第23話 お家デートwithツユリ
ユイとの下校で手際よくデートの約束をこぎつけた僕は、家に帰ってきた。
「ただいま」
「ん、おかえりー」
リビングに入ると、何やらキッチンの方からジュージューと料理の音が聞こえてくる。
「夕飯を作ってくれてるのかい? ありがとう、今日は何を作ってるの?」
「うな丼。今日は奮発しちゃった」
おおお、と僕は感動を覚えてしまう。
兄と妹の会話じゃないぞこれ……。仕事帰りの夫婦の会話だ。
「その」
ツユリはちょっと照れた様子で付け足す。
「お、お兄ちゃんと過ごす初めての週末だから、ちょ、ちょっと、良いもの食べてもらいたくって……」
「……」
どうしよう、妹の可愛さが天元突破してる。
そんな感動が、付け足しによって姿を変えた。
「精も付けて貰わなくちゃだし……ね」
……アレ? 僕今日襲われる?
食べられちゃうのか……? と考えながら、僕はひとまず部屋着に着替えてリビングに戻ってくる。
すると、ツユリはもう料理を並べているところだった。
「あ、ちょうど呼ぼうと思ってたんだ。ほら、食べよ?」
「うん」
二人並んで座って「「いただきます」」だ。
早速うな丼を口にする。
「……これは」
「ど、どう……?」
ツユリが僅かに不安をのぞかせながら聞いてくる。
僕は震えた。
「美味しい……おいしすぎる」
「本当!?」
「本当においしいよこれ。え? シェフ? パティシエ?」
「それで言うなら料理長だしパティシエはお菓子の方」
僕は唸る。
ウナギの濃厚なお味に、白米とのハーモニー。
いくらでも行けてしまう。何だこれ、うま。
……マジでうまいぞこれ。何でこんなの作れるんだ?
「ツユリ……どこでこんなおいしい料理覚えたの?」
「え? ……動画サイトで」
「うーん現代っ子!」
いいね! 間違いないよ! レシピよりも確実だねそれ!
僕は唸りながらモグモグとうな丼を頬張る。ウマイ。無間に食べられそうだ……。
「……お兄ちゃんって、変だよね。いつもクールぶってるのに、冗談ばっかりだし、ご飯はちょっとだらしないくらい夢中で食べるし」
言いながら、ツユリはティッシュを取って僕に向き直る。
「ほら、こっち向いて。たれついてる」
「おや、はは、ありがとう。ツユリは世話焼きだね」
「……お兄ちゃんがだらしないのがいけないんだから」
僕の顔の汚れをそっとふき取って、顔を僅かに赤くしてぷいっとそっぽを向くツユリだ。
「あ、でも本当においしい……」
ツユリも自分で食べて満足げだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな風に仲睦まじく夕食を取った僕らが、お茶で一息入れたころだった。
「じゃあお皿洗いはこっちでやっておくね」
僕がそう言って立ち上がると、ツユリが少し不満そうな顔で言う。
「……毎回毎回、いいの? 正直お皿洗いって一番楽しくない部分だし、お兄ちゃんにばっかりやらせるのは、ちょっと心苦しいんだけど」
「ツユリは生徒会で帰れない僕に先んじて帰宅して、夕食を作って待っててくれるからね。これくらいはやるさ」
「ふーん……。別にいいのに。私が全部やるのに」
「家で二人きりなんだ、共同分担しようよ」
「違うもん。私が全部やれば、段々お兄ちゃんが何もできなくなって、私が居なきゃダメになるってシナリオがいいの」
「支配シフトシナリオが計画されてる……」
僕もツユリのペットになるのは嫌なので、そそくさと皿洗いに興じた。
戻ってくると、ツユリがソファに座ってぼーっとスマホをいじっていた。
「何見てるの」
「お兄ちゃんの盗さ、ツイッティング」
僕盗撮されてるの?
「言ってくれればすぐ見せるのに……ほら!」
「わー! キャー! いきなり裸にならないで! ……うわ、すごい筋肉」
上半身裸になった僕の腹筋に、ツユリが触れる。
どうせなのでピクピクさせておく。
「うわ動いた。……お兄ちゃんって本当に何者? ボディビルダーみたいな体じゃんこれ」
「少し鍛えざるを得ないことがあってね」
「これだけの筋肉が必要になる場面って何?」
ツユリは困惑顔だ。
「良いから着て」と赤面するツユリに言われたので、「はい」と僕は服を着た。
「っていうか盗撮って別に裸の奴じゃないもん。……これ」
ツユリがスマホの画面を見せてくれる。
「……めっちゃ僕笑ってるね」
「……お兄ちゃん、笑顔、素敵だから。こっそり撮りためてたら、結構な数になってて」
顔を真っ赤にして告白するツユリだ。
一般社会からするとすでに結構アウトだが、この手のは親告罪なので、僕が許せば万事解決だろう。
「フォルダーの100の桁が増える度に持ってくるといい。プレゼントと交換してあげよう」
「え? お兄ちゃんの写真って収集アイテムなの?」
ちなみにすでに300貯まってたので僕はその辺のお菓子を三つツユリにプレゼントしておく。
……貯まるの早くない? まだ知り合って数日だよ僕ら。コマ撮りしてる?
「100だとお菓子か……。ちなみに千とか一万貯まったらどうなるの?」
僕は答えた。
「千だとポーション、万だとエリクサーになるよ」
「そっか。お兄ちゃん世界の前に現実救おう?」
「ほら、これがポーション」
「わぁ翼生えそう」
「今日は試供品なので無料プレゼントしてあげよう」
「……んふふ、一緒に夜更かししようってこと?」
「よく分かってるね」
触れるようなキスを交わす。
それから、ツユリがソファの自分の隣を叩くので、そこに僕も収まった。
すると、ツユリは僕の肩に頭を預けてくる。
「それで、夜更かしして何するつもり……?」
顔を真っ赤にして、しかし恥ずかしさを乗り越えて、ツユリは僕を上目遣いに見上げていた。
ツユリはいつも、恥ずかしいと目をそらす。そっぽを向く。
なのに僕を直視してくるのは、そういうことだ。
僕は言った。
「FPSしよう!!!!!!!!!!」
「うーん、いいよ!!!!!!!!!」
それから日が昇るまで無限にFPSしてたさ。楽しいね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます