閑話 藤川雅の動揺

 こんばんは、藤川雅っす。


 日進女子との練習試合が決まって、雄大くん――もといゆう子ちゃん、サーヤ、杏里と偵察に行ったっす。


 さすが県内女王の日進女子、2軍とはいえレベルが高くて驚いたっすね。中でも私達の同世代で注目株だった広幡ひろはたともの投球には、敵ながらあっぱれと言わざるを得ないっす。


 翼ちゃんほどではないっすけどそこそこ早いストレートとキレの良いスライダーがあって、それを絶好調のときの杏里並にビタビタの制球で投げてくるもんすからたまったもんじゃないっす。

 試合の相手は去年のベスト16だったのに、あっさり完封しちゃうんすから。


 週末の試合でも間違いなく私達に立ちはだかってくるっすね。雄大くんはどういう作戦でいくか見ものっす。



 ――話は変わって。


 やっぱり雄大くんは監督ではなく選手としてグラウンドに立ちたがっているということがわかってしまったっす。


 何故わかったかって?


 さっき雄大くんがグローブを取りに行っている間、私はノートパソコンを雄大くんのカバンにしまおうとしたっす。

 すると、彼のカバンの中には隣県の高校の入学案内と男子野球部の紹介パンフレットが入っていたっす。


 これは他でもなく、雄大くんが他校へ転校してまた選手としてやり直そうとしている証拠。

 転校してしまうと1年間公式試合に出られないペナルティが課せられるっすから、転校するなら1年生のうち――それも夏の大会が始まる前に転校するのが彼にとっての最善策といえば最善策っす。


 そうなると、もう私達には時間が無いっす。


 おそらく言葉で説得しても効果は薄いと思われるっす。だからなんとしても明日の試合に勝って、うちのチームが強豪校とも渡り合えるぐらい強いと雄大くんに認識させるしか彼の転校を防ぐ方法は無いっす。


 パンフレットを見たショックで思わず逃げてしまったっすけど、やっと気持ちが落ち着いてきたっす。


 私は、まだまだ雄大くんと野球がやりたいっす!

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