第13話:あまりに酷い。

 

「ほんとに何がきっかけなんだろー?」


「だからそれをいろいろ試してるんだろうが……」


「上手くいかないからって僕にイライラしないでよ」


「む……すまない」


 あれから一週間ほど経過しているけれど、クラマの力がどうしたら発動するのかは分からないままだった。


「……ユキナと一緒に居る時に発動していたからずっと一緒に居れば何か分かるかと思ったが……意味がなさそうだ。それなら一人でいろいろ試してみるさ」


「えっ、ちょっと待ってよ! クラマってばーっ!」


 その日からクラマとは完全に別行動になってしまった。

 最初に修行をしていた頃と同じってだけなんだけど、なんだか寂しい。


 そして分からないままさらに一週間が過ぎた。


「すいません。今日は少々用事があるので修行はおやすみでも構いませんか?」


 ある朝、早くにリィルさんがそれを言いに部屋までやって来た。


「……今日はどうするんだ?」


 リィルさんが帰った頃、のっそりとベッドから起き上がってきたクラマがそんな事を言うのでちょっと悩んだ末、いつも通りにする事にした。


「うーん、僕ももう結構魔法の制御うまくなってきたし、一人で練習しにいこうかなって」


「……そうか。気を付けろよ」


 まだ寝ぼけているのか目を細めてぼけーっとしているクラマがちょっと可愛かった。


「そうだ、まだどうしたらいいか見当ついてないんでしょ? だったら今日くらいたまには付き合ってよ♪」


「……ん? 付き合う? 俺と、お前が?」


 やっぱり寝ぼけてる。


「今日の僕の修行に付き合ってって言ってるの!」


「ん、あぁ……そうだな。たまには、いいか」


「そうと決まれば早速レッツゴー♪ ささ、早く着替えてっ」


 催促してもクラマはまだ頭がはっきりしてないらしく頭を押さえてフラフラしていた。


「しょうがないなぁ。着替えないなら僕が着替えさせてあげるよ♪」


 そんな冗談を言っても「あぁ、頼む……」とか言い出すからほんとにクラマのパジャマをひん剥いてやった。


「おぉ……しばらく見ない間に大分逞しくなったね!」


「それはそうだ……毎日俺だって……ん、おい! お前何やってんだ離れろ!!」


「今更ぁ? 別にいいけど起きたんなら早く着替えてね?」


「わ、分かったから……。少し待ってろ」


 クラマが着替え終わるのを待って裏庭の方へ向かう。



「……もう大分上達したのか?」


「気になる? ちょっとそこで見ててよ♪」


 僕はクラマに自分の力量を見せる為、的に向かって各種魔法を放っていく。

 ウォーターボール、アクアショット、メイルシュトローム。

 ウォーターボールは水の玉を打ち出す魔法、

 アクアショットはもう少し威力重視で、水の槍を放つ魔法。

 そしてメイルシュトロームは、簡単に言えばプールいっぱいくらいの水を物凄い勢いで相手にぶつける魔法。


 魔法の威力に驚くクラマが面白くて次は火属性の魔法を一通り、そして雷魔法を……と続けていき……ちょっと無理をしすぎたんだと思う。


 まだ成功した事のない複合魔法を試してみた。

 クラマが見ている前なら出来る気がしたのもあるし、彼にすごいと褒めてもらいたかったのもある。というか大体メインの理由は後のやつだけど。


 そんな邪な事を考えていた罰が当たったのかもしれない。


 リィルさんにもまだ止められてたのに。

 今なら出来る気がして、つい試してみたら制御が聞かなくなって暴発してしまった。


 あの聖女の噴水みたいな感じで足元の地面が勢いよくどーん! ってなって僕の身体は宙を舞う。


 全てがスローモーションになって、自分の身体がぐるぐる回りながら落下していくのが分かった。


 あー、これ死ぬかも。

 そう思った時、突然身体の回転が止まる。


「お前は何をやっているんだ! 今のはこういう魔法じゃないよな!?」


 どうやら僕はクラマに抱きかかえられているらしい。お姫様だっこというやつだ。これはさすがに照れる。けど嬉しい。


「ご、ごめん失敗しちゃった」


「あの高さから落ちたら普通死ぬぞ!? 俺が居たからいいようなものの……」


「えっ、っていうか何これどういう事?」


「分からん、俺に聞くな」


 僕は今クラマに抱えられていて、そして……。


「うわぁ……すっごい良い景色だね!」

「そんな事言ってる場合か……でもお前らしいな」


 クラマはそう言って笑う。


 クラマは、普通の人間では考えられない程の跳躍をして空中で僕を抱き留めてくれた。

 そして、まるでジェットコースターが一番上まで登って一気に落ちるみたいに僕達も落下。

 めちゃくちゃ怖かったけどクラマは何てことないように着地。僕の身体はほとんど振動を感じなかった。


「……できるじゃん」

「あぁ、そうみたいだな」

「……クラマ、その、ありがとうね」


 僕も怖くてクラマの身体にしがみ付いていたせいで、顔がとても近い。


「クラマ……」


 ぺいっ。


「いてっ!!」


 あっさりと投げ捨てられた。あまりに酷い。


「ちょ、それはないんじゃないかな!?」


「す、すまん……悪気があったわけじゃないんだが……その、無理」


「もう! ……でも、なんでまた力が出たのかな?」


 放り棄てられた時に思い切りお尻を打ったので痛い。

 さすりながら立ち上がると、クラマはじっとこちらを見ていた。


「まさか……とは思うが、お前に危険が迫った時にしか発動しないのか……?」


 あっ。

 そう言えばその前の時も魔物に襲われてた時だった。


「そうかも! だとしたらやっぱり一人で行くとか無理じゃん馬鹿じゃん!」


「むぅ……もしそうだとしたらなんと使い辛い能力なんだ……」


「どうする? もう一回試してみる?」


「馬鹿野郎。わざわざお前を危険な目にあわせる訳ないだろうが。今日はここまでだ」


 ……もう一回助けてくれればいいじゃん。

 それに発動条件がちゃんと分ってた方が今後の予定も考えやすいのに。


 二人で城に戻る間中、僕は考えていた。

 十中八九発動条件はそれで合ってると思う。

 でもクラマは僕が危険な目にあうような実験は絶対やらせてくれないだろう。


 だったら、無理にでも試すしかない。

 中庭に到着した時、僕は行動に移した。


「クラマ、ちょっとここに居て」


「おい、どこへ行くんだ」


「待ってて。そこに居てね、絶対だよ!」


 そう言って僕は城の中に入り、中庭を見渡せるバルコニーへ。


「おい、なんのつもりだ」


 下からクラマの声が聞こえる。


「こういうつもりだよっ!!」


 一気にバルコニーの手すりによじ登り、そこから飛び降りた。


「なっ、馬鹿かお前は!!」


 クラマが鬼の形相で、すぐさま僕を受け止めた。

 バルコニーからすぐの所で。


 そして地面に着地。


「ほら、やっぱりそうじゃん。これで確定だね♪」


「お前なぁ……無茶しすぎだ馬鹿」


「やっぱりクラマは僕のヒーローだったね」


 彼の力の発動条件が分かって高揚していたのもあったし、吊り橋効果的なものもあったんだと思う。

 それでちょっと僕はおかしくなっていて、すぐ近くにあるクラマの顔を見ていたらキスしようとしてしまった。


 ぺいっ。


 再び地面に放り棄てられる。


「……あまりに酷い」


「す、すまん」


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