17 ドラゴン娘登場
黒い塊は広場から消えてなくなった為、辺りはシーンと静まり返る。
「ふぅ……」
一仕事終えた俺は一息つくと、周りの皆から驚きの声が上がる。
「す、すごいですアモンさん! ……あんな大きな黒い塊を消滅させるなんて……」
「ほんとよ、さすがにもうダメかと思ったけど……さすがねアモンね」
「アモンさんすごいにゃ!!」
俺は皆の傍に駆け寄る。
「皆! 何とかなったね。怪我とかない?」
「アモンさん、大丈夫です!」
「えぇ、お陰様でね」
「元気にゃ!」
皆の無事を確認した後、先ほど倒れ込んだドラゴンに俺は視線を向ける。
「……でも、どうしようか。さっき倒れたドラゴンを討伐するって言っても、暴れていた原因はさっき消滅させた訳だし……」
そんな事を話していると、ドラゴンが目を覚ました。
「……っ!」
ドラゴンは自身の手や体を確認した後、俺達に視線を向けてくるが襲ってくる素振りはない。
すると、ドラゴンは光り輝き急激に大きさが人間サイズに小さくなっていく。
「……なんだ!?」
俺は念のため、皆を背にして守りながらドラゴンの変化を観察する。
次の瞬間、ドラゴンがいた場所には頭部に2つの角を生やした少女の姿をした女の子が立っていた。
「嘘……だろ?」
俺が驚きを隠せずにいた中、その可愛らしい女の子は勢いよく俺目掛けて駆け出してきた。
「主様!!!!!」
――ギュッ!
その可愛らしい女の子は、思いっきり俺に抱き着いてくる。
「待て待て! なんだ、お前は! ドラゴンなのか!?」
「そうじゃ! 主様のお陰で自由になったのじゃ!!」
俺の背に隠れていた皆は驚きで体が固まっていた。
無理もない、俺も同じ気持ちだからだ。
「あ、あの~~……ドラゴンだった方、ですよね?」
エアリアはいち早く、我に戻ってドラゴンの少女に確認を取る。
「そうじゃ! ……すまなかったな、我の意志ではないにしても危害を加えてしまったようだ」
「い、いえいえ! ほら、こうして皆も無事でしたし、気にしてませんよ」
エレナとキャスティも普通にエアリアとやり取りをするのを見たことで我に返る。
「……驚きだわ。あなたってさっきのドラゴン……よね?」
エレナはドラゴン少女の身なりを確認しながら呟く。
「あぁ、我はれっきとしたドラゴンじゃぞ!」
ドラゴン少女は無い胸を張りながら答える。
キャスティもドラゴン少女が危害を加えてこないと分かったのか、ドラゴン娘の傍に近づいて体などを観察する。
「……す、すごいにゃ! ドラゴンって人間の姿にもなれるにゃんて!」
「ふふ、我にしてみたらこれぐらい造作もない」
皆と談笑をしているドラゴン娘に俺は尋ねる。
「あの黒い靄に苦しんでいたんだね。……良かったよ助けられて」
「そ、そうじゃ! 本当に助かったぞ主様! 我の意志ではもう自身の体を制御できない状態じゃった」
「それはよかったよ。制御できない状態でも意識はあったの?」
「あぁ……じゃがもう半分ぐらいは諦めていた状態に近かった……でも、そんな我の元に主様が来てくれたのじゃ!!」
また抱きついて来そうになったので、肩に手を置いて静止させながら続ける。
「き、気持ちは十分伝わったよ。えと、それじゃまず君の名前を教えてほしいな」
「我が名はディアマト! この世に4体しかいない同胞の生き残りじゃ」
「ディアマトか……俺はアモンって言うんだ。……それで早速なんだけど、ディアマトはこれからどうするの?」
「我を縛るものがなくなったからの、主様に付き従おうと考えておる!」
「そ、そうなんだ。とてもありがたいけど……皆はどうかな?」
俺はエアリア達に視線を向けて尋ねる。
「私は全然異論はないです! むしろとても心強いです!」
「そうね。あたしも異論はないわ」
「私も異論はないにゃ!」
特に問題はないようだったので、視線をディアマトに戻す。
「……だそうだ。俺ももちろん歓迎するよ。よろしくねディアマト」
「よろしくなのじゃ主様!!」
話が決まったところで、エアリア達もディアマトと自己紹介を交わす。
「私はエアリア・アランテルです。よろしくねディアマトちゃん」
「あぁ、よろしく頼むのじゃエアリア!」
「エレナ・ノーランよ。未だに信じられないけどね、ディアマトがあのドラゴンだったなんて」
「我はこの格好の方が動きやすいからな、無理もないじゃろう」
「ディアマトさん! 初めまして、私はキャスティ・ライトって言います!」
「キャスティか、よろしく頼むぞ!」
自己紹介も終わったところで、俺がこれからの事について尋ねる。
「それじゃ、一先ずこの洞窟を抜けようか」
「そうですね! ……って、言っても来た道は落石で塞がっているので戻る事が出来なかったんですよね……」
エアリアは落石で塞がった道を見ながら呟く。
「……ふむ、エアリアはこの道を通りたいのか?」
「はい……」
すると、ディアマトは片手を元のドラゴンの手に戻して、道を塞いでいた岩石たちを丁寧に掴み別の場所へと移動させる。
「す、すごいですディアマトちゃん、一部をドラゴンの状態の形状にすることが出来るんですね!」
「そうじゃ! 全部変わると、大きくて窮屈じゃからな……この方が楽で良いのじゃ」
ディアマトはすぐに落石で塞がっていた道の岩を全て取り除いてくれた。
「わぁ! ありがとうございます。これで戻る事が出来そうです」
とても上機嫌なエアリアだったが、協力的なディアマトに俺も含めて皆が笑顔を浮かべていた。
なんたって討伐目標だった邪竜が仲間になり、優しい心の持ち主だったからだ。
「それじゃメルトリアに帰ろうか」
それから俺達は来た道を引き返すと、エアリアの魔法で守られていた馬車と馬が待機していた。
「さすがエアリアの魔法だ。馬車には全く襲われた形跡がないよ」
「えへへ、よかったです!」
その後、俺達はディアマトというとても心強くて可愛らしいドラゴンの女の子を仲間に迎え入れ、メルトリアまで戻った。
エルトリアに到着して宿屋に馬車を預けた後、クエスト達成報告をする為にギルド本部へと向かっていた。
「すっかり日が暮れちゃいましたね」
エアリアが空を見上げながら呟く。
「そうだね。でも日が落ちる前に戻ってくる事が出来てよかったよ。ディアマト、今からギルト本部ってところに向かうんだけど、付いてきてくれるかな?」
「ギルド本部? あぁ、問題ないのじゃ!」
「ありがとう、それじゃ付いてきてね」
俺達はディアマトを連れてギルド本部へと向かった。
ギルド本部に入ると、内装は相変わらずガヤガヤと騒がしく賑やかだった。
「……ここはいつも平和でいいわね」
エレナが皮肉を呟く。
「まぁまぁ、エレナさん」
「それじゃ受付にいこう」
俺達は一直線に受付まで向かう。
すると、以前もお世話になったエルフ族の受付の人と目が合う。
「あ、あなた達は……邪竜討伐に向かわれたと伺っていましたが……中断して戻ってきたのですか?」
受付の女性は俺達の顔を見るや否や、話し始めた。
「あぁ……いや、説明するとややこしいんですが……」
俺はディアマトに視線を向け、両手をディアマトに差し出す。
「この子がその邪竜です」
「……………へ? この可愛らしい女の子が……ですか? た、確かに角は邪竜の角に似ているような……でも、そんな……」
何やらゴニョゴニョ呟く受付の女性。
「信じられないのも無理もないじゃろう。ほれ、これでどうじゃ?」
ディアマトは片方の手をドラゴンの状態に戻し、自身がドラゴンである事を証明する。
「ひぃ! わ、分かりました! 認めましょう!!」
受付の女性も含め、ガヤガヤしていたギルド本部内にいた人たちは一気に静まり返る。
「それでは、クエスト報酬をご用意するのでおまちください!!」
受付の女性は奥へと消えていった。
「……うぅ、周りの視線が気になる」
「あはは……仕方ないですよ。私たちも最初はあんな感じでしたから……」
「……ふふ、そうね」
「皆の反応が面白いにゃ!」
「……ふむ、何やら我に注目を浴びているようじゃな」
ディアマトは手を元の少女の手に戻す。
「これでいいじゃろう」
すると、奥へ消えていった受付の女性は戻ってきた。
「さ、この台にギルドカードを置いてください」
「あ、はい! わかりました」
俺は閉まっていたギルドカードを台にセットすると、たちまち光り輝く。
光はすぐさま消えて処理が終わった事を知らせてくれた。
「これで完了です」
「え、もう終わりですか?
「はい! クエスト報酬はこのギルドカードを使って受け取る事ができます。資金の換金所はご存じですか?」
「……えっと、すみません。分からないです」
「それでしたら案内しますね。付いてきてください」
受付の女性は奥に消えると、部屋の隅からこちら側に出てくる。
「さ、こちらへどうぞ」
俺達は受付の女性に導かれるまま、部屋の隅にあったカードを入れる台に案内される。
「ここにギルドカードを入れると、金貨・銀貨・銅貨の種類別に資金の残高が表示されます。そして、引き出す資金を指定する事ができます」
「へぇ……便利そうですね」
「はい。ギルド本部は数多くの街に設置されているので、他の街に立ち寄った場合でも資金を引き出す事ができると思いますよ。是非あなた達のこれからの冒険に生かしてくださいませ」
それから女性の受付は丁寧にお辞儀をすると、受付まで戻っていった。
「エアリア、今回のクエストで手に入った資金ってどれぐらいなの?」
俺はパネルに示されている金貨5000と表示されている残高について質問する。
「えっと、確かクエストを受ける時にも受付表に記載されていた額ですから……うん。確かこの額だったと思います。この額があれば……そうですね。しばらくはお金について心配する事はないでしょうね」
「へぇ……そんなにあるんだ。……資金も手に入ってディアマトも仲間になってくれて……とてもありがたい場所なんだね。ギルド本部って」
「……いや、とても特殊だと思うけどね、あたしは」
エレナは苦笑しながら話す。
「そうかな?」
「でもでも、これだけあればすぐにアモンさんの向かいたいエクリエル王国に行けるにゃ!!」
「そうだねキャスティ!」
「ん? 主様、エクリエル王国へ行きたいのか?」
「あ、うん! エクリエル王国にちょっと用があってね」
「ふむ……エクリエル王国はここからは遠いじゃろう……よし、主様! 我が皆を乗せてエクリエル王国に向かうというのはどうじゃ?」
「……そうか、ディアマトの言う通りドラゴンの姿になって移動すれば……!」
ディアマトの素晴らしい提案に俺はディアマトの両肩に手を置き、出来る限りの笑顔を浮かべる。
「ありがとうディアマト! 助かるよ!」
「わ、我は主様が望むなら何でもするからの……何でもいってくれ」
ディアマトは頬を赤らめながら弱弱しく呟く。
「あ、ごめん!」
俺は我に返り肩から手を放す。
「よ、よいのじゃ主様。そうと決まったら早速出発か?」
「いや、今日はもう日が暮れているからね。一先ず宿屋に戻って休もう」
皆は異論はないようだったので、俺達はギルド本部を後にして宿屋に戻るのだった。
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