第12話:ゴブリンにボコられる勇者。
「ふぅ、一時はどうなる事かと思いましたがもう大丈夫そうですね。聖女様、クラマ殿を部屋まで連れて行くのは……任せて大丈夫ですか?」
一人残っていたエイムさんの言葉に頷き返すと、「クラマ殿、もう無理はいけませんよ」と一声かけて城へ戻っていった。
「ほら、立てる?」
「あ、あぁ……大丈夫だ。驚くほど身体が軽い。一人で立てる」
……まったく、こういう時くらい手を貸してあげたいのに。
クラマは僕の差し出した手を掴もうか一瞬悩んで、結局一人で立ち上がった。
「何がどうなってこうなったのか詳しく説明してもらうからね?」
「……ああ」
二人で部屋に向かって歩きながら、僕は思い出したようにクラマの背中をべしべし叩いた。
彼は何も言わず甘んじてその攻撃を受け続け、部屋にたどり着く。
お互いベッドに腰かけて二人とも大きなため息をついた。
「はぁ……それで? 朝早起きして出て行ったのはなんで?」
「……まず最初に謝っておく。すまなかった」
「それはもういいから説明して。許すかどうかはそれから考えるから」
クラマは頭をくしゃくしゃと掻きながら話し始める。
「理由はさっきも言った通りだよ。あれだけの力が目覚めたのなら一人でなんとかしてやるって思ったんだ。何も言わずに出て行ったのは正直悪かった。腕試しに近場の魔物と戦ってくるだけのつもりだったんだ」
「……一人で旅に出ようとしたわけじゃないんだね?」
「それは……いつかはそのつもりだったが、今回は訓練の一環のつもりだったさ」
どこまで本当かわかったもんじゃない。
闘ってみてイケるって思ったらそのまま魔王の所まで向かってた可能性だってあると思う。
「それで、なんであんな大怪我したの?」
「それが……街から少し離れた場所に洞窟があって、その中から何者かの気配がしたんだ。魔物の巣かもしれないと思って中を覗き込んだら……」
クラマの話を要約するとこうだ。
彼はその洞窟を覗き込んで、魔物が一匹だけなら戦ってみようと思った。
だけど実際は小さな緑色の魔物が沢山居たらしい。人型をしていて棍棒みたいなのを持ってたり、剣や槍を持ってるのもいたそうだ。
多分それはゴブリンだと思う。リィルさんと話した時にゴブリンがこの世界にもいると確認済みだ。
クラマはさすがに分が悪いと思いその場を離れようとしたが既にゴブリン達に気付かれてしまっていて、数十匹のゴブリンに追いかけまわされた。
ある程度振り切り、林の中へ逃げ込んだ時には残り四匹しかついてこれてなかった。
ゴブリンにも足の速いやつや遅い奴がいる。
この人数なら戦えると判断して襲い掛かったはいいものの、何故か力がまったく発動しなかった。
一匹と戦っている間に残りの三匹に背後から打ち据えられ、そこから先は四匹が気が済むまでクラマをボコボコにしたらしい。
追いついてきたゴブリンが剣など、殺傷力の高い武器を持っていなかったから運よく生きて帰れたんだと思う。
とにかく、彼は気を失い、目が覚めたら全身傷だらけで意識も朦朧としていた。
なんとか障壁の中まで引き返そうと力を振り絞ったけれど、街にたどり着いて城の前で力尽きて倒れてしまった。
そういう事らしい。
「クラマ……僕の言いたい事分かる?」
「……すまん」
「あのね、追いかけてきたゴブリンが刃物持ってたら死んでるよ? そうじゃなくても人肉を食べるような魔物だったら食い殺されてる。帰り道に他の魔物に襲われたかもしれない」
「……」
「今クラマが生きてるのは本当に運が良かっただけだからね? 僕が治さなかったら死んじゃってたんだからね……?」
「なに? では俺の傷を治したのはユキナなのか?」
「そうだよ! あんなことまでして……」
思い出すだけで顔が熱くなる。
「あんな事、とはなんだ……? 何か無理をしたんじゃないだろうな?」
「な、なんでもない! なんでもないからっ!」
「なんでもない事あるか。俺の為にユキナに無理をさせたのだとしたら……悔いても悔やみきれん。自分の無謀さを呪うよ」
無謀さを呪うのはどうぞやってほしい。
でもこっちの話は気にしないで忘れて下さいお願いします。
「ほんとにそれはいいから、気にしないで。それより……力が出なかったってほんと?」
「あぁ。あれだけ身体に力が漲っていたのが嘘のように何もできなかった。勿論普段通りの動きは出来るが、それだけだ。複数を相手にするのも初めてだったので不覚を取った……不甲斐ない」
確かに剣道とかじゃ基本的に一対一だもんね。
クラマはガラの悪い連中と殴り合いの喧嘩とかする感じじゃないし。複数相手に慣れて無かったならゴブリンに負けちゃうのもしょうがない。
しかもクラマは普通の人間としての力しか出せなかった訳だし。
「なんで力消えちゃったんだろ……?」
「わからん。俺の力はどうやら何か制限がついているのかもしれない。この謎を解明しない限り旅に出るのは難しいな……」
確かにそうだ。
自在に力を扱えるようにならないと旅に出るどころじゃない。
勿論それは僕にも同じ事が言えるわけで……。
もっと真剣に魔法の練習をしなければ。
「……そう言えば、ユキナは笑うかもしれないが気を失っている間にお前とキスをする夢を見たよ」
「ぶふーっ!」
盛大に噴き出してしまった。
「なんだ? そんなに変な事か? 死にかけてる時に幸せな夢を見てしまうというのはよくある事らしいぞ?」
「そ、そう……なんだ?」
起きてた訳じゃないんだよね? ほんとに夢の話してるんだよね?
「勿論夢の中のお前はそんな身体じゃ無かったけどな」
そう言ってケラケラ笑うクラマに腹が立って、無意識に、ノータイムで枕を投げつけていた。
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