ex.3 藤川雅の休日③

「ふぅー、やっぱり生クリームは最高っす……」


「あの暴力的な量を食べきるとか正気じゃない……」


 注文をしてしばらくすると、テーブルには見たこともない量の生クリームが盛られた、おおよそパフェと呼ぶか迷ってしまう物体が運ばれてきた。

 僕はそれを見るだけで胸焼けしてしまいそうだったが、雅はなんのためらいもなくそのパフェを完食してしまったのだ。


 恐るべし雅の胃袋。そのカロリーを消費させるため、練習メニューを改める必要があるななんて僕はクリームを頬張る雅を見ながら考えていた。


「ちなみにこのパフェは完食すると写真を撮って飾ってもらえるっす」


「まるで激盛りのラーメン屋みたいだな……」


 パフェの容器を下げに来た店員さんが、持ってきたポラロイドカメラで雅を写そうとする。すると、こんなことを言い始める。


「ほら、彼氏さんも一緒に写りませんか? せっかくの記念写真ですし」


「か、彼氏じゃないですから!」


 店員さんのわかりやすい誤解に、僕もわかりやすく動揺する。

 確かに休日に男女ペアでカフェに来るなんて、やっていることは恋人のソレだ。まさか店員さんもサヨナラホームランが打てなかったからパフェを食べに来ているとは思うまい。


 ただ、僕の一言に対する雅の反応が少し意外だった。

 こういうとき、雅なら同調して「そんなわけないじゃないっすかー、ただの主従関係っすよー」なんて茶化すように言うはずなのだが、珍しく何も言おうとしない。


 生クリームの食べ過ぎで血糖値が上がってしまいそれどころじゃないのだろう。満腹になると思考が回らなくなるのはよくある。


 結局、店員さんの言われるがままに雅をとのツーショット写真を撮られてしまった。この生気のない目をした僕が店内に飾られるのは、ちょっとした公開処刑に近いものがある。


「雄大くんは、休みの日になにかやりたいことはないんすか……?」


「突然どうしたんだ? 別にやりたいことなんてないよ。強いて言えば、対戦相手のデータまとめとか映像に目を通したりかな」


「完全に監督業に染まっちゃってるっすね。さすが遺伝子レベルで野球バカっす」


「雅、ナチュラルに失礼なことを言うよな……」


 前言撤回。なんか雅の様子が変だなと思っていたけど、そんなことはなかったみたいだ。


 僕はひとつため息をついて、残り少ないアイスティーを飲み干した。パフェを食べきったわけだし、ここに長居する理由はない。そろそろ帰ろう。


 お会計を済ませて帰ろうと店を出ると、雅は何故か僕のシャツの裾を掴む。


「……今日はまだ、帰りたくないっす」


 急に雅は上目遣いで僕を見つめてくる。そんな顔をされたら、さすがに僕も取り乱してしまいそうだ。


「み、雅……?」


「……って、男子は女子に言われたいんすよね?」


「からかうつもりなら帰る」


 本気にはしていなかったが、やっぱりその上目遣いは雅のおふざけらしい。僕じゃなかったら引っかかっていたところだ。危ない危ない。


「まあまあ、そうカタいこと言わないでほしいっす。ちょっと他に寄りたいところがあるんすよ」


「寄りたいところ?」


 雅はまた僕の手を取って、その『寄りたいところ』へと引っ張っていった。


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野球を辞めた僕が、女子高校野球界で名将と呼ばれるまで 〜まずはそこの万年補欠を代打の切り札に育ててみせましょう〜 水卜みう🐤青春リライト発売中❣️ @3ura3u

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