14 キャスティの特性

俺達はメルトリアから出た後、広々と広がる草原へ移動した。


「ここら辺でいいでしょうか? それではキャスティさん。まずは適性を確認していきましょう」

「わかったにゃ!」


エアリアは手を前にかざすと呪文を唱える。

すると、手の先に水の球が集まり、近くの草原の方へ放つ。


――パシャッ!

水の球は草原の地面にぶつかると弾け、辺りを水浸しにする。


「……このように、魔法は体内にあるマナをあらゆるモノに変えて放つことができます」

「すごいにゃ! 私もやってみる!」


キャスティは見様見真似でエアリアと同じように手を前にかざすと、呪文など唱えることなく水の球が手の先に集まってくる。


「わわ! 何か集まってきたにゃ!」

「……えっ! キャスティさん! 呪文を唱えずにどうやってマナを水に変えたんですか!?」


――パシャッ!

キャスティは集めた水の球を手短な場所に放つとエアリアの方を向く。


「わからないにゃ! でも、エアリアさんと同じように水の球を集めるのを思い描くと手に水球が勝手に集まってきたにゃ!」

「……なるほど。もしかしたら無詠唱で魔法を扱えるユニークスキルがキャスティさんあるのかもしれません。試してみましょう」


エアリアはそう言うと、別の魔法呪文を唱えた後、火の玉を作り出し草原に放つ。


「これはどうでしょうか?」

「うん! やってみる」


キャスティも同様に前に手をかざすと、エアリアと同等の火の玉が集まる。


「キャスティさん、すごいです! もしかしたら本当に見ただけで魔法を無詠唱で扱えるんじゃないでしょうか?」

「エアリアさん……えっと、この火の玉、どうすればいいかにゃっ!?」

「……あ、そうですね。手を握ってみてください」


エアリアに言われる通り、前にかざした手を握ると出現していた火の玉も消滅する。


「魔法を構築中に手を握ると構築を中断することができるんですよ」

「なるほどにゃ! ……でも、なんだろう……不思議な感じ」

「キャスティさんの特性として無詠唱で魔法を構築できる力があるんでしょうね。とても素晴らしい力だと思います!」

「そ、そうかな? それじゃ他にも魔法の種類を教えてほしいにゃ、エアリアさん!」

「任せてください!」


それからエアリアは一通りの扱える魔法をキャスティに教えていく。

その光景を俺とエレナは眺めていたが、確認したい事があった俺はエレナに尋ねる。


「確か、エレナは風魔法を使う時、呪文を唱えてたよな?」

「えぇ、そうよ。エアリアも話していたけど、呪文を唱えないとマナを上手く魔法に変換することはできないのよ。私も呪文を覚えるのに苦労したわ」

「……そうなんだ。だとすると、キャスティってすごいんだね。見ただけでその魔法を扱えるなんて」

「そうね。後で実際にいろいろ試してみようかしら」


エレナは不敵な笑みを浮かべながらエアリア達を眺めていた。




キャスティは、エアリアとの魔法レッスンがひと段落し、基本属性は全て使えるようになった。

その後、エレナとの戦闘レッスンを行う事になる。


「さ、キャスティ。やりましょうか……剣を抜きなさい」

「わかったにゃ!」


キャスティは大きい剣を鞘から抜くと、少しバランスを崩しながら構える。


「やっぱり、ちょっと大きいんじゃないかしら?」

「だ、大丈夫にゃ!」

「そう、それじゃ始めるわね」


エレナは足に括り付けられている短剣を2つそれぞれの手に持つ。


「……まず、武器での戦闘では守りが重要よ。私が今から何回か攻撃をしていくから、その剣で防ぎなさい」

「わかったにゃ!」

「良い目ね……それじゃ行くわよ!」


それからエレナはキャスティに勢いよく攻撃を繰り出す。


――ガキィンッ!

キャスティはエレナの攻撃を剣で受け止めるが、エレナの力が強くキャスティはそのまま剣諸共後ろに飛ばされてしまう。


「あぅ!」


キャスティは思いっきり地面に尻もちをつき、エレナはすぐさまキャスティに駆け寄る。


「だ、大丈夫!? ごめんね、強かった?」


エレナはキャスティの手を取る。


「あ、ありがとう……。エレナさん、もう一回お願いするにゃ!」

「……わかったわ。続けましょ」


キャスティの目を見たエレナは微笑みながら答える。

それから何度もエレナはキャスティに攻撃を繰り出し、徐々にキャスティも後ろに飛ばされる事なく防ぐ事が出来るようになっていった。


「ふぅ、ひとまず防御はこれで問題ないわね。キャスティ、次は攻撃よ」

「はぁ……はぁ……わかったにゃ!」


キャスティは息も絶え絶えだったが、エレナの厳しいレッスンはまだ続く様子だ。


「エアリア、キャスティをそろそろ休憩させたほうがいいんじゃない?」

「……そうですね。ちょっと行ってきます」


エアリアはそう言うと、2人に駆け寄り休憩しようと提案する。

……だが、キャスティは首を振った。


「だ、大丈夫にゃ! もう少しで何か掴めそうな気がするからもう少ししたいにゃ!」

「すごい意気込みですねキャスティさん! ……わかりました、もし何かあっても私の回復魔法がありますから安心してくださいね」


エアリアは微笑みながらそう言うと、俺のところまで戻ってくる。


「キャスティさん、すごい気合でした」

「だね。それだけ強くなりたいんだろう」

「そう思えるだけのとても辛い事があったからこそ、今の強い意志をもったキャスティさんがいるんですね」

「そうだろうね。だからこそ、俺達は出来る限りキャスティに協力しよう」

「はい! アモンさん」


エアリアはニッコリと微笑み、エレナ達に視線を戻した。


「それじゃキャスティ、攻撃だけど……さっきエアリアから風魔法を教わっていたじゃない?」

「うん!」

「その風魔法を少し応用することで、移動速度を上げる事が出来るのよ」

「本当!? 教えてほしいにゃ!」

「ふふ、興味深々ね。ちょっとやってみるから見てなさい」


エレナはそう言うと、すぐさま呪文を唱えて体の周りに風の層を作り上げる。


「わ、エレナさんの体の周りに風が舞ってるにゃ!」

「えぇ。体を動かす時って風の抵抗を受けて速度が落ちるのよ。その抵抗を無くしてくれるのがこの風の層なの。この状態で動くことでいつもの倍以上の速度で移動することはできるようになるわ」

「す、すごいにゃ!」

「さ、キャスティもやってみなさい」

「わかったにゃ!」


すると、キャスティの体の周りにも風の層が出来上がる。


「……さっきも見てたけど、本当にすごいわね。すぐに風の層を展開するなんて」

「これが……風の層」


キャスティは試しに周りを駆け出す。


「……すごいにゃ! 体が軽いにゃ!」

「でしょ? その状態で攻撃を繰り出すと威力も格段に上がるわ。その状態で私に攻撃を仕掛けてきなさい」

「はい、エレナさん! それじゃいくにゃ!」


――ガキィンッ!

キャスティはそのままエレナに攻撃を繰り出すが、エレナも当然ながら反応して双剣で剣を受け止めた。


「良い重さね。さ、どんどん来なさい!」

「はい!」


それからキャスティは何度もエレナに攻撃を繰り出していくが、全てエレナの双剣により防がれてしまう。


「はぁ……はぁ……全然、当たらないにゃ……」

「ふぅ……。確かエアリアから聞いたけど、この風の層って応用技って結構難しくて扱える人ってあまりいないみたいなの」

「そ、そうなのにゃ!?」

「えぇ、だからこそキャスティが今使っている風の層を戦闘時に常時展開しておくと大抵の敵を相手にする時に戦況を有利にしてくれると思うわ」

「なるほどにゃ……。戦闘時には風の層をまとわせて戦う方が良さそうにゃ」

「その通りよ。それじゃ、試しにお互い風の層をまといながら好きに戦おうじゃない」

「わかったにゃ!」


それから2人とも風の層をまといながら、すさまじい攻防を繰り広げていく。


「……そろそろ日が暮れてくるね。さすがにメルトリアに帰った方がいいんじゃないかな」

「そうですね。エレナさ~ん! キャスティさ~ん。そろそろメルトリアに帰りましょう!」


エアリアが声を上げると、2人は手を止めて俺達に視線を向ける。


「もうそんな時間なの……わかったわ。もう日が暮れるし、戻りましょうキャスティ」

「はいにゃ! 今日はありがとうございますエレナさん!」

「いえいえ! キャスティさんはこれからもどんどん立派な魔法剣士として強くなっていくと思いますよ!」

「魔法剣士……っ! 私がんばるにゃ!」


キャスティの気合の入った宣言を聞いた俺達はメルトリアに戻り、キャスティを連れて宿屋へと向かった。




宿屋に戻り、お風呂や食事など存分に休憩をした後、明日の計画を話し会う事になる。


「今日はもう日が暮れてしまったが、明日は邪竜討伐に向かおうと思う」

「そうですね! キャスティさんもそれでいいでしょうか?」

「うん! 魔法や戦闘方法はエアリアさんとエレナさんにしっかりと教えてもらったから大丈夫にゃ!」

「ふふ、まだまだ覚える事は沢山あるから、あとは実戦で経験を積んでいきなさい」


エレナは不敵な笑みをキャスティに向ける。


「わかったにゃ!」

「ふふ、何かあっても私の回復魔法がありますし、アモンさんの防御があるので安心してくださいね!」

「うん。魔物の不意打ちとかも任せてよ、俺が守るから」

「ありがとう、エアリアにアモン。2人がいるからこそ私たちは思う存分戦えるわ」

「頼もしすぎるにゃ! よろしくお願いします!」

「それじゃ明日は長旅になるでしょうから、今日は早く休んで明日に備えましょう!」

「そうだね。……それじゃ皆はベットで寝るといいよ。俺はそこらへんで寝るから」


馬車を置く為に急遽取った宿屋なので、当然ながら1部屋しか借りておらず、ベットも2つしか部屋にはない。

必然的に俺は3人にベットを提供することにして、地面に座り壁にもたれかかる。


「いつもすみませんアモンさん……」

「いや、気にしないで」

「……あたしもどこでも寝る事が出来る体質だから別にベットじゃなくてもいいわ」


エレナはそう言うと、俺の隣に座り込む。

座った後、エアリアの方を向いて話す。


「ベットはエアリアとキャスティが使いなさい。私はアモンとここで寝るから」

「え! ……えっと、そうですか。それじゃキャスティさん……」


エアリアは何か言いたげな表情をしながらキャスティに視線を向ける。


「私もアモンさんの隣で寝るにゃ!」


キャスティはそう言うと、俺の隣に座り込む。

すると、俺はエレナとキャスティに挟まれる状態になる。


「……なぜこうなる」


俺はそう呟くと、エアリアは両手をプルプル震わせ始める。


「~~~……っ! 私もアモンさんの傍で寝ます!」


そう言うと、エアリアは俺の近くに座り込み、俺にもたれかかってくる。

すると、ベットは空の状態で地面に座り込む4人というとても不思議な状態となってしまった。


「そ、それじゃ寝ようか」


俺は皆の柔らかい肌を感じながら瞳を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る