第4話 転校生
学校について職員室までツユリを案内してから、一旦別れる形となった。
そのため、僕は一旦、一人で教室へと向かうことになる。
「おーっすアキラ」
声をかけてきたのは先に学校に向かったヨシマサだ。
それに続いて、数人いつもの男子たちが集まってくる。
「おいおい聞いたぞアキラ! めっちゃ美少女の妹が出来たって! 義妹か!? ひとつ屋根の下か!? くぅー! 何で持ってる奴の下に富ってのは集まるんだ!」
イツメンの一人が大声で騒ぎ、女子に「やーねー」と呆れられている。
僕はこう答えた。
「大富豪と同じさ」
「アキラって男相手ですら優しいのに、煽れるタイミング絶対逃さないの流石だよな」
「ヨシマサ、照れることを言わないでくれ」
「お前のことは本当に尊敬するよ……」
今日も今日とてガヤガヤと話していると、先生が現れた。
「えー、みなさん。今日から、皆さんに新しいクラスメイトが加わります。仲良くしてあげてください。では入って」
先生の声に従って、まずツユリが現れる。
うつむきがちだが、僕を見つけて幾分かほっとした様子になった。
どうやら、少しは気を許してくれているらしい。
だが、その次にもう一人が現れたことで、クラス中が騒然とした。
「ふ、二人……?」
隣の席のヨシマサが呟く。
僕も、これにはちょっと驚きだ。
ツユリに続いて現れたのは、ボブカットの映える、活発な印象の少女だった。
「はい、では二人とも、自己紹介してください」
ツユリ、そしてもう一人が、黒板に自分の名前を書いて自己紹介を始める。
「え、遠藤ツユリ、です。よろしく、お願いします」
「冴島ユイです! よろしくお願いします!」
冴島ユイ。
その名前には、何やら聞き覚えがあるような気がした。
「って、あー!」
そして突如、その冴島ユイが僕のことを指さして言った。
「アキラくんじゃん! わー久しぶり! 後で話そうね!」
「……?」
「あれ、ピンと来てない……」
クラス中の注目が僕に集まる。
少し考え、判明した。
「ああ、小学生の頃よく遊んだユイか」
「そうだよ! ……あ、ごめんなさい自己紹介の場面で。えっと、そんな感じでーす……」
恐縮と言う感じに肩を竦めて恥ずかしがるユイに、その隣でドン引きしているツユリ、俺をものすごい目で見るヨシマサを始めとした男子たち。
そして、ほう、と感心する僕だ。
「神様、やりますね」
これは、もしかしたらもしかするかもしれない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
自己紹介後、クラスは大体三つに分かれた。
一つはツユリへの集まり。大体が女子で、その中にお調子者の男子が混ざっている。
一つはユイへの集まり。こちらも大体が女子だ。イレギュラーで数人男子。
そして僕への集まりだ。全員男子である。
みんな悪鬼羅刹みたいな顔してる。
「おい、どういう事か聞かせてもらおうじゃないか生徒会長さんよ」
ドスの聞いた声で問いただされ、僕は言った。
「一つ、小話をしようか」
「「「「は?」」」」
疑問符の荒れ狂う台風の目の中で、僕はとうとうと語り出した。
「昨日、ある老人が横断歩道でトラックに轢かれそうになっていた。ヨシマサは分かるだろう? 僕らが分かれたあの横断歩道だ」
「お、おう……」
問い詰める男子たちが、全員怪訝な顔をしている。
僕は気にせず続けた。
「そこを、僕が華麗にスライディングをキメて救出したところ、おじいさんは何と神様だった」
「すでに怪しかった雲行きが今暗雲になったぞ」
「おじいさんは僕に『異世界転生させるのには失敗したが、その決意に対して願いをかなえてやろう』と言ったんだ」
「しかもさっきのトラック転生トラックかよ」
「なぁアキラ、この話長くなる?」
「だから僕は、こう願ったのさ。……―――ヤンデレハーレムを望むとね!」
「知ってた」
「よし! 解散!」
男子たちは散らばっていった。
唯一残ったヨシマサが、ため息交じりに言う。
「お前もブレねぇよなぁ……。謎の小話まで用意してくるし」
「何を言うんだ。れっきとした事実を述べたまでだよ」
「はいはい。しっかし、煙に巻くのがうまいねぇアキラはよ。ツユリちゃんもだけど、ユイちゃんもかなりの美少女だ。そんな二人のそれこれを、何も話さずに追い返すとは」
「ツユリは確かに義妹という事になったが、ユイに関しては結構記憶が曖昧だからね」
「どんな関係なんだ? 何か幼馴染っぽい雰囲気だったが」
「そうだね、幼馴染だよ。小学五年生まで一緒に遊んでて、家の事情で転校してしまったんだ。そんな気がする」
「最後の一言でかなり不安になったが」
「知らんけど」
「関西人特有の奴止めろ」
そんな話をしていると、僕同様ガヤガヤから解放された様子のツユリとユイがこちらに向かってくる。
「あ、えと……!」
「やっほー、アキラくん! 約束通り話に来たよ!」
「やぁ、ツユリ、ユイ。紹介するよ、こちらはヨシマサ。生徒会の庶務をやってくれている。僕の親友さ」
「どもー、ヨシマサです! 二人とも可愛いね!」
「……どうも」
「あっはっはー。おもしろーい(棒)」
何と言う塩対応だろうか。
ヨシマサはちょっと涙目になってしまっている。
「アキラ……俺帰るわ」
「いや、面白いからいてくれ」
「俺はお前のおもちゃじゃないんだよぉ!」
うわーん、と泣いて居なくなってしまうヨシマサだ。
また機会を見てこの輪に引きずりこもう。
そんな事を考えつつ、僕は二人に向き直る。
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