16 邪竜との戦い

それから洞窟内部を進むと数多くの魔物が襲い掛かってきた。

だが、エレナとキャスティの活躍で俺は馬車の手綱を放すことなく、洞窟の先を進む事ができていた。


「……どうやら馬車での移動はここまでのようだ」


目の前には馬車では通る事ができないような狭い道が伸びていく。

俺の声に気付いたエアリアは荷台から顔を出す。


「あ、本当ですね……ここからは歩いて進まないといけませんね」

「うん。でも……ここに馬車を止めていたら馬が魔物に襲われたりするんじゃないかな?」

「そうですね……アモンさん、ちょっと待っていてください」


エアリアは呪文を唱えると、馬車と馬の周りに光の玉と薄っすらと見える防御壁を張る。


「これで、大丈夫です! この結界から出ない限り、魔物に襲われる事はありません」

「へぇ、エアリアも防御の魔法を使えたんだね」

「あ……いえ。この魔法はあくまで魔物に気配を気づかれないようにする結界ですので、防御面の力はあまりないですよ」

「あ、そうなんだ。……でも、これで馬車をここに置いても一安心だね。先を進もうか」


俺達は馬車から降りて狭い道を1列に並びながら通り抜ける。




しばらく俺達は狭い道を進み続けると、少し広い場所へと出る事ができた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


すると、急に地鳴りが鳴り始める。


「ギシャァァァァァァァァッ!」


甲高い叫び声と共に、洞窟の上層部から紫黒しこく色のドラゴンが地面に降り立ってくる。


――ドスンッ!

俺達の10倍以上の大きさをしたドラゴンは頭部に大きな2つの角を禍々しくい光らせながら着地する。

着地と共に、ドラゴンは口を大きく開けて紅蓮色の炎を俺達に放ってきた。


「……っ! アブソリュート・シールド!!」


俺は咄嗟の判断で目の前に空気の壁を展開する。

紅蓮色の炎は、俺が展開した空気の壁に阻まれて俺達のいる場所には届かなかった


「今のうちに俺の背中に隠れて!」

「アモンさん、やっぱり予想以上に強そうなドラゴンじゃないですか、どうしましょう!」

「エアリア! 光の玉をこの広場全体を見渡せるぐらいに増やせるかな?」

「は、はい! やってみます」


すると、エアリアは呪文を唱えて数多くの光の球を生成し、広場全体に散りばめる。

広場は明るくなり、討伐対象であるドラゴンをしっかりと視認できるようになった。


「……デカいな」

「く、これじゃ近づけないわ!」

「うぅ、どうするにゃっ!」


エレナとキャスティは空気の壁で防ぎ止められている紅蓮色の炎を見ながら悔しそうにつぶやく。

しばらくすると、ドラゴンの紅蓮色の炎は勢いを無くし、消えていった。


「……ん?」


俺はよくドラゴンを観察すると、ドラゴンの体を黒いもやのようなものがただよっていた。

それに、何かとても苦しそうにしているのが伝わってくる。


「……エアリア、あのドラゴンに漂っている黒いもやって何か分かる? 何だかあのドラゴン、苦しんでいる気がするんだ」


エアリアもドラゴンの周りに漂っている黒いもやを確認すると、慌てた表情を浮かべて話し出す。


「あの黒いもや……知ってます! 確か、昔おじいちゃんから聞いた事があります。闇上位魔法の一つに体内に核を埋め込み、相手を暴走させて呪いのように苦しめる呪術があると……その術にかかった者の周りに漂うのがあの黒いもやです!」

「呪術……なんだか物騒だね。でも、その術が原因で苦しんでいるって事は、その術を解いてあげればいいって事かな?」

「はい。……でも、そんな闇魔法の上位魔法を解除するなんて私にはできませんよ!」

「……俺に任せてよ。でも、ちょっと時間が欲しいんだ」


すると、武器を構えたエレナとキャスティが俺の顔を見る。


「時間稼ぎなら私たちに任せなさい、いくわよキャスティ!」

「わかったにゃ! アモンさん、私たちに任せてにゃ!」

「念の為、一度だけ即死を回避する魔法をかけておきますね」


エアリアは呪文を唱えると、エレナとキャスティの2人の体に光が染みこんでいく。


「ありがとうエアリア」

「ありがとにゃ!」


俺達のやり取りの間、ずっと空気の壁を突破しようと頑張っているドラゴンを横目に俺は皆に伝える。


「エレナ、キャスティ。時間を稼いでもらえればいいからね! それじゃ行動を始めよう!」


俺の掛け声と共に空気の壁を解除し、俺達は行動に移した。

当然、空気の壁がなくなったのでドラゴンは迫ってくる。


「ウェーブ・キャノン!」


俺は極小の空気の球をドラゴンに放つと、ドラゴンは後方へ思いっきり吹き飛ばされる。


「よし、やっぱり小さくすれば威力も軽減されるんだ! 皆、今のうちに散ってドラゴンの攻撃を分散させるんだ!」

「わかったわ!」

「まかせるにゃ!」

「皆さん、気を付けてくださいね!」


エアリアの言葉に頷いた俺はドラゴンを横目に駆け出す。

ドラゴンの注意がエレナとキャスティに向いている事を確認して俺はドラゴンに手をかざす。


「よし、ここらへんでいいか。……ちょっと見させてもらうよ」


俺はそう言うと目を瞑りドラゴンの周囲にある空気に意識を集中させた。

ドラゴンの周囲にある空気は当然ながらドラゴンも吸い込んでいる。


「体内のどこかに呪文の核があるはずだ。それを突き止めないと」


俺はドラゴンが吸い込んだ空気に意識を集中させる。

空気はドラゴンの血液の中に入り全身へと回りはじめる。


「……どこだ! どこにある……」


砂漠の中で1粒の宝石を探すような集中力を求められる作業に俺は目が回りそうになりつつも、問題の邪気を発している核に到達する。


「――これだ!」


俺は見つけた部位に意識を集中させ、ドラゴンが取り込んだ空気を使って体内細胞を動かし、邪気を発している核を消滅させた。


「ギシャァァァァァ!!!!」


すると、ドラゴンの口から大量の黒いもやが吹き出し、ドラゴンはその場に倒れ込む。

噴き出た大きな黒いもやは大きな塊となり徐々に大きくなっていく。


「な、何よあれは……!」

「わ、わからないにゃ! でも逃げた方がいいにゃ!」


時間稼ぎをしていたエレナとキャスティも大きな黒い塊を背にしてエアリアの方へ避難する。

俺もすぐさまエアリアの近くに駆け寄り、黒い塊が何なのか確認する。


「エアリア! なんだあの黒い塊は!」

「……あれは、恐らく術にかかっていたドラゴンが殺めた者たちの怨念おんねん……つまり、冒険者たちの怒りの感情そのものです」

「そんな……でも、このままじゃ俺達に何をしてくるか分からないじゃないか……」

「で、でも……もう引き返す事は出来ませんよ!」


俺達が通って来た狭い道に視線を向けると、落石などでふさがれていた。

おそらくドラゴンとの戦闘時に落石があったのだろう。


「……みんな下がっていてくれ、俺が何とかする!」

「で、でもアモンさん。あの黒い塊に触れたら何が起きるか分かりませんよ!」

「そうよアモン!」

「アモンさん、危ないにゃ!」

「大丈夫さ! ……要するに触らなければいいんでしょ?」


俺はエアリア達にそう伝えると、黒い塊の方へ手をかざす。


「ひとまず、それ以上は大きくなるなよ!」


俺は黒い塊の周りに空気の壁を展開し、黒い塊を隔離する。


「あ、アモンさん! まさか……物体の隔離も出来るんですか!?」


俺はエアリアに視線を移し、笑みを浮かべる。


「出来た、みたいだね……これもエアリアのお陰だよ。エアリアが俺に空気操作の応用を教えてくれたからこそ、空気操作の可能性が広がったんだ」


視線を黒い物体に戻す。


「こんな風にね!」


俺はかざした手を勢いよく閉じると、黒い塊を隔離していた空気の箱は急速に縮小しゅくしょうしていく。

すると、あっという間に黒い塊を消滅させることが出来たのだった。

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