ex.2 藤川雅の休日②
待ち合わせ場所である駅前の広場に着く。
まだ約束時刻の15分前であるにも関わらず、そこには藤川雅が立っていた。
普段、制服かジャージかユニフォーム姿の雅しか目にしない僕は、その彼女の格好に少しドキッとした。
黒のハーフパンツにライトパープルのフーディ。真新しいコンバースのハイカットスニーカーが目立っている。
元気っ子の雅らしいといえば雅らしいのだけれども、意外にも脚の露出度が高くて思わずそこに視線が行ってしまいそうだった。
「遅いっすよ雄大くん! マイナス15分の遅刻っす」
「それは遅刻とは言わないんだよなあ……。むしろ時間をきちんと守る意志を見せているんだけど」
「私より遅く来たらそれはもう遅刻っす。監督たるもの、選手より早く来ないと」
「……せめて休日くらい監督業を忘れされてほしいもんだ」
僕は肩をすくめてそうつぶやく。
いくらボヤいたところで、パフェまっしぐらになっている雅には届きやしない。
「それで? パフェのお店はどこなんだ?」
「この近くっす。案内するんでついてきてくださいっす」
雅は嬉しそうに僕の手を引っ張って案内を始める。かなり前のめりに歩みを進める雅と歩調が合わず、僕はつんのめりそうになった。
「ちょっ……、ちょっと待て、そんなに慌てなくても……!」
「善は急げっす! 早くしないと売り切れになっちゃうかもしれないっすから!」
「売り切れって……、そんなに人気のパフェなのか?」
「それは後で説明するっす! いいから早く行くっすよ!」
僕の意向など完全無視で雅はお店へと爆進する。
でも、まるで子どものようにはしゃぐ雅の姿は、何故かそんな横暴さを許してしまえそうな気持ちにしてしまうのだ。
彼女がうちのチームのキャプテンである理由は、こういう憎めないところにあるのかもしれない。
しばらく雅に引っ張られていると、とあるお店の前で足が止まった。
最近オープンしたらしいおしゃれなカフェだ。店の外にもパンケーキか何かの甘い香りが漂っていて、雅でなくても吸い込まれてしまいそうになる。
「ギリ並ばずに入れそうっすね。あと15分遅かったら行列でお預けくらうところだったっす」
「その15分遅れた時刻を待ち合わせ時間に指定してきたやつがよく言うよ……」
入口の扉を開けると、店員さんがにこやかに案内をしてくれた。
窓際の明るいテーブル席へ通されると、雅はメニューを開くまでもなく注文を告げる。
「スペシャルデラックスイチゴチョコレートパフェのクリーム増し増しコーンフレーク抜きで!」
「そんなバカな注文があるかっ!」
思わず僕はツッコミを入れてしまう。
スペシャルデラックスパフェというテキトーなネーミングはまあ良しとしよう。問題はその後だ。
クリーム増し増しなんて言うのはもはやラーメン屋でのコールであって、おおよそこんなおしゃれなカフェに似つかわしいものではない。
おまけにコーンフレーク抜きときた。パフェのコーンフレークはお店が利益率を上げるためにシメシメと思って入れている言わばかさ増しだ。
それを抜くという注文が出来るのであれば、ある意味でパフェ界の革命とも言える。
「――かしこまりました。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
なんの動揺もなく店員さんがそう答えるので、僕は慌ててメニューを手にとって申し訳程度の一品を頼む。
「あ……、アイスティーをひとつ。ストレートで」
かしこまりましたとにこやかに答えた店員さんは、颯爽と厨房へ消えていった。
ひと呼吸置いてから、メニューに書いてあるスペシャルデラックスパフェの値段をチラ見する。
もちろん、めっちゃ高かったのは言うまでもない。財布の中身を事前に確認しておいて助かった。
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