大学 ⑪ またしても東京 パート1
東京へ行く夜行バスを、未希は京都駅の近くの道でぼーっと待っていた。ポケットに入れていたiPhoneがヴーヴーと鳴っている。画面を見ると、知らない電話番号からの着信であった。誰だろう?と思い通話を始めた。それがトラブルの元であった。
「こんばんはー!タケシです!今度遊びませんか??」全く知らない男がそんな会話を展開してきて、未希は「は?」としか思えなかった。あまりにもフレンドリーであるから、誰かの友達かな?なんて思っていたが、よく聞くとそうでもなさそうだった。どうして私の電話番号を知ってるの?と聞いたら、教えてもらったよと言う。なんだか怖くなった。タケシと名乗る男と電話が終わった後、冷静になった。なんで勝手に私の電話番号を教えるんだろうと。タケシとは電話をしたくなかったので、メッセージにてやり取りをすることにした。教えた相手を知りたかったのだ。
【誰に教えてもらったのか】
【どういう関係になりたくて電話をしてきたのか】
とりあえずこの二つが気になった。そしてだんだんイライラしてきたので、ちゃんと答えろや というようにどんどん乱暴な言葉遣いになって質問をしてしまった。相手はごめんねと謝ってきたが、ちゃんと誰に教えてもらったかを聞き出したかったので、思い当たる人物の名で確認したら、「そうその子だよ。君とセフレになろうと考えていた」と返事が来た。未希はすごく嫌な気持ちになり、同時にその人物を憎んだ。やっぱりあいつか。未希のイライラはMAAAAXに達した。
それは部活の四回生の先輩だったからだ。
夜行バスの中、心の中がモヤモヤしていた。そしてイライラもしていた。悲しさといら立ちが半分ずつ。どうにかしてやり返さなきゃなと思った。未希はやられたらやり返す派の人間だったのだ。せっかく楽しみにしていた東京旅第二弾の幕開けは最悪なものであった。
今回の東京旅の目的は3つあった。1つは、みうらじゅんの『いやげもの展』を見ること。2つ目は、上野動物園に行き、ハシビロコウを見ること。そしてハシビロコウの人形を買うこと。3つ目は、下北沢にある楳図かずおのまことちゃんハウスを見ることであった。
無事にバスは東京へ着いた。夜行バスの厄介なところは席が窮屈であることのほかに、朝早く着きすぎるところもある。6時過ぎ、どうやって過ごしたらいいんや!と思い、とりあえずマクドナルドで時間をつぶした。化粧をして朝マックを食べて、ちょっと眠って過ごした。あんまりしっかり寝れてないから熟睡したいなと思ったけど、太陽の光は生き物を目覚めさせる力があるから、マクドで熟睡ぐーすかぴーは難しかった。
10時ちょうど、渋谷のパルコへ。そしていやげもの展へ。運よくみうらじゅんとか居ないかななんて思ったけどいなかった。ここの展示に来た人と友達になったりしないかななんて淡い期待もあったけど、そんなことあるわけなかった。この展示は名古屋にも巡回すると知っていたけど、東京に行きたいからそんな情報は見て見ぬふりをした。
ほかにもイベントがあるとフライヤーに書いてあった。パルコの近くの壁に、グラフィティの絵をライブペイントしていると知ったので見に行った。描いてる人が私に気づき絵の説明をしてくれた。よっしゃ見るぞー!と思ってすぐ、佐川急便のトラックがちょうど絵を描いてる真ん前に止まった。なんでやねん!そう思ってみる気をなくしその場を去った。
展示を見た後はまた中野ブロードウェイに行き、楳図かずおのグッズを買いまくった。年末の東京旅から帰宅したあと、未希は楳図かずおのファンとなっていたのだ。漂流教室やへび女を読み、作品の面白さやストーリーの深さに感動したからだ。そして絵も未希好みである。ポストカードはもちろん、缶バッチ、キーケースを購入した。
未希はフライヤー集めが趣味の一つに加わっていた。それは姉の影響である。姉は、訪れたカフェに名刺などが置いてあったらそれを必ずもらっていた。そしてそれをファイルに閉じていたのだ。それをみて未希もやってみたくなった。でもカフェなんて行かなかった。京都の先斗町には、店に入らなくても、店の外に名刺が置いてあった。無我夢中で集めまくった。そのうち名刺だけに修まらなくなり、イベントや映画のフライヤーを見つけたら、種類問わずに全部持ち帰るようになったのだ。
それを東京でもやることにしていた。中野ブロードウェイには大量のフライヤーが置いてあり、いろんなデザインや紙質に触れ合えてすごく楽しかった。たまにステッカーも置いてあるから、そんなときはテンションがさらに上がった。紙なので場所はとらないけど、リュックの重量は歩いた分重くなっていった。
夜、上野で人と会う約束をしていた。36歳男性である。その人ともネットつながりで知りあった。何度か電話をして、東京に来るなら会おうよという話になった。
上野駅近くのビジネスホテルに飛び込みで入ったら、一部屋空いてるのでそこに泊まることにした。
36歳男性は身長が高かった。スリムではなくてズドンとしていたので、大男というイメージを持った。夜11時前に待ち合わせをし、夜の上野をしばらく散歩した。その人はマフラーをしており、肩にかけるたびに未希の顔にそのマフラーがぶつかった。周りの人のこと考えなよと思った。シャッター街になった浅草寺を歩いた。いつも多くの人が居る浅草寺、ガラーーーんとしていて面白かった。そしてシャッターに描いてあるイラストが可愛かった。
その人に夜ご飯を食べたか聞かれた。食べてないと答えた。近くにフィッシュネスバーガーがあったので、「おごるよ!」と言われ、アボカドバーガーを頼んだ。店内で食べるのかと思ったら、いい感じの場所で食べようと提案され、またしばらく歩いた。歩いていたら歩道橋がある。「あ、歩道橋の上で食べようよ。なんかこういうの楽しくない?」と言われた。マジかよと思ったけど、とりあえず相手の提案にのり、歩道橋の真ん中でハンバーガーを食べることになった。人生初である。
広い道路、車がブーンと通る。私ここで何してるんやろなぁ。そんなことを思ったけど、その日は冬の夜にしては寒すぎない気温だったし、少し冷え切ったバーガーと36歳男性と歩道橋、なんだか変な組み合わせが面白く感じた。
食べ終わってまた歩いた。何を話したか覚えていない。薄っぺらい会話だった。ベンチがあったので座った。「未希ちゃん可愛いよ。」突然そんな風に言われ、未希はなんて答えたらいいかわからなかった。とりあえず「はっはっは!ありがとう!」わざと明るく返した。その後、歩きすぎたため電車に乗って上野まで戻った。36歳男性は散歩をしてる時、写真を撮るタイミングを感覚的に教えてもらった。今いいじゃん!!というタイミングを何回か教えてくれた。未希はまだ、写真を撮る趣味を持っていなかったし興味もまだ無かったため、その人との散歩で少しだけ刺激を受けた。
ありがとう。そう言いあって解散した。
次の日はまた別の人に会う。その人と上野動物園に行く予定だ。
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