大学1年 ⑤ 部活の仲間
大学生になって初めてのインカレは良い結果と言えるものではなかった。未希はボートでいい成績を収めたいなんて10mm程度の気持ちしか持っておらず、練習をする時間よりも夜のほんの少しの自由時間が楽しみでたまらなかった。
未希は時には恋をすることもあるけど、女らしさや色気なんて全くなかった。それに女子部屋で繰り広げられる恋バナよりも、男子たちとどうでもいい話で笑っているのが好きだった。中学時代から『花より男子』のようなドキドキする作品よりも、『ゴリラーマン』のような爆笑できる作品を好んでいたのだ。高校時代、しょこたんと同じ誕生日、そして左利きも一緒ということで、自分もしょこたんを見習い蝉の抜け殻を集めていた。鞄にはコガネムシ・人面カメムシ・サソリのキーホルダーがついていた。ブルーハーツのギター担当の真島昌利の詩がとても好きで、少しでも近づきたいと思い洗濯ばさみを5個ほどぶら下げていた。彼はソロライブで、服に大量の洗濯ばさみを付けていた。その時の真似である。
そんな少年時代を過ごしてきたのだから、大学入学後一気に女性らしさを発揮することなんてできずにいたし、未希自身もそんなこと考えてもいなかった。入学前の部活で、入学式はノーメイクで出るつもりと女子の先輩に言ったら「ありえない!少しは化粧をするべき!!」と言われたので、急いで薬局に化粧品を買いに行った。人生初の化粧ではないが、そんなに慣れていない化粧をして入学式に臨んだ。それを機に化粧をして授業に出ようとしたが、トイレの鏡の前でほんのちょっと変わった自分を見て、気持ち悪い!と思い顔を洗ったりティッシュで化粧を落としたりした。部活の男子の先輩に化粧姿を見られたとき、「化粧してるよりもノーメイクのほうがかわいいよ!」と言われたこともあり、結局ノーメイクのまま過ごすことにした。
田村に対する思いは、横井さんからの情報を聞いて以降燃え下がっていた。でも田村と千夏はどう考えても恋人同士になっていないというのだけは分かった。もうどうでもいいことだったが、ほんの少しだけ田村を好きという気持ちがあった。
未希は同期の男子3人と仲が良かった。G、みっち、時雄の3人だ。みっちと時雄とは同じキャンパスであったから、平日でもたまに部屋に行ったり来たりして遊んでいた。
だけどGは、キャンパスが違うのにこっちによく遊びに来ていた。自分が出なければいけない授業には出ず、こっちで一緒に授業に出たりしていた。一人だと授業にはでなかったけど、Gと一緒だったらごっこ遊びの延長線のように感じ、楽しくて積極的に参加した。
一度、未希とGは授業中に合流したことがあった。授業の途中、モヒカン頭の大男がズンズンズンと歩いてくる。そして私の隣に座る。それを見た同じクラスの男子が、クラスのグループラインに「みきの隣に座ったモヒカンの子だれ??!」とびっくりした様子で質問してきた。クラスの中で未希は自己表現をしていなかったから、モヒカン頭の大男と友達だったとはびっくりしたことだろう。
Gはよく赤いニット帽を被っていた。そして授業中も帽子を外すことなく受けていた。ある日先生が急に「ふざけるな!ニット帽も外さずになんだ!!!」と急に切れてきた。びっくりした。「アメリカンフットボールとラグビーの違いは?」という問いに対し、ボールの形が違いますと未希が答えたのが原因である。だれでも単位が取れる授業で未希は単位を落とした。気は落とさなかった。
Gはよく家にも泊まっていた。Gは合宿所で使うニンニクチューブを持ち歩いている。G飯店といって、レバニラ炒めや炒飯を作ってくれた。そして一緒に食べた。Gの作る料理は味が濃くておいしかったが、ニンニクの臭いが2日間は取れなくなるからしんどかった。
Gが泊まるとき、未希は風呂に入らなかった。そしてGももちろん風呂には入らない。寝るとき、未希はベッドで、Gは窓際で何も敷かずに寝ていた。二人は友達であり恋人ではなかった。泊まることなんてへっちゃらだった。Gは未希のPCで自分のフェイスブックを見ていた。未希はなるべくPCを使ってない生活を送ってるふりをしていた。Gが来るたびにスカイプをごみ箱に捨てて、絶対に見られないようにしていた。バレないかソワソワしていたがバレることはなかった。たまに、早く帰ってほしいと思うこともあった。一人でのんびり知らない人とチャットする時間が欲しかったからだ。現実世界とネットの世界、未希は両方ともが好きであった。
12/24 クリスマスイブがやってきた。未希に予定なんてなかったが、仲良い3人&横井さんが家に来てくれた。そしてピザを頼み、ケーキやチキンを食べたりして楽しく過ごした。思わぬクリスマスパーティーにすごくうれしかった。そしてスポッチャで朝まで遊ぶことにした。カラオケ、卓球、ボルダリング、ロデオ etc... 最高のクリスマスだった。ここに田村さんが居たらもう少し楽しかっただろな、という気持ちは心の奥に閉まった。
2013年11月、銀杏ボーイズが9年ぶりに活動することになった。ファンになってから2年後のことである。思わぬ出来事に未希は大喜びだった。そしてクリスマスに一曲、新アルバムに収録されている音楽がラジオで流れたらしく、ネットで知り合った銀杏の熱狂的なファンに、曲の部分の切り抜きを送ってきてくれた。一瞬4人の輪から離れ、それを田村に送った。未希なりのクリスマスプレゼントであった。「でかした!」という返事が来た。未希は思わずにやけた。どの場面を切り取っても「最高!」と言えるクリスマスを過ごせた。
未希は急にバイトをしたくなった。金を貯めたいと思うようになったからである。冬は部活がオフシーズンとなり、先輩たちはその時期にバイトしてお金を稼いでいるということを聞いた。ならば!と思い立ったら行動が早い。ホテルで料理を運ぶ派遣のバイトをすぐに始めた。
初日、結婚式披露宴の料理運びをすることになった。なんの要領もわからないのに、新郎側のテーブルを担当することになった。この業界は人手が足りず、初日だと言っても「仕方ない」と言われ、結局そのテーブルを担当した。料理にソースがかかってないのに持って行ってしまい、年下の子に注意された。未希は逆切れした。「持っていってって言われたから持って行っただけだし。そんなん終わった後に言わないでよ」と。めちゃくちゃ強くキレた。そしたら何も言い返しては来なかった。
披露宴が終わった後、テーブルをひっくり返し、ねじを外して足を短くする。テーブルから座敷へと変身させ、次は忘年会が始まった。酔っぱらいのうるせー中年じじいたちが調子に乗って女を口説いていた。ボケカスが!そう思いながら未希は酒を配った。
10時間、水分補給もほとんどできないまま着物を着て働いた。こんなにも働くことが大変だなんて知らなかった。未希は次の日も同じように働けると連絡していたので、明日も地獄だと思うと憂鬱であった。今まで部活でキツイ筋トレをたくさんしてきたし、スポーツテストでは満点を2年連続取っていたから、こんなことぐらい楽勝!と思っていた。調子に乗っていたのは中年じじいだけではなかった。
次の日、起きたら腰が痛かった。体がだるい。なんだか風邪気味である。今日はバイトなんて出来そうもない。担当者に連絡を入れた。そして未希はゆっくりと眠りについた。今後未希がバイト先へ行くことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます