19からの人生

@tapiokamazui

大学1年 ①

外から聞こえる大学生の笑い声を、未希は布団の中で聞いていた。時計を見ると10時半を過ぎている。また遅刻だ。今年で大学生になり一人暮らしを始めた。大学って意外と楽しくないもんだなと分かり、今日もいつも通りさぼっていた。遅刻だ、ではなく、意図的に遅刻をしたのだ。遅刻した=もう学校に行かなくていいというのが頭の中に出来上がっていたので、午後から何しようかな?と考えるのが日課となっていた。


未希は高校でボート部に所属していた。練習がきつかったおかげで、成績もどんどん伸びていき、国体三位入賞という大きな結果を残すことができた。その後の進路のことなんて全然考える時間も余裕もなく、先生に言われるままスポーツ推薦で大学に入学した。そこそこ名の知れた大学であった。

未希は勉強が得意ではない。大学側はスポ薦入学者に対し【文武両道】という、未希の大嫌いな目標を掲げていた。学校説明会に行った時から、絶対に私は途中で辞めるだろうと感じていた。


スポーツ学科は人数が少なく、200人規模であった。どんどんみんな友達になっていく。未希も友達が多くできた。学部の部屋に入ると、「未希~!!」と5.6人のかわいい女子たちが呼んで手を振ってくれる。未希はといえば、え?!あたしこんな人気者でええの?!というのが正直な感想であり、ありがたいけど恥ずかしいような不思議な感情で彼女たちと関わっていた。


ボート部は土日のみの部活である。平日は授業が終われば自由である。初めての一人暮らし。未希は音楽鑑賞が大好きであった。高2ごろからTHE BLUE HEARTSや忌野清志郎、銀杏BOYZにハマり、一人暮らしを始めてすぐに、欲しかったギターを購入した。親からもらった六万円を握りしめ、あっという間にギターに変えてしまったのだ。なぜ六万円のギターを買ったのかというと、ハードケースがついてくるという理由である。そしてギターを練習していた。


未希にはもう一つ、長年の趣味があった。小学4年ごろから、見知らぬ人とチャットをすることが楽しくてたまらなかったのだ。知らない世界を知ることができたり、遠い人とインターネットを通じてやり取りできることに楽しさを覚えていた。19歳の未希がはまっていたのはスカイプである。掲示板に投稿したら、いろんな人たちと知り合えてチャットをすることができる。そして通話もできる。実家住まいだった未希は、知らない人と通話をすることに怯えていた。なぜなら親に会話を聞かれたら恥ずかしいと思っていたから。一人暮らしはなんて快適なネット環境だろうと心地よく感じていた。


ギター、ネット、最低限の家事。勉強する時間なんてどこにもなかった。名門の大学であるから、いくらスポ薦で入学したといってもある程度の学力はある人が多かった。一度も授業で習ったことない数学が復習として授業でやっていたり、英語は5分間何も見ずにスピーチしなきゃいけなかったり、英語の論文を読んで英語でまとめたり、考えるだけでも悲しくなった。そして逃避した。

学校に行くのをやめたのだ。そのかわり、大阪や京都の観光をたくさんすることに決めた。読んでいた小説に名画座でデートをしたという内容があったので、「名画座とは!?」と疑問に思い検索した。そしたら昔の映画館のことであり、大阪に『新国際劇場』という素敵な名画座があるのを知ったので、さっそく授業をさぼって出かけることにした。

大阪の新世界に来るのは小学校5年生ぶりである。久々の新世界は私の心を簡単に奪ってしまった。町全体に纏わりつくヌメっとした空気、心地悪い町の臭い、昼間から将棋を打ってる爺さんたち、それだけでたまらなくテンションが上がった。そしてメインである『新国際劇場』に着いた。一応学割が使えたので、700円で3本の映画を見ることが出来た。

中に入るとそこは・・・昭和だった。平成生まれの未希がイメージする昭和であるが、前の席に普通に足を延ばしてみてる人が何人もいたり、タバコ吸ってたり、ヴーーーーと鳴ってから映画が始まったり、今まで体験したことないことを体験したのだ。未希は思った。そうだ、これが私にとっての授業だ、と。仲のいい同じ部活の同期の男子にラインを送った。「今新世界に居るから来て!一緒に映画見ようよ。」と。そしたらその子(G)は、「そこってハッテン場やで!おれ行ったら掘られてまうわ!そろそろやーさんうろつく時間やし帰ったほうがええで」と返事が来た。ハッテンバとは?!初めて聞く言葉だったので検索した。なるほど、ここはゲイの街でもあるのかと知った。未希は胸が高鳴って、その日はしばらく寝付けなかった。こんな街があるなんて・・・。もう一度行きたい。この言葉通り、未希は何度も新世界へ通うようになった。


久々に大学の授業に出た。「未希!レアキャラじゃん!」と言われた。明るい口調でディスってくる。自分が悪いんだけど。道をすれ違うたびに声をかけてくれた友達も、今じゃもう目も合わせてくれなくなった。そうそう。自分ってこれくらいの存在の薄さのほうが似合ってんのよね~と納得した。少し寂しかったけど。

そんな大学一年生の10月を過ごしていた。


未希の生活はまだまだ続く。





























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