神の御業

 ジェストさん? ジェストくん? 呼び方は……そうだな、ジェストくんでいいか。

ジェストくんが外に出ると、眉間にしわを寄せて辺りを見渡していた。


「こりゃ酷い。大地が死んでもぉとる」

「これ……もう戻らないんですか?」

「敬語はいらんで」

「あ、はい……じゃなくてわかったよ」

「せやな……この地は自然的に戻ることはもう不可能やろうな。一生このまま。草木は生い茂ることなく、どんどんと広まって行くかも知れん」

「そんな……」


 とても見るに耐えないので、ジェストくんに戻す方法はないかと聞いてみた。


「んん……ほんまにあらへんのよなぁ。強いて言うなら、破壊や」

「破壊……?」

「ああ、破壊と再生は表裏一体。破壊され、草木が灰と言う名の肥料となり、そこから新たな命が生まれるっちゅーことやな。

 ま、こんな広大な土地を一気に破壊する天災級なことはできへんやろ」


 ……破壊はできる。けど、草木が映えるまでに時間がかかりすぎちゃうからダメだ。

 肥料……土地を肥やす……食事……


「あーーっ!!」


 もしかしたら、いけるかもしれない……!


「どないしたん? ライトはん」

「……ジェストくん、今から起こること全部、人に言わないって約束できる?」

「……へぇ? おもろいこと思いついたんか。ええで、商人を生業としとる俺や、秘密は絶対守る主義やから安心せぇ」

「ありがとう。ミア、できる?」


 隣で不貞腐れているミアの名を呼ぶ。


「私〜?」

「うん、ミアにしかできないことなんだ! ミアがいないと絶対できないことよ!!」

「ん〜、私? 私しかできない〜?」

「もちろんだよ!」

「んふ〜。そう言われると頑張っちゃおっかなー!』


 山と思わせるほどの竜の姿になるミア。

 そして大きな口を開き、光線を一閃。大地は炸裂し、轟音とともに大地が揺れる。


「ぇ…………」


 ジェストくんは口を大きく開けて唖然としていた。ハッ、と意識を取り戻し、僕の方を掴んで揺らしながら問い詰めてくる。


「どどどっ、どゆこと!? なんやねんあれ! 竜やん! やばいやん! しかも大地破壊しただけやし、これどないすんねん!!!!」

「お、落ち着いてジェストくん……。これからやるんだ」


 この大地を肥やす。僕のスキル、【料理之神】でそこらへんに残っている草木に手間を加えてあたりにばら撒き、一気に草木を成長させる……と言う作戦。


「あ、でも何か切るものが必要になってくるな……。でもそんのない……」

『……!』


 壁が立ちはだかったと思うと、頭の上に載っているスライムがシュルシュルと体を変形させる。

 なんと、包丁の姿に変身したのだ。


「わっ! すごい!! これでいけるかな……!」


 雑草をむしって、切り株でトントンと軽く叩いてみる。そして【鑑定】をしてみた。


――――――――――


 雑草のたたき

 製作者:ライト


 効果:【木や草などの成長促進・大】


――――――――――


 よし、上手くいったみたいだ!


「ミア!」

『わかってるよ〜!』


 ミアの上に乗り、空からばら撒いてみる。凸凹になり、茶色い土が剥き出していた大地は緑で生い茂り、木々も疎らに生えてきた。

 暗くてよく見えなかったけれど、ちょうど夜が明けて、暁が大地を照らし始める。


『キレ〜〜』

「ほんとだね」


 下に降りてジェストくんのもとに近寄るけれど、顔を青くしていた。


(こない力を持つものがほんまにおるんか……? まるで神の御業やないか。こんなんがもし牙を向けようものなら一瞬でこの国……いや、世界は――)

「ジェストくん? おーい、大丈夫??」


 数秒無言だったけれど、口を開いてボソッと何かを呟いた。


「いや……こいつならそんなことせぇへんやろうな」

「??? 何が?」

「いや、ええんや。さ、戻ろうか。さっきので他の奴らの目ぇも覚めとるやろ」

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