大学1年 ③ ネットで即会い

大学に行けば趣味の合う友達がたくさんできると、高校時代の未希は信じていた。未希の地元はくそ田舎で、高校のクラスメイトはたいていジャニーズかアイドル、韓国アイドルのどれかを好きになっていた。誰一人として音楽の趣味が合う人などいなかった。しかし大学に入学しても、同じ音楽の趣味をしている人なんて発見できなかった。ユニクロで海外のロックバンドとコラボしたTシャツが販売されてるなど知らず、THE CRASHのギターを叩いてるあの写真のTシャツを着た人が居たから「え?CRASH好きなんですか?!」と、見ず知らずの太っちょの男の先輩に声をかけたりしていた。でもその人は「え?なに?!」とチンプンカンプンな様子であった。


部活の田村さんしか銀杏知ってる人いないんか・・・。未希はもっと、大学内で探せばよかったのだ。未希の学部のスポーツ学科には筋肉マッチョのゴリラとカンガルーばかり居た。比較的大人しい未希は、スポーツ学科の雰囲気が大嫌いだった。みんな友達!みたいなノリ。女子はかわいくてお洒落な子ばかりだった。垢抜けられない芋女の未希。劣等感で溢れていた。


10月を過ぎた頃、未希は決めたのだ。ネット内で友達見つけてやろう!と。

募集するのに使うのはもちろんスカイプである。

『銀杏ボーイズとか筋肉少女帯が大好きな19歳です!友達募集してます』

そう投稿したらわんさかコンタクトが来た。そのうちの一人、「チャッピーさん」とたくさんやり取りをした。好きなバンドはほとんど被っていたし、年も二つ上、そして大阪在住という。いろいろとチャットしているうちに明日遊ぼう!という話になった。行先はアメ村のまんだらけである。すごく楽しみになった!やっと友達ができる!とワクワクしていた。

「大柄デブやけどなw」という最後の一文は考えないことにした。



翌日、待ち合わせの改札口には何人か人がいた。チャッピーさんとは通話もしてなければ顔写真も交換していない。まったく見当がつかないので、あの人かな?!なんて思いながらその人のほうを見てたら、違う方向から声をかけられた。

「あ、あの、昨日スカイプでチャットしてたチャッピーです。」

未希は茫然としてしまった。チャッピーさんは大柄デブすぎたからだ。一気にテンションが下がってしまった。だけど逃げ出す勇気はなかった。とりあえず約束通り、アメ村のまんだらけへ向かった。

未希はまんだらけが初めてではなかった。何回か来ている。そのたびにいろんなものをじっくり見て、欲しい本で安いものは買っていた。そんな居心地のいい場所に、今日は大柄デブのチャッピーと一緒である。狭い本棚の間、私が歩けばチャッピーも後ろをついてくる。わざと早歩きにしてみた。タッタッタッタ・・・同じ速度でついてくる。ハァ・・・ハァ・・・、未希は動機がした。早歩きしすぎたのではなく、チャッピーが後ろにいるという恐怖感とストレスである。まんだらけに入れば、各々が見たいところを回れると思っていたが、チャッピーは一緒に見たい派の人間だったのだ。本屋やCD屋を一緒に回るのは楽しいが、それは人次第で変わるんだと未希は気づいた。

結局何も買わずにまんだらけを出た。アメ村にはたくさん古着屋がある。普段素通りする店に未希はわざわざ入った。チャッピーは外で待っていた。このままどこか遠くへ行ってくれないかな。そんな願いは通用しなかった。

次カラオケでも行く?とチャッピーが誘ってきたので行くことにした。チャッピーは大柄デブなので歩き方もおかしい。つま先を八の字に向けて歩いている。隣を歩く未希はすごく恥ずかしかった。歩き方も変だけど、履いてる靴が中学生が履くような白い靴だったからだ。会話もほとんどしなくなった。だけどカラオケへは行った。


チャッピーは筋肉少女帯を何曲か歌った。もちろん立って、大槻ケンヂになり切って歌っている。歌うまいな・・・未希は素直にそう思ったが、それ以外の点が嫌すぎて、歌はうまいけどその歌を嫌いになってしまった。私の筋少、私の銀杏を汚さんで!!なるべくチャッピーが知らなさそうな歌を歌ってみたが、当たり前に知っているようだった。悔しい気持ちになった。


やっと一時間が経ち、そろそろ帰ろうという話になった。本当は、チャッピーに会った瞬間から帰りたいと思っていたのだ。やっと解放!!同じ電車に乗り、チャッピーが降りる駅になった。「じゃ、ありがとう」そう声をかけてくれたが、未希は携帯を見ながら小さく「うん」と答えただけであった。何その態度?とチャッピーから感じられた。だけど全部無視した。もう二度とチャッピーなんかと会いたくない。そう思った。

帰宅してすぐにチャッピーをブロックした。ラインもスカイプもブロックした。ツイッターはフォローしてなかったけど、検索したら簡単に出てきた。そしたら相手も普通に私のことをぼろくそに書いてて、お互い様だな!という気持ちになった。


未希は学んだ。ネットにはいくらでも出会いはあるけど、簡単に会ってはいけない!ということを。もっとしっかり通話をしてからにしよう!と。


大学内で趣味友達を探すという選択肢はすでになかった。


おなかが空いた未希はアパートの隣にあるコンビニへ向かった。この頃、朝でも夜でも関係なくサングラスをするようになった。同じ学部の子に会いたくないし見られたくないからだ。サングラスをすればバレることはないと未希は信じていた。逆に目立っていることも知らずに・・・。




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