3 魔物討伐に向けて
村から少し離れた草原へと移動すると、俺はエアリアに視線を向ける。
「ここらへんでいいか?」
「はい! それでアモンさんの空気操作なんですが、使い方によっては魔法の威力も格段に上げる事が出来るかもしれません。他にも空気を使った応用も試してみたいと思います!」
「そ、そうかな? ごめんね。俺……あまり魔法とか詳しくないんだ」
俺は頭をポリポリかきながら答える。
「そうでしたか、それなら簡単に説明します。魔法には火・風・土・水といった四代属性があり、それとは異なる光・闇属性の合計6種類あります。私が得意としているのが光属性です! あ、でも闇属性以外の属性であれば、下位魔法ぐらいなら使いこなす事ができますよ」
「下位魔法? 属性にも優劣があるの?」
「はい。各属性には下位から中位、上位と魔法の規模も威力も格段に上がっていきますね」
「ふむふむ……」
「それでアモンさんの空気操作なんですが、魔法に対して影響を与える事ができるかもしれないんです。少し試してみましょう」
すると、エアリアは両手を草原に突き出し呪文を唱える。
瞬く間に両手の先には火の玉が出現する。
「アモンさん、この火の玉を打ち出すので火に空気をまとわせてみてください」
「わかった!」
エアリアは俺の返答を聞くと、両手から火の玉を草原へと打ち込んだ。
すぐさま俺は打ち込まれた火の玉に空気をまとわりつかせる。
――ボォンッ!
発火音とともに、エアリアの打ち出した火の玉は何十倍の大きさに膨れ上がり、眼前の草原を燃えつくした。
「えぇぇ!!」
「……ね! 思った通り!」
俺が驚きの声をあげていると、エアリアは満足そうな表情を浮かべていた。
「……すごいな、火に空気をまとわせるだけでこんなに大きくなるなんて」
「はい! おそらく他の魔法でもいろいろ面白い効果があるでしょう! それじゃ空気操作の応用も試してみましょうか!」
「応用っていってもな……何も思いつかないよ」
「それじゃ……まず思いつくのは空気を一か所に集めて壁みたいな状態にしてみるとかどうでしょう」
「空気を壁みたいに?」
「はい! こう……空気を
「わかった……ちょっとやってみるよ」
俺は両手を突き出してエアリアのアイデア通りに空気を一か所に密集させてみる。
「エアリア、どうかな?」
エアリアは俺の正面に立ち、俺がいる方に手を伸ばす。
「……あっ! これ以上手を前に突き出せないです!」
エアリアは俺が作り出した空気の壁に何度かパンチを繰り出しながら続けて話す。
「アモンさん、この空気の壁をそのまま維持しておいてくださいね」
「わ、わかった」
すると、エアリアは少し離れて小さい水魔法を唱え、俺の方へ水球を飛ばしてくる。
「えっ! エアリア!?」
だが、水球は俺が作り上げている空気の壁に当たり地面に落ちて草を濡らす。
「アモンさん! この壁、しっかり防御できてるじゃないですか!」
「た、確かに」
「それじゃ他にも魔法を打って見ますね!」
「えぇ!?」
それからエアリアは俺に向かって様々な魔法を打ちこんでくるが、いずれも俺の作り上げた空気の壁に当たり俺に届くことはなかった。
「す、すごいな……これ」
「えぇ、私もビックリしちゃいました! これほどまでとは」
それからいろいろ試すうちに、空気の壁は視界に入る場所であればどこでも形成できることが分かった。
また、大きさも自由自在で自分の周りに壁を作れば、周りから攻撃を受け付けない事も出来た。
「アモンさん! 防御面はこの壁を使えば問題ないと思います! それじゃ次に攻撃にも応用できるか試してみましょう」
「攻撃か……あまり、相手に危害を与えたくはないけど……」
「アモンさん、今回の魔物討伐では守りだけでは勝てないですよ!」
エアリアは、あまり気が乗らない俺の説得を試みてくる。
ここで断っても悪いと思った俺は、話を聞くことにした。
「う~ん……わかったよ。それで空気を攻撃に応用できる方法って何かあるのかな?」
「はい! 風魔法にもある風の刃に近い方法なのですが、空気を薄く刃のように形成して打ち出すんです」
「なるほど……」
「丁度いい感じの木があるので、あの木に向かって放ってみてください」
「やってみるよ」
俺はエアリアの言う通り、空気を刃の様に形成して木に向かって打ち出す。
――ズシュッ!
すると、木は瞬時に上下に切り分けられ、切り落とされた木は地面に崩れ落ちる
「……すごっ!!」
「やっぱり! アモンさん、これも使えそうですね!」
「いやいや、危ないでしょ、これ」
「確かに危ないですが……相手に威嚇するぐらいの威力はあると思うんです!」
「あ、なるほど……実際には相手に向けて打つんじゃなくて、別の対象に向けて打って威嚇することができるね」
「はい! 空気の刃ができるなら……空気を一か所に集中させる事も出来るんですか?」
「空気を一か所に集中?」
「そうです。こう……空気を一か所に圧縮して球のように形成するイメージです」
「う~ん。やってみるよ」
俺はエアリアの言う通り、両手を前にかざして中央に空気を圧縮してみた。
すると、小さい空気の球が形成され、微かに視認できる球体となる。
「アモンさん! いい感じです!」
「エアリア、これ……どうすればいいの?」
「そうですね……何もない草原の方へ打ってみてください」
「わかった!」
俺は両手の中央に形成された空気の球を誰もいない草原の方へ打ち出した。
すると――
――ドガァァァーン!
球を打ち込むと球体は瞬く間に大きくなり、すさまじい風を起こしながらすべてを吹き飛ばした。
「ええぇぇぇ!!!!」
緑で広がっていた草原は影を潜め、地面がむき出しになり荒野のような景色に変わってしまった。
「あはは……これは使いどころを考えないといけないかもしれませんね」
さすがのエアリアも空気の球の威力に驚きを隠せなかったようだ。
「そ、そうだね。……空気の球はあまり使わないようにするよ」
「この調子だと、攻撃面も申し分ないですね。あとは……回復にも使えるか試してみましょう!」
「回復?」
「はい! まず私が使っている光魔法を見ていてください」
エアリアは何か呪文を唱えると、自身の手に傷を作る。
「え!? エアリア、何を」
「まぁ見ててください」
エアリアは血が滴り落ちる箇所にもう片方の手をかざして呪文を唱える。
すると、傷口が神々しく光り輝き、傷口はみるみると塞がり元通りになる。
「す、すごいな。これが回復魔法ってやつなのか?」
「はい。光魔法には傷を癒し、修復してくれる効果があるんです」
「へぇ……光魔法ってすごいんだね」
「それじゃ同じように傷を作るので、アモンさんも試してみてください」
エアリアはまた同じように手に傷を作る。
「さぁどうぞ!」
エアリアはニコっと笑いながら傷口を突き出してくる。
「どうぞって言われても、どうしたらいいんだ?」
「そうですね。一先ず空気を怪我をした部位にまとわせてみてください」
「わかった」
俺はエアリアの言う通り、傷口に空気を密集させてみる。
すると、流れ出る血はすぐさま固まり、徐々に傷口が塞がっていく。
「おぉ! 何か治っていくんだけど!」
あっという間にエアリアの傷口は塞がった。
「……出血も止まっているみたいですね。光魔法みたいに神々しくないですが、空気が自然治癒力を向上させているんでしょう!」
「……空気ってすごいんだな!!」
「ですね! でも、かすり傷程度なので、どこまで効力があるのか分かりません。ですが、これで防御と攻撃と回復のいずれにも空気操作が応用できるって事が分かりましたね!」
エアリアは満足そうに笑顔を浮かべながら話す。
「そうだね! 俺もこんなに空気操作が応用出来るなんて知らなかったよ。いろいろ教えてくれてありがとう!」
「いえいえ、私もこういった実験は大好きなので、とても楽しかったです!」
「……それじゃ、そろそろ日も暮れてくるし、村に戻ろうかエアリア」
「そうですね! 魔物が襲ってくるまで村で待機しておきましょう」
それから俺達は暗くなる前に村へと戻るのだった。
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