9 エレナの旅立ち

朝起きて顔を洗い目をしっかりと覚まさせる。


「……よし!」


昨日食事をした部屋へ移動すると、スティングが既に起きていた。


「アモン、おはよう」

「おはようございます」

「しっかりと休むことは出来たのか?」

「はい。お陰様で、ゆっくり休むことができました。ありがとうございます」


俺がお礼を伝えていると、外からエレナが入ってくる。


「ボス、朝の見回り終わったよー。……ふぅ、これも今日で最後になるって思うと、何か寂しくなるわ」

「ありがとうエレナ、朝飯が出来ているから食べると良い。……アモンも食べるだろう?」

「いいんですか?」

「あぁ、もちろんだ」

「わかりました。えっと、それじゃ……エアリアも起こしてきますね」

「わかった。待ってるな」


それから俺はエアリアが寝ている部屋へと移動する。


――コンコンッ

ドアのノックして中からの反応を待つ……が、反応がなかったので俺はエアリアを呼びかける


「……エアリア―、起きてるか―?」

「……う~ん」


すると微かに部屋の中からエアリアの声が聞こえた。


「エアリア! 朝ご飯を用意してくれたみたいだ。早く起きてこないと全部食べてしまうぞ」

「あぅ……わ、わかりました。ちょっと待っててください。今仕度をします」


すると、中から布のれる音がした後、扉が開かれる。


「お待たせしました! アモンさん」


魔導士の服を着たエアリアが顔を出す。


「寝起きのところ悪いな。それじゃいこうか」

「はい!」


俺達は食事が用意されている場所へと向かった。


「お待たせしました」

「おはようございます! スティングさんにエレナさん!」

「おはよーエアリア!」

「おはよう。それじゃそろったようだし頂こうか」


それから俺達は朝飯を食べる。




一通り食べ終わった後、スティングは俺に尋ねてくる。


「アモン、この後はすぐに出る予定なのか?」

「そのつもりですね」

「そうか……ちょっと待っててくれ、渡したいものもある」


スティングは立ち上がり奥に消えると、少し大きめの紙切れを丸めたものと黄金色の髪飾りを手に持って戻ってくる。


「これはここ周辺の地図だ。旅の役に立つだろう」

「ありがとうございます! 大切に使わせてもらいますね」

「あぁ。……そしてエレナ、これをお前に」


スティングは黄金色の星をかたどった髪飾りをエレナに渡す。


「これって……?」

「……エレナが持っていた方がいいと思ってな、これを俺だと思って大切に身に付けていてくれるか?」

「……ボスがこんな綺麗な髪飾りを持っていたなんて……わかった! 大切にする!」


……おそらく、エレナの母親が身に付けていたものなのだろう。

髪飾りの細かい事は伝えず、スティングはエレナに手渡した。


「……どうかな? 似合う?」

「似合いますね! いいと思います!」

「うん、いいんじゃないかな」


俺とエアリアはエレナに伝えると、エレナも鏡で確認しているがまんざらではない様子だ。


「ご馳走様でした。それでは俺達はメルトリアに向かおうと思います」

「スティングさん、短い間でしたけど、お世話になりました!」

「あぁ、こちらこそ、集落を魔物から守って貰いとても助かった。2人とも本当にありがとう」

「……それじゃ、あたしもちょっと用意してくるからちょっと待ってて」

「わかりました! それじゃ、私たちは先に馬車の所にいるので、用意が出来たら来てくださいね!」


俺は頷くと、スティングの家を後にして馬車が置いてある場所へとエアリアと共に向かう。

集落では、昨日の宴をしたまま外で寝ている者が数多くいた。


「皆さん、とても気持ちよさそうに寝ていますね」

「そうだね。……それだけ、嬉しかったんだろう」


馬車に到着した俺達は、荷物を整理してエレナが来るのを待つ。

すると、エレナが手を振りながら駆けてくるのが見えてきた。


「おまたせー!」


エレナは、戦闘時に来ていた軽装を着た状態で合流する。


「それじゃ、これからよろしくお願いしますね。エレナさん!」


エアリアは手を差し伸べると、その手を掴み、馬車に乗り込むエレナ。


「よろしくね、エアリア! それにアモンも」

「あぁ、それじゃメルトリアへ向かうとするか」


俺は手綱を掴むと、馬は歩き出す。

集落の出口に向かう過程で、集落の皆が声をかけてくる。


「ありがとう2人とも!」

「エレナさんも元気で」


エレナも荷台から身を乗り出し、元気よく手を振る。


「みんなー! 元気でね!」


集落の出口に近づくと、そこにはスティングとエレナと行動を共にしていた武装集団が待機していた。


「エレナさんがいない分、俺達が頑張って集落を守って見せます!」

「うん! お願いね」

「俺もいるからな、集落の事は気にしないでくれ……。気が済むだけ世界を見てきたらこの集落に戻ってくると良いさ」

「……うん、わかったわ!」

「それじゃ、俺達はメルトリアに向かいます。短い間ですが、お世話になりました」

「スティングさん、エレナさんは私たちが責任を持って守りますから安心してくださいね!」


お別れを済ませた俺が手綱を引っ張ると馬は歩き出し、集落から徐々に離れていく。

すると、スティングが少し前に駆け出して大声で叫ぶ。


「エレナ!!! 元気でなー! 風邪、引くなよー!」

「……っ!」


目を潤めながらエレナも荷台の後ろから顔を出して大声で叫ぶ。


「お父さん!!! 今まで育ててくれてありがとう! 行ってくるね!」


2人のやり取りを俺達は微笑みながら見守り続け集落を後にした。




それから俺達は登っていた山道に戻り、先に進む。

俺は手綱を持ちながらスティングから貰った地図を広げて現在位置を確認する。


「う~んと……ほぼ一本道みたいだな。寄り道せずにまっすぐ進めば徐々に下り坂になっていくようだ」

「アモンさん、私にも見せてください!」


エアリアが荷台から声をかけてくる。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


俺から地図を受け取ったエアリアは荷台の床に地図を広げてエレナと一緒に確認する。


「さすがスティングさんですね。隅々まで書き記しています」

「今回は地図があるからいいけど、今後新しい場所を探索する時は私のユニークスキルでどこに何があるのか把握することも出来るわ」

「たしか、千里眼でしたっけ? その時はお願いしますね!」

「当然よ、まかせて!」


エレナは髪飾りを輝かせながらエアリアに言う。


「それはそうと、エレナさんってエルフ族じゃないですか、これまで魔法は使ってこなかったんですよね?」

「そうね。集落には魔法を使える者がいなかったからね。私も特に必要としていなかったし、全然使えないわ」

「そうでしたか……あ! でも、千里眼を使う時にマナを消費していると思いますが、マナを消費している感覚はあるんですよね?」


エレナは少し思い出しながら話し続ける。


「……そうね、使いすぎると一気に疲れてくるアレでしょ?」

「そう、アレです! 魔法も同じようにマナを魔法の各属性に構築して放つので、感覚としては同じようなものです」

「同じような物って言われてもね……私に使えるのかしら?」

「……あの! よかったら私が教えますよ!」


何やらエアリアは目をキラキラ輝かせながら話している。


「いいの? それなら是非、教わりたいわ」

「分かりました! エレナさんってどんな魔法を使いたいですか?」

「う~ん……どうせ使うなら戦闘を支援するような魔法にしたいかな」

「それだと……風属性の魔法がいいかもしれませんね」

「風属性の魔法か……風魔法ってどんなものがあるの?」

「はい、戦闘能力を上げるなら体の周りに風魔法を展開し、体の空気抵抗を無くす魔法を使えば通常の倍以上の速度で移動できると思います」

「それなら戦闘にも使えそうね……詳しく教えて貰ってもいいかしら」


それから何やら荷台の中では2人の密談が進んでいく。

俺も魔法というモノはよくわからなかったので意識を荷台の中から馬が進む方向に戻し、流れていく景色を楽しむことにした。

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