8 親子喧嘩、そして

一通り食べ終わった後、スティングは俺達に質問をしていくる。


「今回は食料提供にケガ人の治療、それに魔物討伐にも協力してくれてとても助かったよ。アモン達がいなかったら今頃どうなっていたのか想像するのが怖いくらいだ」

「俺も襲ってきたエレナ達から状況を聞けてよかったです」

「あはは、初めは驚いちゃいましたけどね」

「あれは……悪かったよ。でも、結局はアモンの技で何もできなかったけどね」


エレナは俺に視線を向けながら話す。


「いつも山道を進んでいる者たちを襲っているのか?」

「ふん、生きる為には物資や食料が必要なのさ」

「……俺達、集落の者ははみ出し者の集まりなのさ。人から奪う事しかしてこなかった。……だが、今回のアモン達の協力してくれた件で一度考えを改めようと思っている。何か別の方法で集落と暮らしていく方法をな」

「俺もその方がいいと思います。他者から奪うやり方じゃ、いずれめぐりめぐって自分たちが奪われる側になってしまいます」

「私もそう思います。奪うより、与えるように生きていくようにってドルフおじいちゃんからいつもしつこく言われていましたから」


スティングはエアリアの言葉に反応する。


「ドルフ……エアリアさん。まさか、名前を聞いた時にもしやと思っていたが、ドルフっていう方はエアリアさんのおじいさんなのか?」

「え? はい、ドルフ・アランテルは私のおじいちゃんですが」

「エアリアのおじいちゃんを知っているんですか?」

「知ってるもなにも……生きる伝説と呼ばれる大賢者だぞ? たしか、この前の魔族侵略の際に勇者一行の1人として参戦して非常に大きな功績を残したと聞いている」


魔族侵略と聞いて、胸がチクリと痛む。

だが、アイネの手がかりが分かると思った俺はスティングに質問をする。


「あ、あの、その勇者一行ってどの街にいるかってわかりますか?」

「確か情報だとエクリエル王国の城下町にいると思うが……ここからはしばらく距離があるはずだぞ。それがどうしたんだ?」

「……あ、いえ。ちょっと気になったもので」


俺は1人心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。


「でも、エアリアのおじいちゃんがそんなにすごい人だなんて知らなかったよ」

「はい、私もおじいちゃんみたいな立派な魔導士になるのが目標なんです」


エアリアは屈託のない笑顔を浮かべながら言う。


「……それはそうと、2人は山を越える理由はメルトリアへ行くつもりだったのか?」

「あ、はい! 実は――」


それからエアリアはポイネ村で起こった事や、俺の旅の目的などスティングとエレナに説明を行う。


「――そうだったのか。メルトリアで情報収集をする為に」

「確か、結構大きな街よね。私も何回か行った事があるわ」

「そうなんですか?」

「あぁ、エレナのユニークスキルは情報収集に長けているんだ。メルトリアに向かえば大抵の情報は手に入れる事が出来る」

「ま、私に任せて貰えれば分からない事は何でも収集することができるからね」

「確か千里眼、でしたよね?」


エアリアはエレナに確認も含めて聞く。


「そう、さっき魔物が来る方向も見ることが出来たし、私の近くで起きるモノを”見る”事ができる」

「……そこで、折り入って2人に頼みがあるんだ」


スティングが改まって俺達に視線を向ける。


「何でしょう?」

「……エレナも旅に連れていってくれないか」

「……え! それはもう全然歓迎したいですが……でも、それは……」


エアリアはそう言うとエレナに視線を向ける。


「……な、なんでよボス! 私はここに残って集落を守っていかないと――」

「……お前がいなくても、集落は俺達が守るから問題ない」

「そんな……っ! ……もう知らないバカ親父!」


エレナは勢いよく屋敷から駆け出していった。


「エレナさん、待って!!」


エアリアが声をかけるが、エレナは止まることはなかった。


「……スティングさん、どういうつもりなんですか?」

「2人にはもう伝えたよな。エレナは山で拾ったと」

「確か、そうおっしゃっていましたね」


エアリアもスティングの方に視線を向けて返答する。


「……だが、厳密には違うんだ。拾ったのではなく……託されたのだ」

「託された?」

「あぁ。当時、俺が山の偵察をしていた時の事だ。複数の亜人族に追われていた子供を抱えるエルフ族の女性を発見した」


スティングは当時の事を話し出す。


「俺はすぐに逃げるエルフ族の女性に駆けつけると、酷く怪我をして今にも倒れそうなほど消耗していてな。……すがるような表情で俺にエレナを託してきたのだ」

「……それで、そのエルフ族の女性はどうなったんですか?」

「すぐに息絶えてしまったよ。俺は息絶えた女性とエレナを抱えて亜人族から逃げた後、一部の集落の者と共に手厚く埋葬させてもらったよ」

「……そんなことがあったんですね」

「あぁ、だが2人も知っている通り、俺達は日陰で生きる生活をしている。徐々にエレナも成長していくと俺の役に立とうと奮闘するのを見ていると申し訳なく思っていてな。俺に託された事でこの集落に縛り付けられている。……そんな気がしていたんだ」


スティングは盗賊として悪い事に手を染めていくエレナに罪悪感を感じていたんだろう。


「……ですが、2人には今まで過ごしてきた親子としての絆が必ずあるはずです。それを一方的に切ってもいいんですか?」

「……よくはないだろう。だが、親の愛情を知らない俺にはどうやってそれを示せばいいのか分からないんだ」

「俺にも既に亡くなっている両親がいます。……ですが、両親との絆は今もこの胸の中に確かに存在しています。そして、その教えも。だからこそ、こんな別れ方は間違っていると思います」

「……私もお父さんやお母さんは子供の頃に亡くしています……でも! 私が寂しくならないように、いつもおじいちゃんが傍にいてくれました! ……今はとても厳しいですが、帰る場所があるというのはとても私を強くしてくれています! だからこそ、私もこういったお別れのやり方は間違っていると思います!」

「……お、俺は……」

「さ、一緒にエレナさんを探しにいきましょう!」


エアリアはスティングの手を取り、屋敷の外に連れ出した。


「ちょ、2人とも待ってくれ!」


俺も慌てて2人を追いかけるように外へ出る。




外へ出ると、集落の皆は宴を所かしこで行っており、お祭り騒ぎのような状況となっていた。

その中でエアリアが目を瞑り何かに意識を集中させていた。


「スティングさん、こっちです!」


目を開けたエアリアは俺達を誘導するように走り出す。

俺とスティングアはエアリアについていくと、山岳の突き出した崖先に1人座り込んで夜空を眺めているエレナがいた。


「な、なんでここが分かったのよ!」


エレナが驚きながら立ち上がる。


「あはは、私って一度お会いした方のマナを元に探知することができるんです」


エアリアはそう言うと、照れながら話していた。


「さ、後は2人で話してください」


エアリアはスティングの背中を押すと、俺のいる場所まで下がる。


「……何よ! どうせ、唯一のエルフ族の私が邪魔だから集落から追い出したいんでしょ!!」

「ち、違う、誤解だ!! 昔……まだお前が幼かった頃に話していたんだ。……もっといろんな世界が見たいとな」

「それは……っ! ……でも、なんでそんな昔の事を覚えているのよ!」

「……忘れる訳ないだろう。エレナとの大切な思い出だ」

「……っ!」

「……ずっと、後ろめたい思いを感じていた。エレナはいつも俺の役に立とうと必死で……だが、どれもエレナの手を悪に染めていく事ばかりだった」

「いいじゃない! それでボスが喜ぶなら何だって手を染めるわ!」


エレナは両手を広げて自らの感情を吐露する。

そんなエレナにスティングは歩み寄り、エレナの両手を掴んで静かに話始める。


「……魔物に集落を襲われた時もお前は集落の皆を命がけで助け、自ら率先して物資確保に回ってくれた。そして、今回集落を救ってくれたアモン達を見つけてこの集落へと連れてきたのもエレナ……お前だ」

「……ボス」

「こんなに優しく育ったエレナには……悪い事ではなく、アモン達と共に正しい道へと進んで欲しいんだ」

「正しい道……?」

「あぁ、エレナがアモン達をこの集落に引き寄せていなかったら今頃どうなっていたことか……想像するだけで恐ろしい。……だからこそ、アモン達のように他者を守り、導いていく。……そんな存在にエレナもなれるはずさ」

「他者を守り、導いていく……私にそんなこと出来るのかな?」


スティングは満面の笑みを浮かべて答える。


「あぁもちろんだ! なんたってエレナは俺の自慢の娘だからな」


スティングの表情を見たエレナも笑顔になる。


「うん……私、やってみるよ! ……なんたって、お父さんの自慢も娘なんだから!」


2人の笑顔を確認したエアリアは微笑むと俺の方に視線を向ける。


「……話はまとまったみたいですね」

「あぁ、そうみたいだな」


スティングが俺達の方に視線を向ける。


「……すまなかった。俺達の問題に付き合わせてしまって、これで――」


スティングが話している最中、エレナが立っていた足場に亀裂が入る。


「キャッ」


――ガララッ!

バランスを崩したエレナは断崖絶壁がある方向へ倒れそうになる。


「エレナ!」


――ダンッ!

スティングはすぐさまエレナの方へと飛び、エレナを抱き寄せる。

だが、このままでは2人諸共崖下へと落ちていく。


「――アモンさん!」

「まかせろ!」


俺は落下する2人の方へ手をかざし、空気の壁を何重にも重ね合わせ、2人をその上へと乗せる。


「……こ、これは一体……」


2人はクッションに包まれるように空中に留まり、周りから見たら宙に浮いているように見えていた。


「アモンさん、ありがとうございます!」


すると、エアリアは呪文を唱えると――


『フライ』


――呪文名を発すると、エアリアの背中から光り輝く光の翼を広がる。


「エアリア、そんなことも出来るのか!?」

「はい! これ、可愛いですよね! ちょっと待っててくださいね」


エアリアはそう言うと、2人の元へと飛び立っていき、2人を抱えて戻ってくる。


「……死ぬかと思ったわ」

「今回ばかりは俺も死を覚悟したぞ。……でも、アモン達にまた助けられたな。ありがとう2人とも」

「いえいえ、無事で何よりです!」

「さ、また崩れるかもしれないので早く集落に戻りましょう」


それから俺達はすぐに山岳から集落がある場所へと戻ることにした。

屋敷に戻ると、改めてスティングが俺達にお願いを伝えてくる。


「バタバタして申し訳ないが、改めでお願いする。エレナを旅に連れて行って欲しいんだ」

「はい! 人数が多い方が楽しいですからね。大歓迎です! アモンさんもそうですよね?」

「うん。エレナ、よろしくね」

「えっと……よろしくね。私あまり集落から出たことがないから、知らない事だらけだけど、頑張っていろいろ覚えていこうと思うわ!」

「もちろんです! 私がエレナさんにいろいろ教えてあげますね!」


エアリアは何やら張り切った面持ちで話していた。

話がまとまったタイミングを見図り、俺達のやり取りを眺めていたスティングが話始める。


「確か、先を急いでいるんだよな。明日にでも出かけるのか?」

「はい。そのつもりです。お休み出来る場所などはどちらに行けばいいでしょうか?」

「何、寝床ぐらいだったらこの屋敷で用意するさ。今日はゆっくり休むといい」

「良いんですか! それじゃスティングさん、お言葉に甘えさせてもらいますね」

「助かります」


俺達はスティングの提案に乗り、部屋を借りることにした。

今回はエアリアと別々の部屋を案内してもらい、久しぶりに一人っきりの空間を過ごす。


「……ふぅ、今日は疲れたな。……でもいい疲労感だ」


明日はメルトリアへ向けて出発する予定だ。まだ見ぬ新天地となるが、果たして有力な情報はあるのだろうか。


「……まぁ、考えても仕方ないか」


俺は横になり目を瞑ると意識はすぐに遠くなった。

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