氷の感情
急いだ洞穴に向かい、中に入った途端、地面に魔法陣が浮かび上がった。
「なっ!?」
奥には盗賊であろう人たちが横たって気絶しているのと、手足を縛られて身動きが取れなくなっている人たちがいた。
その魔法陣の中心に、謎の白い球体が置かれていた。
「み、ミア……なんだか嫌な予感がするけど……」
人間の姿になっているミアに尋ねてみる。
「これは、トラップ……じゃない?」
「だよねー……」
すると次の瞬間、その白い球体から冷気とともに吹雪が吹き始める。
周囲の気温は一気に下がり、ピキピキと音を立てながら、球体を中心に氷が広がってくる。
「どうするライト! あの球壊した方が良くない!?」
「ダメだ! あの球体、すごいいっぱい魔力を持ってるから、壊したらここら一体が吹き飛んじゃうかもしれない……」
ここにいる人たち全員を連れて逃げるか……? いや、でも尋常じゃないほどの魔力を持っているみたいだし、放っておいたら一面氷漬けになる……。
どうすれば……どうすれば……!
《スキル【
その声が聞こえると、震え上がっていた僕の体は止まり、寒さを感じなくなった。
スキル獲得は嬉しけど今欲しいのはこういうスキルじゃないんだ! ああ、まずい! 氷が広がって来てる!!
……ん? そういえばスキルの中でアレが……。
「ライト!?」
一か八かに賭け、僕はその球体の方に向かって走りだす。そしてそれをガシッと抱きしめ、とあるスキルを発動させた。
「くらえっ! 【温もり】!!」
旅立つ前、ひったくり犯を捕まえた後に手に入れたこの謎スキル。
説明がたったの二文字しかなかったし、効くのかはわからない。けれど、ここでやらなきゃみんなを助けられない。
お願いだから効いてくださいっ!
ぎゅーっと、この球をもっと強く抱きしめた。
寒さが耐えられる体になったとはいえ、氷漬けにされたら死ぬもんは死ぬ。現に、腕がもう氷漬けにされて少しでも衝撃が走ったら粉々に砕け落ちるだろう。
「くっ……ぅう……!!」
「ライト! 私が遠くまで飛んでそれ破壊してくるから! ライト死んじゃうよ!!」
「待って……! 多分これ……いや、この子はずっと一人だったんだ!! 僕は手放せないんじゃなくて、手放したくないんだっ!!」
抱きしめ伝わってくるのは冷たさ。けれど、その冷たさは物理的なものだけじゃなかった。
『孤独』、『寂しさ』……。そんな感情が伝わって来た気がした。ずっと耐えて来たんだなって、いやでも分かる。
僕も――お母さんとお父さんが死んでから寂しかったから。ミアと出会うまで寂しかった。
身を削ってでも、救いたいって思った。
「大丈夫……大丈夫だから……!」
「らいとっ!!!」
意識が朦朧として、全身が氷で包まれる直前――氷の侵食が収まった。そしてみるみる凍っていた箇所は溶け始めて液体となる。
「は……ふぅ〜〜……。本当に死ぬかとオモタ……」
「無茶しすぎだよライト! 死んじゃったらどうしようかと……」
「うん……ごめんミア、心配させちゃって」
涙目になっているミアの頭をなでなでする。
兎にも角にも、無事みんな生きれてよかった。
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