしていいか分からなかった。まず好きな人とデートをしたことがなかったし、デートをしたとしてもチケットは保管するかもしれないが、レシートは普通に捨てる気がしたからだ。

「そうなんだ。私は分からない。たぶん捨てるよ。」そう言った。

そんなにこの話題は盛り上がらずに終わった。手元には先ほど買ったレシートがある。食べ終わった後、野村さんはアイスクリームのカップのごみと一緒に、レシートをゴミ箱へ捨てた。捨てるんや。未希は少し寂しかった。


外に出ると思った以上に日が暮れていて、先ほど隣を通り過ぎた観覧車が美しい色を演出して感動した。夜は海の波も立ちにくく、逆さ観覧車もばっちり見ることができた。

この先立ち入り禁止の文字を無視し、海に近い場所に二人で腰かけた。

何を話したのか覚えていない。野村さんの話よりも、横浜の夜景がすごく美しくてそればかりを見ていたから。だけど一つだけ覚えている。

「未希ちゃん、今自分ですごく痛いくらいほっぺを抓ってみて。」

未希はよくわからなかったけど、思いっきり抓ってみた。真面目に抓ったからすごく痛かった。

「しっかり抓った?痛い気持ちになった?これは痛みのアンカリングってやつだよ。何か刺激がある方が今日のこと思い出すことができる。だからきっと、今後痛みを感じたら今日のことを思い出すよ。」

急に抓ってなんて言うしどうしたんだろうなんて思っていたけど、その説明を聞いてなんだか未希はジーンとしてしまった。


そろそろ帰ろうとなり、また4キロ頑張って歩いた。

帰りの電車は仕事帰りの人も多くキュンキュンだった。たまたま空いてる席があったので、それぞれその席に座った。隣に座ったサラリーマンは本を読んでいる。未希は暇だったし野村さんのこと笑わせてあげようと思って、サラリーマンの本を軽くのぞき込むような感じで一緒になって読んでるふりをした。野村さんをちらっと見ると、目は合ったが真顔である。電車を降りたら「隣の人の本をのぞき込むなんてデリカシーない!」と注意をされた。そういう風に見られていたんだな。少し反省した。


今夜はホテルを取っていない。野村さんは「ホテルに泊まろうかな」なんて言っていたが、未希は「えーー?!」と眉にしわを寄せた。「冗談だよ。」そういうやり取りがあった。池袋のネカフェに、ドリンクバーにソフトクリームが置いてあるからここおススメだよという店の前まで案内してもらった。

今日はありがとう。こちらこそありがとう。

そんなやり取りが最後だった。楽しかったけどなんだか不思議な感じがした。未希にはよくわからなかった。



ネカフェで一人になり、楽しかった思い出たちを切り離した。

一人になって思うこと、それはやはりあの先輩のことである。どうにかして復讐したい。どうにかしてみんなにこの事実を知らせたい。何かいい方法はないか。

そうだ。

未希はフェイスブックを開いた。そしてその先輩をタグ付けして文章を書いた。

「この人は、私の電話番号を勝手に人に教えたり、私のことをセフレにと紹介したり、本当に最低なことしてきました。くたばれ」

そう書いて目を閉じた。投稿して間もなくバイブ音が鳴る。ほかの2人の先輩からメッセージだった。

「未希の言ってることは本当に正しいけどすぐに消した方がいい」

「たぶん消した方がいいよ!」 

メッセージを返そうとしたとき、当事者である先輩から電話が来た。


「あの投稿何?消してもらえませんか。まず未希の電話番号を教えてないし」

「いやいや、タケシって人と知り合いですよね。その人があなたに教えてもらったって言ってるんですけど。」

「タケシって誰?私全然知らないんだけど。てかフェイスブックは就活とかでいろいろな人見るから早く消してほしい」

「まぁ消すのは消すけど、なんか信じられへんわ」


そんなことを電話でやり取りして、とりあえず投稿は消した。

5分間の復讐。この短時間に一体どれだけの人に見られてしまったのだろう。未希はその行動のヤバさを全く考えてなかった。2013年。インターネットは多少マシな時期であったのが救いだっただろうか。(2022年の未希より)




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る