大学一年 ② 部活編

関西弁が飛び交う部室に、入部したての未希は慣れないでいた。高校時代は先輩後輩の関係が厳しかったため、大学ではより一層厳しくなるものだと思っていたが、女子部屋の先輩は学年が違ってもみんな仲良しだった。そして未希にも優しく接してくれた。ボート部は男女混合の部活である。ボートも大切ではあるが、未希にとって一番大切なのは好きな音楽が何かであった。

一つ上の男子の先輩で、銀杏BOYZが好きだと言ってる人がいた。私はその先輩(田村さん)のことが一瞬で好きになってしまった。好きなバンドを好きと言ってるし、まだ会って間もないけれどユニークな人だということがすぐに分かった。あっという間に恋をしてしまった。


練習はきついけれど、部活が終わるのがさみしい。田村さんのことをもっと見ていたいのに。。乙女な未希はボートも銀杏BOYZもそっちのけで、田村さんに夢中になってしまった。


夏休み、部員全員で2泊3日のキャンプをするイベントが毎年必ずある。そこでは肝試しが行われるのだが、事前に誰と肝試しを回りたいか、第一希望から第三希望まで紙に書いて提出することになっていた。第一希望にはもちろん・・・田村さん・・でも誰かに見られるってなるとはずかしい/// と思い、第二希望に田村と名前を書いた。誰とペアになるかは当日までわからない。

そして当日。みんなが徐々にペアを発表され、手を繋いで肝試しを回っていった。未希は全然順番がこず、いつになってら呼ばれんねんと思いながらソワソワしていた。そして一番最後、ついに出番がきたようだ。田村さんと同期の横井さんが『そういえば田村って誰選んだん?」と聞いた。田村さんは「第一は邦子さん(美女)、第二は亜美さん(キュート)、第三は未希ちん。」 

それを聞いた未希、ぐわあああああああ!はぁはぁはぁ。。なんちゅうトキめき。これが青春や。もうこれで死ねる。うれしすぎる。とすごく笑顔になったが、夜の暗さはうまくその笑顔を隠してくれた。


『未希と回るのは!!!田村!!!』と、肝試し担当の先輩から大きな声で伝えられた。嬉恥ずかし、好きな田村さんと手を繋いで肝試しを回った。このまま最後までずっと手を繋いでいたい。と思っていたが、田村の野郎、急に電車ごっこみたいに私の後ろに行って肩を掴んで私を先に行かせようとした。どこもロマンティックやありまへんがな!なんでやねん!と思った。それに肝試しのクオリティもだいぶ低くて、怖いどころかおもろすぎて爆笑で幕を閉じた。思ってたのとだいぶ違ったけどすごく楽しくてうれしかった。

その日の夜、未希は斉藤由貴の『卒業』を大声で歌っていた。そしたら離れた位置にいた田村さんから「なんで未希ちんその歌うたってるの?ほんと気の合うやつ」と言われた。うれしかった。本当にうれしかった。


未希は田村さんのことが好きだが、そのことを先輩には秘密にしていた。同期の千夏にだけ打ち明けていた。だいぶ前に千夏にはそのことを打ち明けていたが、肝試しの候補はだれ選んだの?と聞いたら、「第一希望は田村さん」と言われた。へ?!?!なんで?好きなの!?と思ってしまったが、千夏の第一希望は叶わず、別の人と肝試しを回っていた。

歌を歌ってそんなコメントをもらった後、未希は「あたしは今とても幸せだ。うれしすぎる。」と千夏に言った。千夏の気持ちなんてどうでもよかった。ただ誰かにこのうれしい気持ちを伝えたかったのだ。きっとあのころ、千夏は面白くない気持ちだっただろう。



しかし次の日の夜、未希は喜びの頂点からぶち落ちることとなる。

二泊目の夜、未希と千夏はたくさん酒を飲もう!と決めていた。限界まで酒を飲むということをしたことがなかったからだ。いったいどうなってしまうんだろう!?とワクワクが止まらず、アルコール12%の缶チューハイの長缶を選んだ。味なんてどうでもよかった。未希はいつの間にか眠ってしまった。きっと限界が来たら眠ってしまうタイプなのだろう。草むらの上でただひたすらに眠っていた。

何時間寝ていたのだろう。起きたら雰囲気が違う。千夏が田村さんにベタベタしている。私が話しかけても全然相手にしてくれない。田村さんもだ。昨日はあんな感じで楽しかったのに、一体どうしたんだろう?と感じた。

ここに私の居場所はない。極端な思考の持ち主の未希は、部の群れから離れた。一人になりたかったのである。きっと二人は何かしたであろう。自分は何も見てはないけど、二人を包む空気たちが未希に教えてくれたのだ。

はぁ・・・。溜息がひとつ。涙も一滴。こんなところで泣いたって誰も励ましてくれない。励ましてくれるのはこの空だけだ!と空を見上げた。ドラマであれば満天の星空がそこには広がっているだろうが、ここは現実である。どんよりとした雲が星を隠してなんの美しさもなかった。そしてそれは未希の心の中を現してる夜であった。ぷぅーーーん。耳元で蚊の鳴く音が聞こえる。チクショー!!!!!未希は部の群れへと戻った。  


次の日未希はラインのアカウントを消した。そんなことしたって何の意味もないってことを、19歳の未希は知らなかった。




キャンプが終わってからしばらく経ったとき、未希は横井さんとボートに乗ることになった。

「ねぇ未希知ってる?キャンプの時、田村と千夏、キスしたんだって。」

えええええええ!?!?!??やっぱりですかあああああ!?!?!?未希は本気でびっくりした。あの時の二人の違和感、私の勘は間違ってなかった。そして横井さんはもう一言。「この前田村と一緒に吞んだんだけど、急に「暴露します!」って言ってそう教えてくれた」と。いや暴露すんなよ。少し見損なったというか・・・未希はまだ誰ともキスをしたことがなかったから、、しばらく落ち込んでしまった。田村さんが好きだと千夏には伝えていたのに、千夏と田村はキスをしたのだ。意味が分からない。一気に二人とも嫌いになった。どうでもよくなった。あたしは一体だれとファーストキスをするんだろう。銀杏BOYZを聴きながら今日もまた一人、悔しくて泣いていたのであった。




























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