第33話 因縁
僕は校舎の玄関口に向かいながら、電話をかけていた。
三コール。相手が出る。
僕は単刀直入に言った。
「失礼します、教頭先生。少し緊急事態で、監視カメラの方を見ていただけますか? 登校ルート周辺でお願いします」
『これはこれは、いきなりだね。だが、生徒会長が緊急と言うなら了承しよう。まったく、教頭にもなって、生徒に顎で使われるとは思わなかったよ。―――そういうことだ、先生方、ご協力を』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
電話をつなぎながら、僕はまっすぐに学校の玄関口にたどり着いた。
そこで、教頭先生が話し始める。
『気になるところを見つけたよ。複数名の女生徒が、一人の女生徒を囲んでいる。登校順路の内、園芸部につながる道の途中の建物の影だ』
「ありがとうございます。向かいます」
『では頑張りなさい。私たちは、ここから見守っているよ』
電話が切れる。僕はついてくるイツメン三人に呼びかけた。
「走るよ。ついてきて」
「「「おうっ!」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕らが駆け付けると、ユイが五名の女生徒たちに囲まれていた。
「アンタ、生意気なのよ! みんなの憧れの会長に近づいて、あろうことかキス!? 頭おかしいんじゃないの!?」
「そうよ! 会長が優しいから許してくれてるだけよ! 普通なら問題になって、停学とか退学ものよ!」
「ビンゴ」
僕は近寄りながら、優しい声色で話しかけた。
「そうだね。ユイはもう少し衆目を気にした方がいいかもしれない」
「ッ! アキラくん!」
「……会長……!」
全員が僕の登場に、期待通りという顔になる。
不思議だな。
僕はいつから、敵からも味方だと思われるようになったんだろう。
「会長! もう大丈夫ですよ! 私たちがこいつを懲らしめて、会長に近寄らないようにします、か、ら……」
僕の表情を見て、女生徒は段々言葉尻をしぼませていく。
僕は笑顔を保ったまま言葉を返した。
「どうしたの? 言いたいことはそれだけ?」
「……あ、え、な、何か、お気に障ること、しましたか……?」
女生徒たちは震えている。おかしいな。僕は笑っているのに。
「ねぇ」
僕はイツメンの一人に話しかける。
「僕、今怖い顔でもしてる?」
「いいや、いつも通りの笑顔だぜ」
「だよね。何で怖がられるんだろう」
「手だよ」
「手?」
僕は自分の手を見る。ああ、これはびっくりだ。
拳を強く握りしめすぎて、爪が手の平に食い込んで血が流れている。
これは怖がらせてしまっても仕方ないな。反省だ。
「失礼したね。えーと、どこから話したものかな。ひとまず、ユイをこちらに引き渡してもらえるかな?」
「っ! な、何でですか? だって、この女は」
「僕の大切な恋人だよ。誰かにいじめられてるか不安で、探し出して様子を見に来てしまうくらいには、大切な恋人さ」
「アキラくん……!」
ユイがこちらに駆け寄ろうとする。
だが、それは女生徒たちが囲うことで阻止される。
「わ、渡しません! この女はおかしいんです! この女が会長をおかしくしてるんです! 今まではみんなの会長だったのに、この女が来た途端……!」
「脅されてるんですよね!? 会長! 分かってます。私たちは、全員分かってますから! だから、安心してください!」
「……話が通じないというのは困るね。ねぇみんな」
「そうだな。俺たちが駆り出された理由が分かったぜ」
「それは何よりだね。では」
パンパン、と僕は手を二回叩いた。
「道を開いて」
「「「了解」」」
イツメン三人が、ぬっと前に出てくる。
女生徒たちは怯みながらも、虚勢を張って吠えた。
「なっ、何よ! あなたたち会長の指示で動いてるんでしょ!? 会長のために動いてるんでしょ!? なら仲間じゃない! 何で私たちのことを敵視するのよ!」
「そうよ! 私たちは会長のためにこうしてるのよ!? ちょっ、やだ! 放してよ!」
「うるせぇな。お前らみたいな狂信者からアキラを守るのも、俺たちの役割の一つなんだよ」
「黙ってどけ。ピーピー喚かれると耳がキーンとして堪らん」
「やっ、やめなさいよ! 先生に言うわよ!?」
「誰かー! 男子に乱暴されてるの! 誰かー!」
イツメン三人によって、女生徒たちは掻き分けられ、道が出来た。
僕は拍手を一つ打つ。注目が僕に集まる。
「ご苦労だったね、みんな。ユイ、おいで」
「アキラくん……っ!」
真っすぐに走り寄ってきたユイを、僕は受け止めた。
「こ、怖かった……! いきなり物陰に引きずり込まれて、びっくりして……!」
「うん、怖かったね。大丈夫。僕が付いてるよ」
途端、イツメン三人は女生徒たち開放して、僕と女生徒たちの間に壁のように立ち並ぶ。
女生徒五人は、僕からユイを取り返そうとするも、イツメンたちが邪魔でどうにもできないでいた。
「ちょっ、どきなさいよ! 会長! あなたは騙されてるんです! 会長!」
「クソっ! クソ女! アンタの悪行は全部知ってるんだからね! みんな! みんな!」
女生徒たちは手加減せずイツメンたちを殴るが、屈強なイツメン達はどこ吹く風だ。
「おい、アキラ。対して痛くもないが、こう殴られてると鬱陶しい。帰らないか?」
「そうだね、クラスに戻ろうか」
僕は少し考え、指示を出す。
「三人は僕らを囲うように、横と後ろを守ってくれ。ユイは僕の腕に引っ付いておくといいよ」
「うん……っ!」
ユイは僕の腕を抱く。女生徒たちは、そろそろ聞くに堪えないレベルの罵詈雑言を吐き始める。
僕は言った。
「君たち。最後に言っておくけれど、ここでの君たちの行動はすべて教師陣が監視している。僕がそう言う風に仕向けた。彼らに録音もするように言ってある」
イツメンの一人が録音を垂れ流す。女生徒たちの罵倒が流れる。
「え、あ、え……? だ、だって私たち、会長を、助けようと……」
「私たち、違う、違うんです。だって、私たちは正しくて……」
僕は微笑みかける。
「それを決めるのは教師陣だ。僕らは、証拠をそのままに提出するだけだよ」
女生徒たちはその場に崩れ落ちた。
「さ、帰ろう。救出すべきお姫様は、ちゃんとここにいるからね」
ユイの頭をポンポンと触れる。ユイは一層僕にしがみついて、嬉しそうに頬をこすりつけていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます