第39話 本気

 翌日は、平穏無事だった。


 平穏無事になるように


「男子A班は前扉の確保、男子B班は後ろ扉の確保。女子A~E班はそれぞれのクラスへの真実の流布。二時間目終わりの休み時間までに二年のエリアを無害化し、戦力を拡大する」


「男子C~E班まで指定の不良グループに話を持ち掛けて武力の強化を図るように。僕の名前と抗争時の恩はここで使っていい。完了したら他学年から訪れる生徒の牽制に当たってくれ」


「協力要請にこたえてくれてありがとう。君たちには、学園外部の警戒に当たって欲しい。昨日の不審者の件は知っているね? 君たちに頼みたいのは、こういった事態の予防だ。これで抗争の時の恩は返してもらったとして、僕らに貸し借りはなしだ」


 成果は上々だった。


 他クラスは昨日の成り行きについても知っていたため、すぐに無害化がなされた。


 他クラスから訪問者も、警戒に当たる男子たちに怯んで帰っていった。


 不審者は3人現れ、そのすべてが巡回していた不良グループによって捕縛、確保。後に尋問グループに明け渡された。


「……アレ、昨日の夢?」


「昨日の今日でこんなに平和になるなんて……アキラくんすごすぎ……」


 ツユリとユイは引いていた。


 昼食はいつものように三人で過ごしながら、ヨシマサの報告を受けていた。


『不審者全員に裏を吐かせた。断片的だが、色々見えてきたぜ』


『ありがとう。不審者は警察に渡さず、確保を続けてくれ、僕が後で向かう』


『おう。じゃあそこで諸々報告する』


『分かった。今から向かうよ』


『了解。一人、遣いを出す。玄関から出てくれ』


 僕は昼食を食べ終え、立ち上がった。


「ごめん、二人とも。少しやることが出来たから、先に戻るよ。屋上を出たらすぐのところに男女2名ずつクラスメイトを配置してるから、二人は彼らに守ってもらいながら教室に戻って」


「あ、……うん」


「あは、は……。何か、要人になった気分」


「大丈夫、今日で終わるよ」


「え……?」


「そ、そうなの……?」


 僕は微笑み返して、屋上から出た。


「二人をよろしく」


「「「「了解」」」」


 僕はそのまま、玄関に向かう。


 階段を駆け足で下りていき、玄関から外に出る。


「ご案内します」


「ありがとう」


 不良の一人が、両手を後ろに組んで腰を折った。それから、彼に連れられて体育館倉庫にたどり着く。


「ここ?」


「はい」


 開けてもらうと、不良がもう一人顔をのぞかせた。


 案内役と僕の顔を確認すると、「入ってくれ」と招かれる。


 中に入ると、不良が数人、椅子に拘束された不審者らしき人物、そしてヨシマサが立っていた。


「おう、アキラ。助かったぜ。まさかこいつら動かすとはな」


「今回は流石にちょっと腹が立ってね」


 僕がそう言うと、不良たちが揃って体を竦ませる。


 ヨシマサが苦笑した。


「アキラだけは怒らしちゃならんな……。アキラを怒らせるのメチャクチャ難しいが」


 そこで、奥からひときわ大きな影が寄ってきた。


「よう。今回の協力で貸し借りはなし、だったな」


「番長、久しぶりだね。その通りだ。これで僕らの間には友情しか存在しない」


「ハ、友情ね。まぁいい。今後俺たちを使いたいなら相応のものを用意することだな。で、だ。そいつらが今日確保したクソどもだ」


 番長の視線に従って、僕は不審者三人を見る。


 彼らは不良たちに暴行されたらしく、顔を晴らして項垂れていた。


「ありがとう。彼らは僕が適当に処理しておくよ。まず、ヨシマサの報告を聞きたい」


「ん、了解。……ただ、ちょっと掴んだ情報は厄介なところがある。まだ未確定情報である以上、アキラ以外には聞かせたくない」


 ヨシマサが、チラと不良たちを見る。


 僕は頷いた。


「ということだ、番長。少し席を外してほしい」


「分かった。おい、お前ら。出るぞ」


「分かりました、番長」


 ぞろぞろと彼らは出ていく。僕とヨシマサ、そして不審者三人のみが倉庫内に残される。


 暗闇。ヨシマサが、「さってと」とタブレットをスクロールした。


「じゃあ、報告だ。まず―――」


 ヨシマサの報告は非常に多岐にわたった。


「噂の出どころは結局分からなかった。つまり、これは意図的に流布してる奴が居て、しかもそいつがどこかで隠蔽工作したってことだ」


「昨日の放火の犯人だが、一見無関係そうに見える奴だったらしい。何でも、ユイちゃんの親の誤診で人生無茶苦茶にされたんだと。だが、このタイミングだ。裏を探ったら、ネット経由でちょっときな臭いのが見つかったぜ」


「こいつらから吐かせた委託殺人だが、委託元はかなりの腕だ。海外サーバーをいくつも経由してかく乱してる。こんなの警察でも無理だ。馬鹿にしやがってと思って半ギレで辿り切ったら、存在しない名義でネカフェから繋いでやがった。クソがと思ったが、ちょいと詰めが甘かったな」


 校内のあらゆる情報から、膨大な精査を経て容疑者像が絞られていく。


 僕は言った。


「素晴らしいよ、ヨシマサ。流石、僕がただ一人と認めるだけはある」


「俺はこれだけだ。お前みたいに学校全部支配下に置くようなことは出来ねぇよ」


 で、だ。とヨシマサは僕を見た。


「結論から言う。ここまでの情報をまとめ上げると、恐らく黒幕は――――」


 ヨシマサの言葉を聞いて、僕は首肯した。


「そうだね。僕もそう思う。であれば、あとは直接確認しよう。僕が正面から行けば、嘘をつける存在なんていないさ」


「ハハハッ、そうだな。アキラと正面から向き合って勝てる人類なんて、一人もいない。過言かもだが、俺は本気でそう信じてる」


 僕らは拳をぶつけ合う。


「決着は放課後だ。放課後に、全て終わらせよう」


「おう!」


 話を終えて、僕は不審者たちに向かう。


「さて、じゃあ君たちに問おう。―――全てを忘れて今まで通りの人生に戻るか、僕に忠誠を誓って挽回を狙うか、どっちがいい?」


「アキラそいつらにも情けかけんの……?」


「罪を憎んで、さ。昨日襲ってきた彼も、可能ならこう問いかけてあげたかった」

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