優しい魔族の成り上がり~最強能力を持った魔族だけど、魔界を追放されたので何もないところから成り上がっていきます~

笹塚シノン

第1章 人間界への追放

1 優しい魔族 旅立つ

俺はデモンガ・ゴッゾ。

魔族だが、今は訳あって人間が生息している人間界を旅している。

眼前には広い緑が広がり、俺は気持ちよく空気を吸いながら歩いていた。


「すぅ……ふぅ。良い空気だ」


――ガサッ!

すると、道端みちばたしげみから何かが飛び出してきた。


俺の目の前には、鼻息の荒い四足歩行をした頭に角を生やす魔物がこちらに襲い掛かってこようと様子を伺っている。


「ふむ……どうやら通してはくれないようだな」


俺はそう呟くと眼前の魔物はよだれを口からたれ流しながら飛びついてきた。


「……やれやれ」


俺は飛びついてきた魔物の顔に手をかざしながら避ける。

振り返ると、魔物はその場で崩れ落ちていた。


「――やはり、空気と言うものはとても大切なんだな」


俺は魔物の近くまで歩み寄り、魔物に施したスキルを解除する。

手足を震わせながらとても苦しそうだった魔物は、落ち着きを取り戻して気絶をしていた。


「……まだ、生きてるよな。あまり乱暴はしないようにしてくれよ」


俺はそう言い残すと、視線を前に戻して再び歩き始めた。




――俺には空気操作というユニークスキルがある。

魔族以外の種族は全て空気を体内に取り込み生命活動を維持している。


……すなわち、その空気を体内に取り込むことを阻害すると容易に生命を終わらすことができるという事だ。


「……こんな力があっても、妹を救えないんじゃ意味がないよな」


俺の旅の目的……それは勇者に捕まってしまった妹、アイネを助けにいく事だ。




――時は少しさかのぼる。


子供の頃、家でお父さんに聞いた事がある。


「お父さん! 何で人間って皆から嫌われているの?」

「デモンガ、人間はとても優しい種族なんだ。だから闇雲に嫌ってはいけないよ」


お父さんは優しい笑顔を浮かべて答える。


「そうなんだ! でも、お父さんは人間に会ったことがあるの?」

「あぁ、もちろんさ。あの時の恩は今でも忘れないよ。ママと今もこうして居られるのも人間達のお陰なんだ」


お父さんはそう言うとお母さんの方へ視線を向ける。


「ふふ、そうね。デモンガやアイネが私たちの子供として生まれてきてくれたのも人間達のお陰だもの。感謝しなくちゃね」

「ママー! 私も人間達に会ってみたいな!」


アイネはお母さんの足元にしがみ付き、ピンク色の長い髪をなびかせて青い瞳をお母さんに向ける。


「そうね。アイネが優しい子でいてくれたらいつか会えるわよ」

「うん!! アイネ優しい子になる!」


素直なアイネはお母さんに宣言する。


「お父さん! 僕も優しい子になれば人間達に会えるかな?」

「あぁ、いつかきっと会えるさ!」


両親とそんなやり取りをしながら俺達は幸せな日々を過ごしていた。


……だがそれからしばらくした後、危険思考の持ち主とされてしまい両親は魔王によって無残にも殺されてしまった。

魔界では人間を虫けらのように思えと教育されていたのだ。




残された俺とアイネは、まだ子供ということもあり生き残されたが……酷く迫害はくがいされる生活を余儀よぎなくされた。

ある日、憎たらしい魔王の息子であるサタニアと取り巻きに俺は嫌がらせを受けていた。


「ははは、無様だなデモンガ! 悔しかったらお前の空気操作を使って俺達に仕返ししてみろよ!」

「……っ!」


俺は歯を食いしばりながらサタニアの挑発に乗らないようにそっぽを向く。


「ふん! 俺達魔族にはマナの供給さえあれば生きていけるんだ! ……空気なんて操作されても全く意味ないんだよ!! ハーっハハハ!」


サタニアや取り巻き達から俺は盛大に笑いものにされてしまう。


「糞の役にも立たないスキルを授かったのも人間なんぞに肩入れする親の質が悪かったんだろう! 出来の悪い親を持つと苦労するものだなデモンガ!」


俺は一瞬ムッとなり言い返す。


「両親の悪口を言うな!!!!」


だが――


「バカめ!! たいしたユニークスキルもないくせに、このサタニア様に歯向かうな!! お前も人間が好きならこうしてやるよ!」


――ボキッ!

サタニアと取り巻きにとって俺は魔族の象徴である角を折られてしまう。


「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


俺は痛みでその場にもだえ苦しむ。


「これでお前も人間と見分けが付かなくなったというものだ! 本当に無様だなデモンガ!! ハーッハハハハ!」


サタニアは俺を見下して高らかに笑っていると、遠くから声が聞こえる。


「兄さんをいじめるなーー!!!」


視線を声の方に向けると、大声で上げながら俺達に駆け寄ってくるアイネだった。


「ゲッ! アイネが来た! 逃げるぞお前ら!」


サタニアはそう言うと、取り巻きとどこかへ走って逃げていった。

手にこん棒を持っていたアイネは俺に駆け寄る。


「兄さん大丈夫!? すごい血だらけだけど……」

「……うぅ、サタニア達に角を折られてしまってな」


アイネはサタニアが消えた方向を向きながら歯を食いしばる。


「何てひどい事をするのかしら! 今すぐ仕返ししてやるんだから!!!」

「アイネ!! ……俺は大丈夫だから……あまり乱暴するんじゃない」

「――でもっ!」

「ありがとう、俺の為に怒ってくれて」

「兄さん……」


アイネは俺の言葉で戦意を無くしたようで、2人で家へと帰ることにした。




アイネは両親が魔王に殺されてからは、俺と同様に周りから迫害を受けて過ごす様になった。

だが、そういった状況を払拭ふっしょくするように周りに強気で立ち向かうようになり、血気盛んな女性へと成長していた。


「アイネ、いつも言っているが……あまり乱暴な事はしないでくれよ」

「わかってるわ……。でも、何で兄さんはいつもやり返さないのよ!」

「……俺が我慢すれば済むからな。あまり相手に危害を加えたくないんだ。それに、俺のユニークスキルじゃ何も抵抗できないしな」

「確か……空気操作だっけ? 魔族の私たちじゃ空気は必要ないものね」

「あぁ。それに比べてアイネは何でも持ち上げる事が出来る怪力があるんだ。その力をもっと守る為に使ってほしいな」


アイネはニカっと笑う。


「ふふん! 今もこうして兄さんを守ってみせたわ! 安心してね。これからも兄さんは私が守るんだから!」

「はは、いつも悪いなアイネ」


それからも俺はアイネと迫害はくがいされながらも2人でささやかな幸せに感じながら過ごしていた。




そんな日々を過ごしていたある日、魔王の意向により人間界へ攻め込むという話が魔界全土に広がった。

当然、力の強いアイネにもその話は伝わり人間界の攻略部隊に志願したのだ。


「アイネ! 人間界に攻め込む部隊に志願したって本当なのか!?」

「えぇ! 私たちをこんな迫害を受けたのも人間達のせいだからね!」

「そんな……でも、アイネが決めたことだからな。俺に止める権利はないよ。……でも、あまり無理はしないでくれよ」

「当たり前じゃない! 絶対に結果を残してくるから期待して待っててね兄さん!」


そういって元気よく笑顔で答えるアイネを俺は見送った。




……だが、残酷にも俺に届いたのはサタニアが逃げる時間稼ぎの囮にアイネが利用され、人間界で勇者に捕まったという知らせだった。

――サタニアによって大切なアイネまでも失ってしまったと思った俺は魔王城へと駆け出していた。




魔王城に着いた俺は出せる限り限界の声で叫ぶ。


「サタニア!!!!!」


俺は城内に響き渡る声でサタニアの名を叫ぶ。

すると、サタニアが俺の前に姿を現す。


「うるさいぞデモンガ!! 汚らしい足で城内を汚さないでくれるかな?」

「……よくもアイネを!! 許さない!」

「ふん、何かと思えばそんな事か。むしろ喜んで貰いたいものだ。私が生き残る為にアイネは犠牲になった……そう、私の役に立ったのだからな!」

「……こいつっ!」


理不尽な物言いのサタニアに俺は怒りが決壊けっかいしそうになりながらも睨みつける。

すると、奥から魔王が姿を現した。


「これはなんの騒ぎだ」

「父さん、騒がしくしてすみません。デモンガが父さんの人間攻略について異議を申し立てて来たんです」

「……なっ!」


サタニアは魔王に平然と虚言を吐き、俺をおとしいれようとしてくる。


「ふん、やはり親の子……という事か。あの時、処分しておくべきであったか……だが、今悔やんでも仕方がない。今この手で手を下す事が出来るのだからな!」

「ま、魔王! 一体なにを!」


魔王は俺に手をかざす。


「すぐ殺してもいいが……それでは芸がない。今、攻め込んでいる人間界で野垂れ死ぬがいい!!」


すると、魔王と俺の中間に渦巻状の時空の歪みが発生する。

次の瞬間、歪みに俺は吸い込まれてしまう。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


俺は渦巻状の時空の歪みに入り込むと視界が暗転し、周りが見えない漆黒の世界をものすごい速さで移動する。

眼前には徐々に光が広がって光が俺を包み込んでくる。


――ドサッ!

「いでっ!」


俺は思いっきり地面に叩きつけられた衝撃を受ける。

体を起こし体に異常がない事を確認すると周りを見渡す。


「ここは……人間界……?」


そこには緑が広がる世界があった。

……俺は人間界へ追放されてしまったのだ。


「……アイネ」


俺は大切な妹の名前を呟くと同時に、アイネが人間界の勇者に捕まった事を思い出す。


「……そうだ! アイネは人間界にいる勇者に捕まったんだ。……まだ、勇者に捕まっただけで生きているかもしれないんだ! ……助けに行こう。アイネを助けに行くんだ!!!」


それから、俺の妹を助け出す旅が始まった。

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