第11話:転機と呆れ顔。
「クラマっ!! クラマ、どうしたの!? 何があったの!?」
「聖女様、落ち着いて下さい!」
兵士たちが僕を落ち着かせようとするけど落ち着いてられるわけないじゃんか!
「何があったのか分かる人教えてよっ!!」
「そ、それが……勇者様が障壁の向こう側から現れて……ここにたどり着いた時には既に大怪我を……」
どうやらクラマは一人で隔離範囲の外へ行き、何かがおきて……大怪我をしてここまで引き返してきたみたいだ。
「みなさん、どいて下さい! 回復魔法をかけます!」
リィルさんとは違い、白いローブを身にまとった魔法使いが三人ほど慌てて駆け付け、クラマに回復魔法をかけ始める。
兵士たちが魔法兵団の救護班へ連絡してくれていたらしい。
「……どう? なんとかなりそう?」
「……分かりません。傷が深く、間に合うかどうか……!」
間に合うかどうかってどういう意味?
間に合わないかもしれないって事?
間に合わなかったらどうなるの?
クラマ死んじゃうの……?
それはダメだ。
「おいクラマ! 僕を元に戻すんでしょ!? 何やってんのさ! こんな所で死んだりしないよね!?」
「聖女さま! 落ち着いて下さい。今必死に……」
「何が聖女だよ! 僕なんか何もできない……聖女だってもてはやされていい気になってるだけじゃないか……」
ヒスってる。分かってるよ。そんな事分かってる。皆が僕を見る目が痛い。
聖女なのに何もできないから? 聖女って何?
なんのための聖女なの?
ここでクラマを助けられないならなんの意味も無いじゃないか。
「何もできない事などありませんよ。聖女様」
優しい声に振り替えるとリィルさんが優しく微笑んでいた。
「リィルさん! クラマが! クラマが……」
「ええ、分かっています。ですから彼を助けましょう」
そう言ってリィルさんが僕の手を取る。
「お願いします! クラマを助けて……」
「彼を助けるのは私ではありません。貴女がやるのです」
「僕が? でも僕は回復魔法なんて……」
「私が教えます。貴女なら、出来ます」
なんでだろう。回復魔法なんてやった事ない。
できるわけない。
そう思うのに、リィルさんが優しく頭を撫でてくれるだけでなんだか出来る気がしてくる。
「……分かりました。お願いします」
「いい眼です。ではこちらへ」
リィルさんは僕の手を引いてクラマの前に屈むと、「私と同じように」と囁いた。
僕は彼の真似をするようにクラマの身体に掌を当てる。
「貴女の魔力ならば必ずできます。いいですか? 私に続いて下さい。まずは傷を治すという強い意志、彼の普段の姿を思い描いて」
心を落ち着かせて、リィルさんの言う通りにする。
言葉が悪くていじわるなクラマ。
だけど本当は優しくて、いつも僕を助けてくれるヒーロー。
そんな彼の姿を思い浮かべる。
「そう、その調子です。では次に掌に魔力を集中させて下さい。くれぐれも冷静に、そして自然体で、ですよ」
自然体で……。今日教えてもらったばかりだ。
出来る。僕は出来る。気負い過ぎないで、だけど気を抜かずクラマを癒す事だけを考える……。
やがて掌が温かくなって、僕の手からクラマの身体に光が移動していく。
「……素晴らしい。貴女の気持ちが本物という証拠ですね……悔しい気持ちもありますが今は貴女の想いが頼りです。さぁ、彼に口付けを」
く、口付け!? なんで?
「貴女が今発動している魔法は最高位の回復魔法です。それは祈りの口付けにより完成する魔法。いいですか? 落ち着いて。大丈夫です。彼は助かります」
……そうだ。今はつまらない事で悩んでる暇なんて無い。
僕は光り輝くクラマの身体をじっと見つめ、そして顔を近付け……ありったけの想いを込めてクラマにキスをした。
クラマの身体を包んでいた光が細かい粒子になって空中に霧散していく。
「……えっ、失敗……?」
「いえ、よく見て下さい。成功ですよ」
クラマの身体から光が完全に消え、その身体からは完全に傷が消え去っていた。
「……もう、大丈夫……なの?」
「えぇ、よく頑張りましたね」
そう言ってリィルさんが僕の頭を再び優しく撫でた。
「リィルさん、僕……僕……」
「それと……一つだけ納得がいかない事がありましたので言わせて頂きますね?」
えっ、今そういうのいらなくない?
頑張ってクラマの事治したのに……何が納得いかないっていうんだろう。
「先程口付け、と言いましたが、それは手の甲とか、身体の一部で良かったんです。まさか口にするなんて……」
「えっ、えぇぇぇぇ!? なんでそういう事早く言ってくれないの!?」
「私達の世界の常識です。まさか突然キスするなんて思いません」
リィルさんはなんだか少し不機嫌そうにむくれている。
そんな、普通口付けって言われたらキスだと思うじゃん! こんな時に世界感の違い出してこないでよ!
ファーストキスだったのに!!
相手がクラマだったからまだよかったけど……。だけど、こういうのってもっと大事っていうか、雰囲気のある時にさぁ……。
「う、うぅぅ……」
その時、クラマがうっすらと目を開けた。
「お、俺は……生きてるのか?」
「クラマの馬鹿! なんで僕を置いて一人で行ったりしたのさ!」
「す、すまん……俺だけで解決できればお前を危険な目にあわせる事も無いと……」
「ばかっ!!」
それでこんな大怪我してたら意味ないじゃんか。
「僕の為にクラマが傷付くのなんて嬉しい訳ないじゃんか……」
「お前、泣いてるのか……?」
「泣いて悪いかっ!!」
僕は涙を止める事が出来なかった。次から次に溢れてきて、みんなが見てるのに、恥ずかしいけどどうしようもなかった。
人前で泣くなんて子供のころ両親が事故で無くなった時以来だ。
「もう、こんな涙流させないでよ……」
「……あぁ。すまなかった」
そう言ってクラマが僕の涙をその綺麗な指で拭う。
「あの、私達もう城に帰っていいですか?」
さっきまで優しかったリィルさんが呆れたような声をあげる。
彼は「やれやれ……これ以上は見てられません」とぼやきながら兵士や魔法使いを連れて引き上げていった。
「リィルさん! ……ありがとう。本当に、ありがとうございました!」
去っていく背中にそう声をかけると彼は振り向きもせず軽くこちらに手を振って、そのまま城の方へと消えていった。
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