2 囚われの回復魔導士
妹を助けると言っても、何も情報が無くては始まらない。
俺は情報収集をするべく、人がいる場所を探していた。
「お……あそこに寄ってみるか」
中規模な村が見えてきたので、俺はその村へと歩みを進めた。
村に到着すると何やら人混みができていた。
「おぉ!! 人間が沢山いる……っ!!」
驚いているのもつかの間、大勢の人間の視線は祭壇に集まっていた。
俺も皆が見ている祭壇に視線を移すと、縛られている女性と神父が何やら話していた。
「あぁ! なんと嬉しい事でしょう! この勇気ある旅人が子供の身代わりとなり、私たちの村を守る為の生贄となってくれるなんて!」
「……生贄?」
俺は状況を確認する為に、近場にいた村人に話を聞くことにした。
「あの、すみません。これはどういう状況ですか?」
「……見ない顔だね。冒険者の方かい?」
「はい。そんなところです」
「そう。……いやね、私たちの村では魔物から村を守る為に定期的に幼い子供を生贄に捧げる儀式をしているのよ」
「儀式ですか? ……でも、今回は子供ではないようですが」
俺は祭壇で縛られている女性に視線を移しながら話す。
「そうなのよ! あなたと同じように村に立ち寄った女の子が子供の代わりに私が生贄になります! っていうもんだから、みんな大騒ぎなの」
「なるほど……」
生贄というものに俺も反対だが、それを阻止しようと自ら生贄になる事を志願した囚われた女性に俺は尊敬の念を抱く。
「ありがとうございます。それでは」
「あ、ちょっと!」
状況が分かった俺は、村人にお礼を伝え勢いよく祭壇へと走りだす。
――ダンッ!
祭壇に勢いよく飛び乗った俺は、声高らかに神父へ異議を唱える。
「その儀式、ちょっと待った!」
「な、なんだお前は!」
俺は神父の質問に答える前に、縛られている女性の縄を伸びた爪で千切り解放させる。
口に巻かれた布も解き、俺はニコっと笑顔を作りながら伝える。
「さ、もうこれで君は自由だ」
「……あ、ありがとうございます。あなたは?」
金髪の長い髪に緑色の目をした女性は、縛られていた魔導士の服を整えながら質問をしてくる。
「しがない冒険者さ」
すると、神父が血相を変えて物申してくる。
「な、何という事を! 儀式を台無しにするなんて……っ!」
俺は助け出した女性を背中で庇いながら神父に視線を向ける。
「台無し? そもそも、儀式をすること自体が間違っているだろう。何故、儀式なんてものをしているんだ?」
「冒険者には分かるまい、抵抗する術を持たない者が魔物に襲われる恐怖を!」
俺は村に来る前に数多くの魔物の相手をしてきたが、誰もが魔物に対抗できるわけじゃないって事か。
「要するに、その魔物から村を守ればいいって事か?」
「……へ?」
神父は一瞬ポカーンとしたのち、正気に戻る。
「いやいや、そう簡単に言うが……あのおぞましい魔物を見ていないから言えるのだ!」
「まぁ、まかせてよ。……それで、その魔物っていうのにはどうすれば会えるんだ?」
「……今晩、村に襲ってくるのだ」
神父は俯きながら答える。
「……割と早いんだな」
「あぁ。本来なら夜、生贄を祭壇に捧げて誰も外に出ないようにするのだがな」
「なるほど。……それじゃ今日はこの祭壇に俺が待機して待っているよ。……それでいいだろ?」
「なんと……お主が自ら生贄になり、おびき寄せるという事か?」
「その通りだ。悪くないと思うが?」
「……うむ」
神父は短く返事を返すと、群衆に体を向けて声高らかに話し出す。
「聞いたか皆の者!
「「「「うおぉぉぉぉぉ」」」」
神父が言い終わるや否や、群衆は声高らかに俺を称えた。
「うぉっ! ……なんかすごいな」
それから落ち着きを取り戻し、集まっていた人々は瞬く間に解散していった。
すっかり群衆も日常生活に戻ったようで、広々とした広場には俺と助け出した女性が立っていた。
「あ、あの……魔物を退治するっておっしゃってましたけど、大丈夫なのですしょうか?」
「ん? あぁ、大丈夫。なんとかなるよ」
「すごい自信ですね。……あっ!! 申し遅れました、私はエアリア・アランテルと申します。魔導士として修業の旅をしている者です」
エアリアと名乗る女性は丁寧にお辞儀をしてくる。
俺も自己紹介しようとしたが、本名をそのまま言うのも良くないと思い偽名を使う事にした。
「エアリア……うん、いい名前だね! 俺はアモンって言うんだ。よろしくね」
「アモンさんですね! 今回は助けて頂きありがとうございます。子供を守る為、生贄に志願したのはいいんですが、すぐに縛られるなんて思いもしなかったです。私もアモンさん同様に魔物退治しようと思っていましたから」
「そうだったのか。……確かに魔導士だと手足と口を封印されていたら何もできないもんね」
「あはは……その事を言おうとしても口を布で
エアリアは改めてお辞儀をしてくる。
「はは、お礼は十分伝わったから大丈夫だよ。でも、エアリアは優しいんですね。子供を守る為に自ら生贄に志願するなんて」
「いえいえ、私は当然の事をしたまでです!」
エアリアは両手を左右にブンブンと振りながら答える。
「それを言うならアモンさんだって優しいじゃないですか!」
「そうかな? 当然の事をしただけなんだけど」
俺はエアリアと同じような事を言っている事に気づき、お互いに笑い合う。
一通り笑いあった後、エアリアは俺の身なりを確認しながら質問をしてくる。
「……それはそうとアモンさん、生贄に志願したのはいいですが魔物を倒せる自信はあるんですが? 見たところ、武器などを持っていないように見えるのですが」
「あぁ、それなら問題ないさ。俺には空気操作っていうユニークスキルがあるからね」
「く、空気操作ですか!?」
想像以上に驚くエアリアに俺も少し驚いてしまう。
「そ、そんなに驚く事かな?」
「す、すみません。……でも、空気ってこの空間に漂っているモノで問題ないんですよね?」
「そうだね。みんなが日ごろから吸い込んでいる空気の事さ」
エアリアは俯きながら考える。
「……そうなると、いろいろ応用が出来るかもしれません」
「応用?」
「はい! アモンさんはその空気操作っていつもどのように使われているんですか?」
「そうだな……。襲ってきた魔物を気絶させるぐらいかな?」
「え!? それだけなんですか?」
「うん。あまり無暗に殺める事はしたくないからね」
エアリアはうんうんと
「アモンさん! 空気が操れるのならいろいろ実験をしてみたいのですが、少し村の外で試してみてもいいでしょうか?」
「う、うん。わかったよ」
何やらテンションの高いエアリアに流されて、俺達は村の外へと向かった。
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