4 エアリアとの休息
村に帰ると村人たちが祭壇に備える食事を作り始めていた。
「おぉ、あなた達が冒険者の方たちかな?」
奥からご老人が俺達に話しかけてくる。
「はい。あなたは?」
「これは申し訳ない、わしはこの村の村長をしている者だ。今回はなんと生贄に志願したと聞いたが本当なのか?」
村長と名乗るご老人に俺は答える。
「はい。でもただ食べられるのは嫌なので、その魔物が村に襲ってこないようにしたいと思ってます」
「なんと! そんな事ができるのですかな?」
「出来ると思いますよ。なので俺に任せてください」
「アモンさん! 私も協力させて頂きます!」
「これはなんと頼もしい! ……さ、腹が減っているだろう。今皆が供え物の食事を用意している。是非冒険者のあなた達も食べていくといい」
「ありがとうございます」
それから村長に席に誘導され、俺達は夕食をご馳走になった。
食事をしているとエアリアが話しかけてくる。
「アモンさん」
「ん? どうかしたのエアリア?」
「えと、アモンさんの旅の理由ってなんですか?」
「あぁ、話してなかったね。俺の旅の理由は妹を助ける旅をしているんだ」
「え、妹さんがいらっしゃるんですか!?」
「まぁね。ただ……具体的にどこにいるのか分からないから、情報収集の為にこの村に寄ってみたって感じなんだ」
「……そうだったんですね。妹さんの情報が聞きたいのなら、この村から近いメルトリアという都市に行けば何か分かるかもしれません」
「メルトリアか……。行った事ないな」
「よかったらこの村の魔物討伐が終わったら案内しましょうか?」
「え、いいの?」
「はい! 助けて貰った恩返しです!」
エアリアは満面の笑みで答える。
「それじゃお願いしようかな」
「わかりました!」
それから程なくして俺達は食事を済ませる。
その後、魔物が村に近づいてくるまで祭壇で待機することにした。
魔物が出てくるまで時間が空いたので、俺はエアリアにいろいろ聞くことにした。
「エアリアの旅の目的って確か……修行の為って言っていたよね」
「はい! 私のおじいちゃんがとてもすごい魔導士なんですが、とても厳しい人で……今回の旅だって魔導士として一人前になるまで帰ってくるな。とまで言われているんです」
「そうだったのか……。でも、一人前ってどれぐらいになったら一人前なの?」
「おじいちゃんが言うには、4代属性……あ、先ほどお伝えした火・水・風・土の中位魔法の習得と光属性の上位魔法を習得するまでって話していました」
「へぇ……結構厳しいおじいちゃんなんだね」
「はい……光属性の上位魔法なんてすぐに習得できるはずもないので、おじいちゃんの厳しさが分かると思います」
「その上位魔法っていうのはどうすれば身に付くの?」
「……アモンさんはマナってご存じですか?」
魔界ではマナを体内に取り入れて過ごしていたから最も親しみあるモノだ。
「うん。知っているよ」
「私たちの体内にあるマナを構築して各属性に変化させるのですが、その構築の練度をあげていくとより強力な魔法……すなわち上位魔法にすることができるんです」
「そうなんだね。エアリアは今どれぐらいの練度の魔法を出すことができるの?」
エアリアは照れつつも話す。
「あはは……まだ四代属性は下位魔法で、光属性は中位魔法までです……」
「……修行の旅はまだ終わりそうにないんだね」
「でもでも! 挫けていてもしょうがありません! 鍛錬あるのみです」
「気になっていたんだけど、闇属性の魔法は使えないの?」
「……闇属性は適性がある人じゃないと使いこなす事ができないんですよ」
「適正?」
「はい。無暗に使用すると、魔法に精神を乗っ取られてしまって廃人のような状態になるんです」
エアリアはなにやら物騒な事を話す。
「そうなんだ。エアリアのおじいちゃんはその闇魔法ってのは使えるの?」
「はい! おじいちゃんは6属性のすべての上位魔法を使いこなす事ができる賢者ですからね!」
「すごっ! エアリアのおじいちゃんってすごいんだね」
「私の目標です!」
「俺もエアリアがおじいちゃんのような魔導士になれるように応援しているよ」
「ありがとうございますアモンさん!」
エアリアはニッコリと笑顔を浮かべて答える。
すると、村の遠くから地面を揺らすほどの足音が聞こえてきた。
「……アモンさん」
「うん……何か近づいてくるね」
俺達は村の外に出て足音が聞こえる方に視線を向けると、全長10Mはある大きな魔物が村に近づいてきていた。
「予想以上にデカいね」
「アモンさん、言っている場合じゃないですよ! また村に襲ってこないように討伐しましょう!」
エアリアは俺から距離を取り、遠くから火の魔法で魔物に先制攻撃を仕掛ける。
魔物は火の魔法を手で軽々と弾くと、ものすごい速さで俺達に近寄ってくる。
「ギシャァァ!」
奇声のような鳴き声を上げながら俺達に近づいてくる魔物に対して俺は目の前に空気の壁を展開する。
――バンッ!
すると、魔物は空気の壁にぶつかりその場にとどまる。
「ギュ?」
魔物は何が起きたのか理解できないような表情をしていた。
「アモンさん! 早速空気の応用技を使ってみたんですね!」
「うん! それじゃ続けていくよ!」
俺は空気の刃を魔物の手に打ち込む。
――スパッ!
魔物の手は綺麗に切断されて地面に落ちる。
「ギョオオオオオ!!」
魔物は奇声を上げて自身の手の痛みに悶えていた。
「よし! これでもう悪さはしないだろう」
「アモンさん! それでは魔物の傷が癒えたら村がまた襲われてしまいます! だからこそ、討伐をしなくてはいけないんです」
「討伐……って、殺すって事だよね?」
「そうです! ここで見逃したらまた村人の子供たちが生贄になるんですよ?」
誰かを守るためには……誰かの犠牲が必要という事か。
……俺は覚悟を決めて近づいてくる魔物に視線を移す。
「わかった! それじゃいくよエアリア!」
「はい!」
俺は草原で試した空気の球も試してみることにした。
両手をかざし、周囲の空気を一点に圧縮させる。
「さっきより多くの空気を集めてみようか。……よしっ!」
先ほど作った空気の球より2倍ぐらいの大きさの空気の球を目の前の巨体の魔物に放つ。
「くらえ!」
――ドゴォォォォォンッ!!!!
すると、放った空気の球は瞬時に拡大し、眼前の魔物もろとも地面を削り取り跡形もなく消し飛ばしてしまった。
「……アモンさん、やりすぎです」
「……ごめん」
辺りには魔物の肉片が散乱し、惨劇が起きた後のような場所になっていた。
「あ、アモンさん! ひとまず魔物討伐完了したことを村の人たちに報告しましょう!」
エアリアは瞬時に切り替えて俺に提案してくる。
「そ、そうだね!」
俺は返答した後、エアリアと共に村に戻った。
村に戻ると、俺達の戦闘の音を聞いていた村人たちの出迎えを受ける。
その中から村長が俺達に話しかけてくる。
「……なんと! 本当にあの魔物を討伐したのか!?」
「はい。もうこの村に二度と手を出すことができないように粉々にしたので安心してください」
「おぉ! ……なんとお礼をしたらいいのか」
「そんな……お礼はいいですよ」
「いや、させてくれ! ……確か、そなた達は冒険者だったであろう? これから移動するのも大変じゃろう。村から馬車を用意しようじゃないか」
「馬車……ですか?」
「あぁ、これで移動が楽になるじゃろう!」
「よかったですね! アモンさん!」
俺達は村長から馬車を貰う事になった。
「ありがとうございます。村長さん!」
「こちらこそ、村を守ってくれてありがとう! だが今日はもう遅い、宿屋を用意しているからそこでゆっくり休んでいくといい!」
「何から何までありがとうございます」
「馬車は明日の朝に私の家に来てくれ、置いてある場所を案内しよう」
「分かりました」
それから俺達は村長に宿屋へ案内される。
宿屋に到着すると、亭主の方は挨拶をしてくる。
「いらっしゃいませ、部屋の方は用意しております」
「それではワシは戻るとするよ。2人とも、今日はゆっくり休んでくれ」
村長はそう言うと、宿屋から出て行った。
「さ、こちらへどうぞ」
俺とエアリアは言われるがまま宿屋の亭主についていく。
「さ、こちらになります。ゆっくり休んでくださいね」
宿屋の亭主はそう言うと、部屋から出て行った。
「……え~っと、エアリアさん」
「はい?」
「……同じ部屋で泊まるのかな?」
「……そんな感じがしますね」
どうやら、エアリアと同じ部屋で泊まる事になってしまったようだ。
「村長さんに別の部屋を借りれるか聞いてみるよ!」
俺が部屋を出ようとすると、エアリアは止めてくる。
「あ、私は気にしないので一緒にこの部屋に泊まりましょう!」
「……いいのか?」
「はい! アモンさんは嫌なんですか?」
「嫌……ではないが」
俺は魔族の象徴である角は子供の頃に折れてしまっているので、パっと見は人間と見分けが付かない。
……だが、魔族には尻尾も付いており、いつも腰に巻いて隠しているので風呂場なので裸を見られると魔族である事がエアリアにバレてしまうのだ。
「それでは、先にお風呂を貰いますね!」
エアリアはそう言うと、部屋に備え付けているお風呂場に消えていった。
俺は妙に落ち着かない時間を過ごす。
「人間か……父や母もこうやって人間と過ごしていたのかな」
俺は今日一日を振り返り、人間とのやり取りを思い出していた。
「空気操作もこんな応用法があるなんて知らなかったし、これからも今まで知らなかった事が知れるようになるんだろうな」
ワクワクと戸惑いが半々でとても不思議な感覚を感じていた。
そんな時間を過ごしていると、お風呂場からエアリアが出てくる。
「アモンさん、お待たせしました!」
「おかえりエアリア」
エアリアは、魔導士の服ではなく寝間着の恰好で部屋に戻ってきた。
「アモンさんも入ってくるといいですよ! 疲れが綺麗に洗い流せます」
「それじゃ、頂こうかな」
エアリアのお言葉に甘えて俺もお風呂に入ることにする。
人間界に来て久しぶりのお風呂なので、とても気持ちよく体の疲れを洗い流す事ができた。
「おまたせ、ベットは一つしかないようだからエアリアが寝るといいよ。俺はそこらへんに座って寝るから」
「え、いいんですか?」
「うん」
「……それじゃ、お言葉に甘えて使わせてもらいますね」
エアリアはベットに座ると、俺に話しかけてくる。
「アモンさん、明日村を出るんですよね?」
「そうだね。馬車もくれるみたいだし、広場でエアリアが話していたメルトリアに行ってみようかと思うよ」
「分かりました! メルトリアへの道案内は任せてくださいね!!」
「うん! お願いするね」
明日の予定も決まった事で、俺達は寝ることにした。
「それじゃおやすみなさい、アモンさん」
「うん、お休みエアリア」
しばらくすると、エアリアは静かに寝息を立て始めた。
俺は部屋の隅に座り壁にもたれかかると窓から夜空を見上げていた。
「……いい世界だな」
一通り夜空を堪能した後、俺も目を瞑り意識を手放した。
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