15 邪竜討伐開始

朝、起きた俺は身動きが取れない事に気付く。

周りを見るとエアリア達が俺の体を枕代わりにしてもたれかかっていた。


「……どうしよう」


俺は小さく呟くとキャスティは目を腰りながら目を覚ます。


「ふぁ~……、おはようにゃん、アモンさん」


キャスティに釣られて皆が起き始める。


「ふぁ……おはようございます皆さん」

「ん~……! おはようエアリア。……ふふ、結局皆床で寝ちゃうなんて笑えてくるわね」


背伸びをしたエレナはそう言いながらほくそ笑む。


「おはよう皆。……キャスティ。昨日よりもちょっと背が伸びた? 見た目が少し変わった気がするけど?」


昨日の今日で目を疑ってしまうほど、キャスティは見違えていた。


「ほ、本当にゃ! 何で!?」

「……なるほど。おじいちゃんから聞いた事があります。確か、亜人族は戦闘経験を積むと急激に体が成長する特性があると」

「へぇ……亜人族って不思議な特性があるんだね。それじゃもっと戦闘経験を積むと成長していくのかな?」

「多分、そうだと思います! でも、今日から邪竜討伐に向かうのならその道中で沢山魔物を相手にすると思いますし、もっと成長するかもしれないですね!」

「ふぇ……そんな特性があったなんて。……うん! 私、頑張ってもっと成長するにゃ!」


キャスティは自身の体を見ながら意気込む。


「……あまり無茶はしないでね。何かあったら俺とエアリアで守るから大丈夫だとは思うけど」


俺は皆が頷くのを確認した後、立ち上がる。


「それじゃ邪竜討伐の出発準備をして、早速向かおう」


俺は懐に仕舞っていた石を取り出し、マナを注ぐ。

すると、青白い光が一点に伸びる。


「この光の先に目的の標的がいるらしいからね」

「わかりましたアモンさん! 傷などは私はアモンさんがいるので問題ないと思いますが、寝床の準備はしておいた方がいいと思います」

「そっか。今日で終わらない可能性もあるし、備えはしておいた方が良いわよね」

「私も手伝うにゃ!」


話は決まった様で、それから俺達は邪竜討伐の準備を始めた。

食料は既に馬車に積んであるので、それ以外の物資を調達して馬車に乗せる。


「それじゃ行こうか」


皆が馬車に乗り込んだ事を確認した後、俺達はメルトリアを後にした。




メルトリアを出た後、小さい石の青白い光を頼りに馬車を進ませる。

森の中に入ると当然ながら道中には魔物が数多く生息している。


「アモンさん! 魔物が道を塞いでいます。どうしますか?」

「あ、あの! 私が退治するにゃ!」


キャスティはすぐさま魔物退治に立候補する。


「そうだな……。エレナ、キャスティの補助として一緒に倒すことはできるかな?」

「まかせなさい。キャスティ、昨日の特訓を思い出しながら戦いなさい。安心して、何かあったらあたしがサポートするわ!」

「は、はい! エレナさん!」


キャスティは元気よく返事を返し馬車から飛び出した。

続けてエレナも馬車から飛び出してキャスティを追いかける。


「キャスティ、昨日教えたように風の層を展開するわよ」

「はい!」


2人の周りには風の層ができ、走る速度が格段に上がる。

次の瞬間、キャスティを主軸にして魔物集団に攻撃を仕掛けていく。


「えい!」


――ズシャッ!

キャスティは大きな剣を振り下ろし、道を塞ぐ魔物を倒していく。


「風の層をまとっていると剣筋が早くなっているからよく切れるでしょ?」

「はい! 剣も昨日より扱いやすくなった気がするにゃ!」


エレナは倒した魔物を見て呟く。


「……でも、昨日の今日でもう魔物を倒すなんてすごいわね」

「ありがとうございます! これもエアリアさんとエレナさんの特訓のお陰にゃ!」


エレナは戦いながらもキャスティの成長具合に驚いているようだ。


「キャスティさん、昨日の今日でもうこんなに……すごいですね」

「本当だね。それにエアリアが教えた魔法もその都度放っているし、2人の教え方も上手なんだと思うけど、元々キャスティに戦闘のセンスがあったんだろうね」

「そうかもしれませんね。この調子で邪竜がいる洞窟へ向かいましょう!」

「そうだね」


それからエレナとキャスティのお陰で道中の魔物に苦労する事は無かった。




それからしばらく石が放つ青白い光線を頼りに、俺達は邪竜が住まう洞窟へと到着した。


「ここ……みたいですね」

「そうみたいだね」


手元の石を確認すると、青白い光線は洞窟の方向へ伸びている。


「それじゃ、早速入りましょう!」

「えぇ! 何が来ても倒して見せるわ!」

「そうにゃ!」


道中の魔物達を退治していたエレナとキャスティは怖いものがないのか、非常にやる気の様子だ。


「まぁまぁ……お2人とも、見た感じだと洞窟内は暗くて辺りが見えない様なので私の魔法で明るく照らしながら進みましょう!」


エアリアはそう言うと呪文を唱え始め、馬車の周りに白く光り輝く光の球をいくつも浮遊させる。


「さ、これでいいでしょう。洞窟に入っていきましょうアモンさん!」

「ありがとうエアリア! それじゃみんな、行こうか」

「えぇ!」

「うん!」


ギルド本部の受付の女性は非常に危険なクエストだと言っていたので、俺も細心の注意を払い中へ入ることにした。




洞窟内に入ると、エアリアが浮遊させてくれた光の球のお陰で大部分を視認できる状態となっていた。


「これは……エアリアの魔法が無かったら何も見えなかっただろうね」

「ふふ、洞窟探索の時には光が必須ですからね。松明に火を灯すのもいいですが、それだと限りがありますからね」

「でも、エアリアのマナにも限りがあるんじゃないの?」

「安心してくださいアモンさん! 私のマナはそんなにすぐ無くなるようなやわなものではないですよ!」


エアリアは余程自身があるのか、胸を張りながら答える。


「凄い自信だね、わかったよ。洞窟探索の間は光の玉の制御、お願いね」

「任せてくださいアモンさん」


――パキキッ!

エアリアと話をしていると、漆黒の先から何かを踏みつける音が聞こえた。


「……エアリア、誰か来るよ」

「……そうみたいですね」


俺の声で、皆は気を引き締めて音がした方へと意識を集中させる。


「シンニュウシャ、ハイジョスル」


無機質な声と共に姿を現したのは全身岩石で出来た大きな魔物だった。


「……デカいな」


俺がそう呟くと同時に、エレナとキャスティは駆け出す。


「通して貰うわ!」


風の層をまとったエレナがそう言いながら切りつけるが――


――ガキィィンッ!

岩石の体にはじき返されてしまう。


「くっ! か、硬いわね!」

「エレナさん、避けるにゃ!」


キャスティが叫ぶと、岩石の魔物は大きく振りかぶりエレナを押しつぶそうとしてくる。


「させないにゃ!」


キャスティは駆けながら手から高速の水鉄砲を放つ。


――プシャァァッ!

水圧で岩石の魔物は後方へと吹き飛ばされる。


「あ、ありがとうキャスティ」

「どういたしましてにゃ!」


風の層をまとったキャスティはすかさず岩石の魔物に肉薄し、岩石と岩石を繋ぐ接続部分に剣を突き入れる。


――ズシュュッ!

水で硬度を落としていたのか、剣は岩石と岩石の間に入り込む。


「グアアァアア!」


魔物は苦痛な叫びをあげる。


「エレナさん! 岩と岩の間を狙うにゃ!」

「えぇ、わかったわ!」


それから2人の連携は手慣れたもので岩石の魔物を圧倒して倒してしまった。


「……すごいな、2人とも」

「本当ですね! ……でも、しっかり回復しないといけません」


エアリアはそう言うと2人に駆け寄り回復魔法をしてあげる。


「ありがとうエアリア」

「ありがとうにゃ!」

「ふふ、どういたしまして!」


俺は3人に近づきながら、エレナとキャスティが倒した魔物に視線を向ける。


「……それにしても、洞窟に入ったのはいいが手荒い歓迎だったみたいだな」

「そうね。風の層をまとっても剣が通らなかったもの、並大抵の冒険者はあいつに苦戦するんじゃないかしら」

「……確かに、強そうな見た目でしたもんね。……でも、キャスティさん! キャスティさんの魔法のお陰で相手の防御が落ちたのが勝利を手に入れた大きな起因きいんだと思いますよ!」

「そうよっ! 言い忘れていたわキャスティ。……さっきは助かったわ。ありがとう」

「そそ、そんな……私も1人じゃあいつには勝てなかったにゃ! 皆がいたから勝てたのにゃ!」


キャスティは照れ隠しをしていたが、エアリアとエレナに褒められて非常に嬉しそうだった。


「よし、それじゃ気を引き締めて先に進もうか」

「はい! アモンさん」

「えぇ!」

「はいにゃ!」


皆の元気な声を聞きながら俺達は馬車に乗り込み、洞窟の奥へと進み始めた。

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