第34話 会議
僕らは職員室で手早く証拠を提出した。
「……遠藤。その、大目に見てやっちゃくれないか……?」
「何をですか? 判断するのも、処罰をするのも先生方かと思われますが」
「いや、その、何と言うかだな……」
「僕がすべきは、証拠を提出することだけです。まずは先生方に。それでも足りないなら教頭先生、校長先生に。それでもダメならPTAや教育委員会に」
「分かった、分かった……。ちゃんと確認して、適切な処罰を下す。恐らく停学処分になることだろう。退学まではいかない。適切な処分だ。そうだろ?」
「ええ、そうですね」
僕が笑顔を返すと、先生は大きなため息を吐いた。
「お前は日頃寛容だが、こういうときは容赦がなくていかん……。加害者にも人生があるんだぞ?」
「その言葉、被害者にも聞かせられますか?」
「……それは」
「では、失礼します。ご協力、ありがとうございました」
僕は先生に腰を折った。それから傍で見ていた教頭先生にも、改めてお辞儀をする。
「助かりました、教頭先生。この恩はどこかで必ず」
「いいや、この程度は気にしなくていいとも。だが恩と感じてもらえるなら、気になる店があってね。健啖家の君が同席してくれると、小食の私でも気兼ねなく入れるのだが」
「ええ、その時は是非」
「ああ、ではまたその時に連絡するよ」
僕は三度お辞儀をして、職員室を出た。
「……アキラくんって、先生とも仲がいいの?」
キョトンとした様子のユイに、僕は頷く。
「懇意にさせてもらってるよ。みんな良識のある良い先生方だ」
「良く言うぜ。アキラが追い出したクソ教師、結局何人だった?」
「5人だった気がするが」
「あーそうそう。随分追い出したよマジで」
「お蔭で変な教師、全員ちょっと大人しくなったよな。いやーアキラ様々だぜ」
「そう褒めないでくれ。さ、クラスに戻るよ」
「「「おう」」」
ユイの手を取って、イツメン三人に囲われながら、僕らは安全にクラスへと戻った。
そこでは、すでに諍いが発生していた。
「おい! 何でお前ら抵抗するんだよ! 大人しくそいつ渡せって!」
「会長の妹とか言ってるクソ女を何でかばうんだよ!」
他クラスの軍勢が、数人がかりでウチのクラスになだれ込もうとしている。
一方で、ウチのクラスの面々が、それ壁となって阻んでいる。
「あぁ!? 外野は黙ってろ! こちらとら会長とイチャイチャしてる二人を見て砂糖吐いたり、キャットファイトする二人にガヤガヤするのが日課になりつつあるんだよ!」
「尊みを破壊しようとすんじゃねぇぞタコども! 引っ込んでろ!」
僕ら尊さを感じる対象になってたのか……。
自分で言うのも何だけど間違ってないそれ?
「やぁ。ちょっとどいてもらえるかな」
「っ! 会長……」
「会長! ユイちゃんも無事確保できたんだな」
「ああ。通してくれ」
僕の登場に、他クラスの面々は怯んで後ずさる。
そして入るなり、イツメンたちに扉を閉めて、施錠してもらった。
「みんな、ツユリを守ってくれたみたいでありがとう」
「お兄ちゃん……っ!」
怯えた様子のツユリが駆け寄ってきて、僕に抱き着いてくる。
「よしよし、怖かったね。もう大丈夫だよ」
僕はツユリを慰めてから、二人をクラスの女子たちに任せ、教壇に立った。
教室を見渡す。すでに、全員が目の色を変えている。
僕は微笑んだ。
「みんな、まず感謝を述べさせてもらいたい。ありがとう。君たちのお蔭で、ツユリとユイを守ることが出来た」
言うと、それぞれが照れだったり、誇らしそうな顔をしたりする。
「で、だ。ここからが本題だ。―――君たちももう分かっているとは思うが、今朝のそれこれは、単なる悪い噂の蔓延、という評価に留まらない」
分かるね、と僕は繋ぐ。
「異常だ。異常事態だ。親愛なる君たちなら、経験があると思う。そうだ。まただ。また僕らの日常を、また何かが壊しに来ている」
ツユリが「また……?」と困惑の声を上げる。僕は微笑みのみを返し、全体への呼びかけを続けた。
「腐敗教師、不良騒動、イジメ事件。本質はあれらと変わらない。止めなければ、そして根源にさかのぼってまで根絶しなければ、僕らは永遠に何かを失う」
僕は一拍おいて、問いかけた。
「みんな、協力してくれるかい?」
返ってきた反応は、劇的だった。
「もちろん!」「俺たちは会長にどこまでもついてくぜ!」「あの時の恩は忘れないよ!」「何をすればいい?」
クラス中が、沸き立つように声を上げた。
それにツユリは目を丸くキョロキョロと周囲を見回し、ユイは感動したように涙ぐんで、しきりに頷いている。
「そう、そうだよ。アキラくんは、そういう人だよ」
僕は拍手を一つ打った。それで、みんなが静かになる。
「ありがとう、みんな。じゃあ、みんなに頼みたいことを説明するよ」
僕は黒板に簡単な図を描く。
「君たちに頼みたいのは、大まかに分けて三つだ。一つは、僕が居ない場面でのツユリとユイの守護。体育の授業などで着替えが発生するときは、どうしても僕では守れない。そういうとき、女子のみんなには二人を守ってもらいたい」
「分かったよ!」「そのくらいなら全然!」「任せて!」
「次に、男子たちにはそんな女子のみんなの守護を頼みたい。場合によっては、女子の包囲網を強引に突破する輩が出る可能性もある。そう言う連中を、壁になって止めて欲しい。手に余るならいつでも僕を呼んでくれ」
「舐めんなー!」「会長の手なんか借りずに、俺たちでねじ伏せるっつーの!」「お前に影響されて、俺たちはガチで鍛えてんだぜ!」
「ありがとう。最後に、クラス全員に頼みたいのが情報収集だ」
僕はスマホをみんなの前に掲げる。
「ヨシマサの情報収集グループは分かるね? すでに数人入っていると思うけど、クラス全員で加入して、学校周辺で怪しいものがあれば逐次書き込んでいってほしい。ヨシマサからリプがあれば、それにも対応をお願いしたい」
「俺そのグループ入ってるから、入ってない奴集まってくれ」
イツメンの一人が手を挙げ、そこにみんなが集まっていく。
それを見て、僕はヨシマサに連絡を飛ばした。
『クラス全員を味方につけたから、情報収集グループに入れるよ』
『お前のカリスマ性マジでおかしいだろwwwww
ま、これで一日は収集期間を縮められるな。サンクス!』
『こちらこそありがとう。いつも世話になるね』
『言いっこなしだ。ある程度情報をまとめて定期連絡を入れるから、よろ』
僕はスタンプを送って会話を終了する。見れば、グループへの参加は完了し、クラス全員は席に着いていた。
僕は満足に頷いて、呼びかける。
「みんなには感謝をしてもしきれないよ。では、作戦を開始しよう。期間は明日の放課後まで。それで、僕らは蹴りをつける」
クラス中から、『おう!』と声が上がった。
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