大学1年 ⑥ 初めての遠出
未希はひとりで居るとき、相変わらずスカイプばっかりしていた。面白い人がうじゃうじゃいるから辞められないのであった。その中でひとり、足立区に住んでるという中学三年の少年(カイセイ君)と仲良くなった。彼は荒らしばっかりしていて、未希はその一部始終を聞くのが好きだった。いろんな荒らしをしていたが、カイセイ君はスカジャンを好み、ツッパリハイスクールロックンロールを聞き、ビーバップハイスクールを見ていて、そういうところも面白いなと未希は感じていた。
ある日、荒らしをせずに仲間たちと雑談通話をしていた。カイセイ君は最近野宿をしたという。「公園で寝てたら隣におじさんが来て、吸います?と言ってタバコ一本あげた。」と話をしていた。未希はピンと来た。私もそんなことしてみたい!!と。
そして次の日、さっそくYOUTUBEで野宿のコツの動画を見た。スーパーに置いてある段ボールをもらえばいいのと、寒さ対策としては溝にハマって風を直に受けなければいいということを学んだ。未希はそのころ、フェイスブックに日記や思ったことを書いていた。そこには部活の先輩、高校の友達、そして家族が友達であった。
「今から野宿しに大阪行きます!楽しみ!」という投稿をした。カイセイ君にも、今日は野宿する!とチャットをしておいた。部活の男子の先輩二人からコメントが来た。「ちゃんと段ボール持ってくんやで~」と。もう必要なものは知ってますとコメントを返した。未希は、大阪の太陽の塔のすぐ隣で野宿をする予定であったが、調べたらそこは夜には門が閉まるのでできないということを知った。どうしようかな・・・書いたはいいけど場所が・・。と思っていたら、普段電話でやり取りしない母から電話がかかってきた。「あんた、今からどこいくの??馬鹿なことはしないでしょうね!!」と。普通に野宿の投稿を見られていたのだ。そして心配して電話してきてくれた。やっぱり冬の野宿はしんどいよな・・と思い、おとなしく家で寝ることにした。
次の日、寒さで目が覚めた。カーテンを開けると雪が積もっていた。久々に見る雪であった。昨日野宿を止めてくれた母に感謝をした。もしあのまま野宿に行っていたら・・・私凍死してたかも。命を救ってくれてありがとうと感じた。
カイセイ君と次に電話した時、本当に野宿したの?と聞かれた。いや、止められて結局できなかったと答えた。しばらくしてから、あの野宿の話は嘘だよと教えてくれた。そんなことするわけないじゃんと。え・・?という感覚が未希の中に残った。
未希は人の話を簡単に信じ込み、そしてやりたいと思うことはすぐにでもやろうとしてしまう。それはいいことだけど、このように危ないことでもあった。
銀杏BOYZが再活動しだしてから、以前に増してよく聴くようになっていた。ああ、高円寺に行ってみたいな。東京に行ってみたいな・・・。夜、銀杏BOYZのPVを見ながら心をワクワクさせていた。え?待って。明日行けばよくない???別に明日何か用事があるわけでもないし、もう冬休みだし。バイトはたぶんない気がするし、行っちゃうか!!!そして新幹線の時間を調べ、明日のために早めに眠りについた。遠足前のドキドキ感を久々に感じてしまい中々寝付けなかった。
朝が来た。新幹線に乗る。久々の東京。景色がどんどん変わっていく。高くそびえたつビルたち。あああ、ついに来てしまった。東京。ワクワクが追い付かない。
未希は東京観光を一人でする勇気がなかったので、またもやスカイプで東京に住むという26歳の男性に案内してもらうことにしていたのだ。チャッピーとの出会いで「会う前には電話する・顔を見る」と反省したのだが、今回は急遽東京に行きたくなったので、そんな関係を築く間もなく会うことになった。
グレーの服を着た男性に声をかけた。「はじめまして、武井です。本日はよろしくお願いします。」チャットから堅苦しい感じがあったが、リアルでも堅苦しい感じがした。そして未希は最初タメ語で話をしていたが、相手があまりにも敬語のままであるため、未希もそれに倣って敬語で話すようになった。未希は165センチだが相手も同じ背の高さだった。なんだか久々に同じ目線の男性と話をした気がするなと不思議な気持ちになった。部活の男子たちは未希よりも背が高い人ばかりだったからだ。
もう昼時だったので、隣のビルでランチを食べた。武井さんはフォークを裏向けてそこに食べ物を乗せて食べていた。未希は左利きで、昔からナイフとフォークを使うことが苦手であった。恥ずかしい気持ちになったが、真似してフォークの裏に食べ物を乗せることはしなかった。ああ、都会っ子は食べ方も都会だなぁと感じたのであった。
そして向かった先は『江戸東京たてもの園』である。未希は昭和の建物を見ることが好きだったから、そのことを伝えるとこの場所おすすめだよと教えてもらった。そしてそこに行くことになったのだ。いろんな古い建物を見れて楽しかった。
そして次、行きたいところある?と聞かれた。実は未希、本当は高円寺へずっと行きたいと思っていた。銀杏BOYZといえば高円寺であるからだ。でもなぜか恥ずかしさがあり言えずにいた。しかし勇気を持って、高円寺へ行ってみたいです!と伝えた。「え?!そこ降りたことないです。何かあるんですか??」と言われたが、未希の希望通り向かうことにした。
生まれて初めての高円寺。ずっと行ってみたいと思っていた場所。くそ、一人だったら最高だったのに。そう思ったが、もう夕方だったしそろそろ別れる時間帯にもなってきたから我慢した。近くのケンタッキーでご飯を食べることになった。高円寺でケンタッキーかよ。と19歳の未希はがっかりしていたが、深く考えないことにした。
「今夜はどこで宿取ってるのですか?」と聞かれたが、未希はどこかのネカフェに泊まればいいやとだけしか考えていなかったのでそう伝えた。新宿にたくさんネカフェあるから新宿まで戻ろうと提案され、戻ることになった。しかし未希は、絶対あとでまた高円寺探検してやるぜ!と心の中で火を燃やしていた。
そして新宿へ。ビルと人とネオンの光がぐちゃぐちゃに混ざり合う街を少し歩いた。
あまりの人の多さに興奮していたが、ポケットの中に入れてるスマホがヴーヴーヴーと鳴り現実へと戻された。それはバイト先からの電話だったからだ。え?今日ってバイトの日だったっけ?どうしようどうしようどうしよう・・・スルーするしかない。武井さんにあたふたしているのを気づかれないように歩いた。何度も何度も電話がかかってきたので電源を切った。そしてネットカフェの前に到着し解散することになった。めちゃくちゃ楽しかったわけではないけど、いろいろ案内してもらってありがたい気持ちだった。しかし解散後、とても自由な気持ちになり、鳥のように翼が生えてきそうだと感じた。まだ19時過ぎである。ネカフェに入るわけがなかった。そして歌舞伎町へ向かった。
ヤフー知恵袋からの情報で、歌舞伎町には10メートル単位で怖い人が立ってるらしいと知り、未希は歩いてみたくなったのだ。どのエリアが歌舞伎町なのか全くわからなかったので、とりあえず『歌舞伎町一番街』とキラキラしてる看板のところを一直線に歩いた。しかし10メートル単位で人なんて立っていなかったし、見た目が怖そうな人もいなかった。とりあえず一本道を往復して歩き、よし!と小声で声援をあげた。また一つ自分を成長させた気分になったのだ。そして高円寺へ向かうことにした。
先ほどと同じ町なのに、一人になると急に感傷的になる。やっとたどり着いた行きたかった場所。こんな簡単に行けるなんて思わなかった。とりあえずテキトーに歩いた。聖地巡礼って楽しいものだと思った。まだやってる古家具屋があったので、そこに入ってみた。狭い店内にレトロなものがたくさん置いてあった。とりあえず栓抜き3個と面子を3枚を購入した。いい時間になってきたので、駅近くのネットカフェへ行った。人生初、ネットカフェで泊まることにもワクワクしていた。さっそく、明日行きたい場所を調べることにした。そう言えば芸能人たちが、ある神社へ行ったら小さいおじさんが見えるようになったと言っていたなということをふと思い出した。それは一体どこなんだろう?と調べてみたら、うわお!高円寺からバス出てるやん!絶対ここに行くぞ!とすぐに決まった。『大宮八幡宮』である。
ネカフェのフラットシートは快適すぎて熟睡できた。小さすぎるトイレの洗面所で顔を洗いコンタクトを入れ、そして大宮八幡宮行きのバスに乗り込んだ。すごく狭い道をバスが通っていく。すごいなぁと感動した。しかし大宮八幡宮に着いたらもっと感動した。都会がどっかに消え去ったみたいに静けさが神社の中に立ち込めてて、強制的に背筋がピンとなってしまった。大きな太い木が左右にあり、そこにそれぞれ『銀杏男』『銀杏女』と書いてあった。え?!?こんなところで銀杏BOYZ?!そしてGIRLZもいるやん!とすごくテンションが上がった。お参りしてからおみくじを引いた。大吉。よっしぁ!!気分は最高だった。また高円寺へ戻り、次は中野へ向かった。中野ブロードウェイに行くためである。
初めての中野ブロードウェイ。その手前の商店街だけでもとても楽しかった。靴下屋があったので、阪神タイガースが好きな部活の同期にトラ柄の靴下を一足買った。
そして中野ブロードウェイ。作りが意味わからなかったけど、エスカレーターを上がった先、そこは天国だった。いろんなフィギュアや漫画、大量にあって未希は4時間ほどずっといろんな店をぐるぐる回った。しかし何も買わなかった。興奮しすぎてしまい、何を買えばいいかわからなかったのだ。地下にあるカラフルなソフトクリーム屋でアイスを食べた。すごくおいしかった。そして帰宅することにした。もう年末なので、このまま実家に帰ることにした。
いろんなことが初めての経験だった。帰宅してから気づくことがある。いろんな店に楳図かずおのまことちゃんのグッズがよく売られていた。そのときは可愛い絵だなという程度だったが、ふと考えてみたらなんで買わなかったんだろうという気持ちになってきた。そして楳図かずおのことを調べることにした。昔、年末のガキ使で赤白のおじいさん出てたけどその人か!!という発見があった。彼が描く恐怖漫画を私も読みたい!と心の底から思った。そしてとりあえず漫画を集める目標ができた。
この東京の旅は、未希のこれからの人生をすごく豊かにするものとなった。そして、行きたい場所には「行きたい!」と思ったらすぐに行かないと意味がないということも学んだ。そこに新たな発見があることが多いからである。未希は今後もちょくちょく東京に行こうと決めた。
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