第8話 ヤンデレ妹との朝
ヤンデレの波動に浄化された僕は、熟睡していたことを知った。
「……メチャクチャ目覚めのいい朝だ……」
と、そこで腕が温かなぬくもりに触れていることを思い出す。
視線を下ろすと、赤面したツユリが、はにかみながら僕を見つめていた。
「え、えと……お、おはよう、お兄ちゃん」
「可愛い……。何と言う可愛さだ……」
「かわっ、も、もう! 朝から……! は、恥ずかしいから、そういうの、ダメ……」
ぐいーっ、と押されたので僕は素直にツユリから引きはがされる。
なんだかちょっと名残惜しい。
「おはよう、ツユリ」
「うん、おはようお兄ちゃん」
照れた様子で言うツユリに無限回可愛いと伝えたいが、恐らく恥ずかしがられる無限ループに突入するので心の中にとどめておく。
しかし何とまぁ、初対面から態度が軟化したものだと思う。
最初はアレだけ心を閉ざしていたのに、今は照れ照れのデレデレだ。
すでにヤンデレの片鱗を見せているが、こういう一直線な可愛さと言うのも、またヤンデレの魅力の一つ……。
「もう! 聞いてるの?」
「ああ、えっと、何だっけ?」
「だーかーらー! ……朝ごはん、一緒に作ろ、って」
うーん可愛い。
そろそろ僕可愛いbotになるかもしれない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
という事で僕らは朝ごはんを一緒に作り終え、ともに食事をとっていた。
何故か横並びになって。
「えへへ……」
隣でツユリがニコニコと笑っている。
時折肩に頭を預けてくる感じが、甘えん坊で堪らない。
「ツユリは甘えん坊だね」
「……甘えん坊じゃないもん」
恥ずかしくなるとすっと離れていくのも面白い。
僕は悪戯心で、ウィンナーをフォークで刺してツユリの口元に持っていった。
「はい、あーん」
「え、あ、あーん……」
躊躇いがちに、しかし驚きの素直さで僕の「あーん」を受け入れるツユリ。
彼女はウィンナーを口にして、頬を赤く染めながら、俯いてモグモグと咀嚼している。
僕は何だか、自分を親と思い込む雛に餌付けをしている気持ちになってくる。
「ツユリ、もっと食べるかい? まだまだあるよ? 足りないならもっと焼こうか?」
「い、いい。別に、私そんないっぱい食べないし」
「そっか……」
どうやら小食だったらしい。
僕はそこで、食べさせたい欲をツユリに押し付けてしまったのだと気づいて、軽く落ち込む。
「……ね、ねぇ、お兄ちゃん」
「ん……? 何だい?」
「あ、あーん……」
「!」
そっぽを向きながら、しかしチラチラこちらに視線を向けつつ、ツユリは同じく自分のウィンナーを僕に向けて「あーん」していた。
「つ、ツユリ……!」
「い、いいから! た、食べるの? 食べないのっ?」
「あーん! んー、おいしい! ツユリにあーんしてもらうとおいしいなぁ!」
「……べ、別に、味が変わる訳ないでしょ……」
照れてぷいっとしてしまうツユリに僕は言った。
「いや、味は変わる。ツユリの『あーん』を経ることによって、ただのウィンナーがミシュ○ンレベルにまで上がる」
「い、いいすぎ……っ」
「三ツ星ウィンナーツユリ店」
「ダメ押しやめて」
終始顔真っ赤で照れまくるツユリが可愛くて仕方がない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな風にイチャイチャしながら食べ終えた僕らは、制服に着替えて家を出た。
登校中は流石に昨日と同じか、少し距離が近いくらいかな、と考えていたが、それは僕の侮りだった。
ツユリは、誰にも渡さないぞ、とばかり僕の腕を抱きしめて、ニコニコで歩いている。
「おうおはようアキ……ラ」
「うんおはよう」
「あ、おはよう会長……え、その子……?」
「はいおはよう」
僕はいつも注目の的だが、今日は輪に掛けて注目の的らしい。
ツユリは特に何も言わず、首まで使って僕の腕をホールドしている。
独占欲◎。
「おうアキラおはよう! ……そしてツユリちゃんすげーことになってんね」
「やぁおはようヨシマサ」
「……おはようございます」
「あ、意外にも俺に挨拶してくれるんだ……おはよう」
表情をこわばらせつつも、ヨシマサは僕と連れ立って歩くようだ。
「……アキラ、これ」
「昨日なんやかんやでとても仲良くなってね」
「お、おう、そうか。……そのなんやかんやってどんな」
ツユリが氷点下の視線をヨシマサに向ける。
「ま、全く気にならないなぁ!」
「……挨拶くらいならいい。けど、土足で家族に踏み込んでこないで」
「ふぇえ、こわいよぅ……」
ヨシマサはそのままフェードアウトしていった。
面白い奴なので、きっと殺すのは最後にしてくれることだろう。
そんな風なので、みんなこぞって僕に挨拶してくれるいつもの雰囲気が、完全にツユリに破壊されていた。
いや、いっそ支配されていた、という表現が近いかもしれない。
何せ、他の人が近づいて来ない限り、こんなにもツユリは上機嫌なのだから。
「二人で登校、楽しいね、お兄ちゃん……」
「そうだねツユリ。おや、お目目にハートがついてるよ。取ってあげよう」
「怖いこと言わないで」
「あー、ちょっと取りにくいな……もう少し上向いてくれるかい?」
「本当に実行しようとするのやめて!」
冗談に付き合ってくれるヤンデレ妹が出来て、お兄ちゃんはとっても幸せです。
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