大学1年 ⑦ チャリの旅

「解散!」部室に響き渡る主将の声と同時に、未希は気が抜けた。やっと今週もしんどい部活が終わったからだ。未希は同期と自転車で帰ることもあったが、人と帰る時間を合わせるのが面倒くさいので一人で帰ることも多かった。この日は少々早く終わり、まだ夕日がほんのり明るく地球を照らしていた。このまま家に帰るのって勿体なくない?未希を動かしてる脳みその住人が未希へ問いただす。わかる、このまま帰るのなんてつまらなさすぎる。そう未希は応じた。でも行先はどこだろうか?

ふと見上げると看板。『京都まで14km』え?ここから京都までたったの14キロ?!近すぎる。行ってみるか。そして看板の矢印通りチャリを走らせた。

京都に行くことに決めて走り出したはずだが、ふと、アメリカの旗が飾ってある店を発見し気になって入ってみることにした。ガラガラっとドアを開ける。誰もいない・・と思ったら、いらっしゃいと奥から白髪のおじいさんが出てきた。よく店内を見てみると、ジーンズやウエスタンの帽子が売ってる服屋であった。そのうち店内にロカビリーの音楽が流れだした。スピーカーを見てみると、ギターを改造して中にスピーカーを入れ、そこから音楽が流れる仕組みになっていた。かっこいい!と未希はすぐに心を掴まれた。そして1時間ほどずっとおしゃべりをしていた。ジーンズは裏起毛になってて6万円。何も買えるものがない。けど、おじいさんはそんなことどうってことないようだった。ウエスタンの帽子を被らせてくれた。正直欲しいとは思わなかったけど、初めてこういう帽子を被れてうれしかった。将来はフォルクスワーゲンに乗りたいと思ってる。なぜならあのマークがかっこいいから!なんて話をしてたら、机の中をごそごそしだした。しばらくしたら、フォルクスワーゲンのシールを持ってきて、それを私にくれた。本当にうれしかった。「好きなことをしてるとね、同じような人が周りに集まってくるよ。だからずっと好きなことをし続けるといいよ。」そう教えてくれた。1時間で未希はいろんなことを学んだ気がした。人生において大切なことである。「またおいで」とおじいさんは帰るときに行ってくれた。しかし未希がこの店を訪れることはなかった。なぜなら顔見知りと言うのが恥ずかしいからである。


外に出るとすでに夜の暗さになっていた。しかしここからが本番である。帰る気は一向に起きなかった。「京都に行く」ということだけが今の未希の目標だったからだ。

しかし未希は甘く見ていた。この先山を二つ超えなきゃいけないことを知らなかったからである。

はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・なんちゅうキツいんや・・・。上り坂をほかの人は自転車を押して歩いて登っている。しかし未希は立ち漕ぎで降りずに漕いだ。途中で降りて自転車を押して登り出したら恥ずかしいという気持ちがあったからである。


なんとか二つ目の山を登り切った。そして山の頂上から京都タワーが見えた。未希は感動した。あの店を出てから約2時間半、ずっとしんどい思いをして漕いできたからだ。そしてスマホで写真を撮った。一応ナビを付けてきていたからもう充電が10%だった。あああ最高だ!京都タワーと京都の夜景見れたし、まぁそれよりもこのくだり道、なんちゅう爽快な気分やろ!!!と大満足で下っていた。


もう九時過ぎである。未希はこの後どうするかなんて何も決めてなかった。とりあえず京都に住んでる部活の同期の女の子に泊めてもらえばいいやと考えていた。しかしスマホの充電が切れてしまった。これでは連絡が取れない。どうしよう・・・と思っていたが、こんな時がある気がしていたので未希は小さなノートに部員全員の電話番号をメモしておいた。公衆電話に十円を入れて本日の宿の女将(部活の同期の女の子のこと)に電話を掛けた。繋がってすぐに未希は「るるちゃん?あんさ、今二条駅にいるんやけど、、、」と話をしていたら、男の人が「どちら様ですか??人違いだと思うんですけど」と言う。え?!でもこのノートの番号にちゃんとかけたんだけど・・・。と内心思ったが、もしかしたらボタンを押し間違えたのかと思い、すいませんと謝り電話を切った。再度十円玉を入れ番号をかける。そしたらまた同じ男の人が出た。えええ!??!なんで!?この番号が違うってことじゃん!!!?どうしよう・・・・

未希はどうすればいいか少々考えることにした。100円を崩すのが億劫だった。































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